第460話
初回は右手の人さし指だけを立て、その指先の向こう――凡そ1メートルほど先に魔法の発現点を移動させるつもりで、間の空間をかき乱すようなイメージをした。発現点の移動先も空間なので、明確に何かがある場所ではないので非常にイメージするのが難しい。
〈普段から拾うことばかりしていると難しいだろう〉
〈そ、そうだな……〉
例えば、丸太の上に置いたものを空間魔法を使って取りに行くのは簡単だ。そこに明確な目標物があるのでやりやすい。
一方、丸太の上に置きにいくのは、丸太そのものを目標にしてしまっては上に置くことができない。丸太の上にある空間を目標にしないといけないので難しい。
そして俺がいまやろうとしているのは、丸太もない場所に魔法の発現点を置こうとしているので更に難易度が高い。
〈その右手の上や横、10分の1ハシケほどの場所にするとやりやすいはずだ〉
〈ふむ……〉
ハシケは1メートル。10分の1ということは10センチくらい上ということか。
俺はミミルに言われた通り、右手の上、10センチほどのところに発現点を移動させるようイメージした。視界に右手が入っている状態なので、とてもやりやすい。そのままアイスバレットを指先からではなく、その10センチ上から発動させた。
直径3センチほどの氷塊が何もない空間から猛スピードで飛び出し、20メートルほど飛んで地面に落ちた。
〈直線上で発現点を作ろうとすると難しいから、空間魔法Ⅱの技量を身につけてから練習する方が良いのだ〉
空間魔法Ⅰでは、手を伸ばした先の直線上にしか空間魔法を発動できないから、必ず曖昧な空間の上に発現点を作ることになる。それが難しいことを知っているから、ミミルは俺の空間魔法がⅡになるまで遠隔発動を教えなかったんだな。
〈ああ、近くの方が想像しやすいな〉
〈空間魔法でかき乱す範囲を広げ、次々に発射するとこんなことができる〉
ミミルが立ちどまって斜に構え、右手を前に突き出した。
ミミルを中心とした半径1メートルほどの空間が円を描くように揺らいだ。
〈ステンピル〉
ミミルが魔法名を唱え、魔法を発動した。円状になった揺らいだ空間に、魔法の発現点が白く輝きながら次々と発生し、その中央から石の矢が高速で飛びだしていく。
石の矢は同じ方向に向かって飛び出し、20メートルほど先のところで急激に速度を落として落下した。
〈すごいな、凄まじい〉
〈そうだろう、そうだろう。先に空間魔法を広げ、魔法の発現点だけを次々と変えながら発動していくという応用技だ〉
平たい胸を張って、ミミルが自慢げにいまの魔法を説明した。
石の矢がたくさん飛んでいくのもあり、威力も充分あるので派手なのだが、順に打ち出しているのなら別に発現点を変える必要はない気もする。
〈手の先から順に打ち出す場合と効果だとか、何かに違いがあるのか?〉
俺は感じた疑問をそのままミミルにぶつけてみた。
ミミルはわなわなと口元を震わせながら、瞠目して驚いた表情で俺を見る。
〈ま、まず、無数に飛来する攻撃や敵に対して、狙いを定めずに大量射出することができる〉
魔法で弾幕を張ることができる、とミミルは言いたいのだろう。確かに魔物からの攻撃はどこに向かって飛んでくるかはわからない。膝や太腿、胸などに向かって飛んでくる攻撃を目線と指先、魔物の直線上に捉えてから迎撃するというのは難しいだろう。
俺は納得し、同意の意思を込めて頷いた。
それを見ていたミミルは、まだ理由があると言わんばかりに続ける。
〈複数の魔物が向かってくる場合、狙いを変えながら攻撃するのは非効率だ。空間魔法の力を使って、発現点を変え、個々に狙いを定めて魔法を飛ばす方が良い〉
右、左、右上、左下……といった感じで手を動かしながらミミルが説明した。なるほど、狙いをつけるために手を動かしていたら確かに非効率的だ。空間魔法を使えば目線だけを動かして狙いを定められる。
そうして納得した俺が首を縦に振るのを見て、ミミルは最後に嬉しそうに言う。
〈何よりも格好いいだろう!!〉
瞳をキラキラと輝かせながら、ミミルが俺にアピールした。
確かに格好いい。それは間違いないが、その言い方だと格好いいところが1番のメリットであるような言い方だ。
俺にとっては最初の2つの方がよほど意味のあることに聞こえたというのに、台無しになってしまった。
〈どうだどうだ?〉
〈ああ、確かに格好いいな。うん……〉
俺は少し残念なものを見るような目でミミルに視線を向けた。
本人を中心に半径1メートルの円が光って、魔法で作った石の矢や氷塊、氷槍などが飛び出せば格好いいことは確かだ。
ただ、日本のアニメなら発現点が魔法陣になっていたりして、もっと派手なんだよな。
だったら、発現点に魔法陣のような模様を描けないものか。いやこれは、ミミルに話す前に自分で試した方がいい気がするな。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






