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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第44章 お土産

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第439話

 田中君の表情が少し緊張したものになった。


「そんな構えなくて大丈夫だよ。サヴォイアルディを作って欲しいんだ」

「ああ、なるほど。それは絶対ですね!」


 どうやら俺が付けた条件の理由をわかってくれたようだ。

 サヴォイアルディはティラミスにも使うが、サバイオーネに添えて出したり、単体でコーヒーの添え物にすることもあるお菓子。

 余るほど作ってもらっても全然問題ない。


「ほんなら、アマレッティもいいですね」

「ああ、それにあとひとつ、ふたつ何かを付けるくらいで良いと思うよ」

「わかりました。そうします」


 田中君がにこりと笑顔をつくり、返事をした。

 チョコレートプリンであるボネを作るのに使うアマレッティも余るほど作ってもらって問題ない菓子だ。

 それに、サヴォイアルディとアマレッティはそれなりに日持ちもするので、いまから作ってもらっても問題ない。


「無理のない範囲でいいからね」

「はい。早速作り始めますね」


 半日、菓子作りをできずにウズウズとしていたのか、田中君が厨房へと向かって行った。


「話、聞いてましたけど、チラシ配りですか?」


 田中君が厨房に移動したのを確認し、岡田君がおずおずと俺にたずねた。チラシ配りや、ティッシュ配りの仕事は受け取ってもらえないことが多くて心が折れる心配をしていると思う。


「そうなんだ。開店直後は知名度が低いからね。せめて、開業日と店の概要、場所を知ってもらえる程度の内容を書いたチラシを配りたいんだ。だけど、南側の大通りや駅前まで行って配る必要はないよ」

「そうなんですか?」


 俺の説明に岡田君が心配そうに確認する。

 大通りや駅前でチラシ配りしないのは理由がある。


「チラシを配るには警察に道路占有許可という申請をして、認められないといけないからね。うちの敷地の前で配る。あとは、ポスティングかな」


 うちの店はビジネス街と観光地の間にあるが、景観に配慮した形で作られたマンションなんかもある。通りからみると3階や4階建てに見えるが、上の階をオフセットさせることで10階以上の高さがあるマンションも存在するくらいだ。

 卑しい物言いになるが、三条から四条の間で、河原町通りから烏丸通りまでの四角いエリアに住む人たちは資産家でもある。そんな資産家が通うような高級な店にするつもりはないが、認知度を上げるという意味ではポスティングする意味は必ずあるはずだ。


「ということで、田中君には留守番をお願いするような形になってしまうが、2人は店の前でチラシを配って欲しい。いいかな?」

「「はい」」


 2人の返事を聞いて、テーブルの上に置いたチラシの入った包みを破いて開く。1束で500枚、それが2つ入っているので全部で1000枚。店先で配布する分には200枚もあれば充分だ。

 残り300枚を俺と裏田君で手分けしてポスティングすればいい。


 概ね5分の2くらいの紙束を手に取り、それをまた半分にして岡田君、本宮君に手渡した。2人とも店のユニフォームを着ているので、そのまま店の前に出て配布を始めてもらっても構わないが、注意事項は伝えておかねばならない。


「今週の金曜日から開店しますと言いながら手渡すようにしてくれよ」

「「はい」」


 とてもいい返事だ。

 チラシを配るという話をしたときは怪訝そうな表情を見せていた2人だが、大通りや駅前でのチラシ配りをさせられずに済んでホッとしたのか、いまは柔らかい笑顔でチラシに書かれている内容を確認している。


 すると突然、サロンを強く引っ張られた。

 下へと視線を向けるとミミルが不機嫌そうに俺を見上げている。


「ど、どうした?」

「これ、なに?」


 ミミルがテーブルに残ったチラシの束を指さした。また何か機嫌を損なうようなことを俺がしただろうか?


「この店のチラシだよ。これを店の前を歩く人に手渡したり、他の家の郵便受けに入れて歩くんだ。岡田君と本宮君が店の前で配る係、俺と裏田君は手分けして民家やマンションの郵便受けに入れて歩く係だな」

「ふうん……」


 ミミルは俺から受け取ったチラシを手にすると、裏面の内容へと目を走らせた。恐らく、漢字ドリルの反復で覚えた文字だけでも読もうとしているのだろう。


「あ、た、高辻さん。ミミルちゃんと一緒に配ったらダメですか?」


 ミミルと俺の会話を聞いていたのか、本宮君が言った。

 見ず知らずの人にミミルがチラシを渡すというのは、人見知りを治すのに良いかも知れない。荒療治と言われるかも知れないが、試してみるのは悪くない。


「それはいい。ミミル、本宮君や岡田君と一緒にチラシ配りやってみるか?」

「え、あ……うん」


 店の前は近くにある小学校への通学路にもなっているので見た目は同じ年齢くらいの子どもたちと接する機会もあるかも知れない。まあ、既に17時を過ぎているから、店の前でチラシを配っていて下校途中の小学生の集団に出会う、なんてことは無いと思うが、いまはその方がいいだろうな。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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