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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第43章 開店前検査

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第423話

 朝、目を覚ますと階段の先に見える第2層の空が暗かった。

 簡易ベッドから起き上がって、音を立てないように階段を上がっていくと、シトシトという雨降りの音が聞こえて来た。


「参ったな……」


 思わずぼやくように声が出る。祭壇上に出て火を使えないとなると、朝食を作るにも苦労をするからだ。

 ダンジョンの特性上、風が入口階段に向かって吹いてくる。階段の出口以外は穴というものがなく、空気の流れは入口部屋に向かうことになる。ダンジョン産の薪は煙がほとんど出ないとはいえ、入口部屋は祭壇の上につながる階段しか通気口がないので、料理をすると匂いが籠ることになる。もちろん、火を焚いたら一酸化炭素中毒も心配だ。

 幸いにもガラスの耐熱ポットに入れたカフェ・ラテは数杯分残っているし、プティ・バタールも残っているのでそれらで軽く朝食を作ることにする。

 空間収納を確認すると、サーモンブロックが残っていたのでそれを使うことにした。


 簡易テーブルを広げ、そこに食材を並べる。

 まずプティ・バタールを上下2つに切っておき、下側のプティ・バタールの上に水で濡らしてからマイクロウェーブを掛けたサラールを置く。

 サラールは白菜のような野菜だが、湯通しするとレタスのような歯応えに変わるダンジョン野菜だ。不思議なことに油で炒めると白菜のような葉のままで食べられる。今回は水で洗って、マイクロウェーブで湯通しした状態にした。

 更にリュークをスライスしてサラールの上に載せたら、白ワインビネガーとオリーブオイル、塩、胡椒で作ったイタリアンドレッシングをサッとかけておく。

 次はサーモンブロックだ。適度な大きさに切ってフライパンの上に置き、魔法で指先にガスバーナーのような火を起こすと、サーモンの表面に焦げ目がつく程度に炙る。全面に焦げ目がついたらサラールとリュークの上に載せ、輪切りにしたブラックオリーブ、ケイパーを振りかけて後に上半分のプティ・バタールで蓋をする。炙りサーモンとブラックオリーブのパニーニの出来上がりだ。


〈ミミル、起きろ〉

〈ん、んんっ〉


 相変わらず寝起きが悪い。とはいえ、俺も昨日は思いっきり寝坊をしたので文句は言えない。

 狭い簡易ベッドの上で器用に寝返りをうつと、10秒もしないうちにミミルはまた小さな寝息を立てる。


「やれやれ……」


 溜息を吐くように言葉を漏らし、俺は寝ているミミルの傍へと移動し、屈んで、とても上質な絹糸のような銀色の髪に覆われた頭を撫でた。すっぽりと手に収まってしまうかのような印象さえ受ける小さな頭、視界に入る華奢な体躯からは守るべき対象と俺の頭は認識しようとしてしまう。

 更に2度、3度と頭を撫でると、呼吸に合わせて小さく上下する肩を優しく持って揺する。


〈ミミル、起きてくれ。朝食だ〉

〈ん、あ、うん〉


 薄く目を開き、俺の方へと視線を向けたミミルは眠たそうに目を擦った。

 まだ眠そうにしているミミルに向けて、〈おはよう〉と俺が声を掛ける。ミミルは起き上がってぼんやりと正面を見つめ、髪をクシャリと掴むようにして頭を掻く。


〈ん、おはよう〉


 少しテンポが遅い気がするが、ミミルが返事をした。

 大きく口を開いて欠伸をし、両手を組んで頭上へと伸ばして背伸びをしている。このあたりの動作は毎朝行われる儀式みたいなものだ。地球人でも同じような動作をする人もいると思うが、ミミルがやると、とても可愛らしい。


〈雨が降っているから今日の朝食はここで食べることにしたけど、いいよな?〉

〈ああ、問題ない〉


 ミミルの返事を聞いて、俺は簡易テーブルへと移動して耐熱ガラスポットに入っているカフェ・ラテを取り出した。昨日、冷める前に空間収納に仕舞っていたのでまだ温かい。


 ミミルは立ち上がって入口部屋の隅に移動して、魔法で水を出して顔を洗っている。


 俺はキャンプ好き御用達のステンレス製マグカップにカフェ・ラテを淹れ、パニーニと共に並べて椅子に座ってミミルを待った。

 顔を洗い終えたミミルは取り出したタオルで顔を拭いていたが、その隙間からテーブルの料理を見たのだろう。急いでこちらへと向かい、俺の前の椅子にちょこんと座った。


「いただきます」


 俺が手を合わせて呟くと、ミミルも続いた。

 ミミルは先ずティースプーンに砂糖を掬い、それをマグカップへと入れる。合計三杯の砂糖を入れたら、スプーンをかき混ぜて静かに中身を啜った。

 俺はというと、ミミルよりも先に両手でサーモンのパニーノを掴み、強く握って潰し、一気に噛り付いた。

 天然酵母で作ったプティ・バタールは香り高く、一気に小麦の香りで口の中がいっぱいになる。バリバリというハード系のパン特有の音が聞こえる。硬いパンの層を超えると、サラールのシャクッというレタスのような音と歯ざわりを感じると、焦げたサーモンの身の香りが一気に広がった。

 手元から視線を上げると正面に座ったミミルも頑張って口を開き、パニーニに噛り付いたところだ。

 見る見るうちに頬が膨らんでいくのを見て、俺の頬は緩んでいった。


パニーノとパニーニは基本的に同じです。

表現のタイミングに応じ、単数形のパニーノと、複数形のパニーニを分けて書いています。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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