第464話
肉を食べ終えた俺たちは、すぐに簡易テーブルや椅子を片付けて南へと歩き出した。
ここから先は、安全地帯に沿って右側がルーヴの領域、左側がウコの領域だったはずだ。確か、ルーヴは1頭のオスに、複数のメスが暮らしていて、集団で襲ってくるとミミルが言っていた。
〈このあたりの魔物とは戦わなくていいのか?〉
〈ウコは食材になるから戦ってもいいが、ルーヴは面倒なだけだ。皮は僅かに斑点の入った模様が綺麗だが防具にするには心許ない。何より肉は出ないし、爪や牙も小さい。オスを倒せば稀に手に入る鬣の部分を襟巻にし、第16層や第17層で使うくらいのものだ。でもそれも代替品がある〉
なるほど、ミミルたちのように、食料を求めてダンジョンに入っている者からすると、ルーヴはあまり儲けにならない魔物ってわけだ。まあ、俺の場合はダンジョン産の皮や爪、牙などが手に入ったところで誰かに買い取ってもらうわけにもいかない。買い取ってもらえないのなら、俺の立場からするとアイテムドロップの有無など然程気にすることでもない。
〈まあ、連携して襲ってくる集団に襲われるという意味では、しょーへいの訓練にはなるだろうな〉
〈訓練というよりも、特訓に近い気がするのは俺だけか?〉
〈ウリュングルブとはまた違った戦いになる。戦い方に幅を持たせるという意味ではとても重要だから、少し寄り道するとしようか〉
〈無益な殺生はあまり気が進まないんだが……〉
〈何も殲滅する必要はない。少しだけ訓練するだけだ〉
ミミルは俺の服の裾を掴むと、安全地帯から逸れるように草むらの中へと入っていった。普段は身体強化など使ってもいないのに、ミミルはこういうときだけ使ってくる。俺は抵抗するように体重を落として踏ん張ったのだが、ミミルの小さな身体には見合わない力で草むらの中へと引き摺り込まれてしまった。
さすがに俺も観念し、ミミルの背後について草むらを歩いた。
1分も経たないうちに、ルーヴの領域へと俺は足を踏み入れていた。安全地帯と魔物の領域を分けるように生い茂った草むらを背に、前方を見る。
そんな遠くない場所に生えている木の木陰に、ルーヴらしき2頭の魔物の姿が見えた。
『しょーへい、あそこに2頭いるだろう?』
『ああ、いま丁度見つけたところだ』
『奴らは賢い魔物だ。ウリュングルブのように単調な攻撃はしてこない。あのように2頭いると見せかけておき、実際は少し離れた場所にも何頭かいるはずだ』
いま、俺たちがいる場所は、第3層の入口から東へ2ブロック、川を挟んで2ブロックと半分くらい進んだところだ。
他にもいるとするなら、目の前に広がる草原の中に潜んでいるはずだ。
『他のルーヴが木の上にいる可能性は?』
『奴らは木登りはできん』
『了解だ』
俺は他のルーヴの所在を確認するべく、前方180度に限定し、100メートルまで範囲を広げた音波探知を飛ばした。
西側約60メートルの位置にある木陰に2頭、南西約70メートル先の草むらに2頭、北西約50メートルの位置に3頭いる。
『風向きを考えろ』
『ああ』
ダンジョンの中では風は必ず入口に向かって吹いているので、ほぼ南東の風を受けていることになる。南に向ってつながる安全地帯から西に入ってルーヴの領域に入ったということは、北西にいる3頭へは俺たちの匂いが届いている可能性がある。
俺は2度目の音波探知を急いで飛ばした。1秒以内に反応が返ってくるよう、50メートルまでの全周囲探知だ。
どうやら北西の3頭は俺とミミルの存在に気がついたようで、とてもゆっくりとこちらに近づいてきている。その距離、約40メートルといったところだろう。
『逃げるなら安全地帯に飛び込めばいい。絶対に草原側に逃げてはならん。挟み撃ちにされるからな。正面の2頭は気づかないフリをしているが、北西の3頭が仕掛けてきたら動き出すはずだ』
『了解』
ミミルの念話を聞いている間にも、北西の3頭は等間隔に距離を開き、俺たちを囲い込むように近づいてきている。
這うように進んでいるからか、動きは遅いがそれでも既に残り距離は30メートルを切ろうとしている。
『約20ハシケで襲ってくる。しょーへいなら独りで大丈夫だ』
『えっ?』
思わず俺がミミルの方へと目を向けると、彼女は背中に羽を生やして空中へと舞い上がった。
『おいおい、そういうことは先に……』
視線を元に戻し、匍匐前進するかのように身をかがめ、静かに近づいてくるルーヴに意識を向けると、俺は腰から2本の赤銅色のナイフを抜いた。
同時に魔力の膜を広げて魔力探知を行い、他のルーヴの動きを確認する。
案の定、西の2頭がこちらへと近づいてきているようで、横目で見ても木陰の下にその姿はない。
さて、どうしようか……と考え、俺は両手に握る赤銅色のナイフに魔力を流し込んだ。魔力が通ることで赤銅色の刀身が緋色に輝いた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






