第412話
数分後、俺とミミルは祭壇をあとにしてキュリクスがいる領域へと来ていた。
キュリクスは既に俺の敵ではなく、エアブレードで前脚を切り飛ばし、倒れたところをエアエッジかマイクロウェーブで止めを刺すという方法で進んでいた。
〈ミミル、そういえば空間収納の制限ってあるのか?〉
最初はドロップした琥珀色の魔石や肉は腰を曲げずに空間魔法Ⅰを使って拾っていたが、途中からミミルに言われて空間魔法Ⅰで触ったドロップ品を直接空間収納へと仕舞っている。
そこで、先ほどメモでみた内容を思い出したのでたずねてみた。
〈入口の大きさは両手を広げた幅よりも少し大きいくらいと思えばいい。重さは特に関係ないし、固体であれば収納できる〉
〈こういうことか?〉
俺はミミルに両手を広げてみせる。だいたい、身長と同じくらいになるので、俺の場合は180センチくらいだと思う。
俺の車は車幅が165センチだから俺だと収納できるが、ミミルだと150センチくらいまでが限界ということになる。以前、収納できるけれど止めた方がいいと言われたが、ミミルにはできない…ということだったのだろうか。
いや、あのときは4輪バギーでの話だったはずだ。大きさは横幅100センチくらいだから、ミミルでも収納できる。
〈うむ。拳ひとつくらい大きいくらいなら入るはずだ〉
〈なるほど。じゃあ、なんでジドウシャを収納しないんだ?〉
〈簡単だ。4層から先は使えないからだ〉
たしか、第4層は森だとミミルが言っていた。森の中だと普通の自動車は厳しいし、4輪バギーでも路面状況によっては使えないだろう。他はどんな環境があるかわからないが、3層までしか使えないのであればバギーを購入するのはもったいない。
〈そうか。他に空間収納の制限ってあるのか?〉
〈ダンジョン内の生きた魔物は入れられない。また、基本的にエルムヘイムやチキュウの生きた動物は入れられない〉
〈ムスリーニェは入っていたと思うぞ?〉
〈あれは海水の中に入っていた。液体が入った容器などと共に収納した場合は生きものと見なされない〉
〈じゃあ、海水が入った浴槽に俺が潜っていたとして、その浴槽ごと収納したらどうなるんだ?〉
もしミミルの言うとおりなのだとしたら、と生きた人間も運べてしまうことになる。
〈試してみるか?〉
ミミルが少し意地悪な顔をして言った。
空間収納を長く使い続けているミミルに、生きた動物は入れられない、と言われたのだから、自ら実験体になる気など俺には全くない。
〈い、いや……やめておくよ〉
〈心配しなくても、密閉されていなければ収納はできん。浴槽と海水だけが収納に入って、裸のしょーへいがそこに残ることになる。ムスリーニェもチキュウの容器に海水と共に入っていただろう?〉
〈ああ、確かにそうだな〉
市場の魚屋では旬のアサリをバケツに入れて売っていたが、500グラムとか、1キロといった量で売る商品だ。とりあえずお試しで買う感覚で、パックに入ったものを選んだ。
〈じゃあ、残ったアサリを空間収納に仕舞ってもらったが、あの時点でアサリは死んだのか?〉
〈そもそも小さな生き物はダンジョン内では生きられん。しょーへいが湯をかけたあと、魔素を取り込んで死んでいたのだろう〉
〈そ、そういうことか〉
急に50度の湯を掛けることでアサリがヒートショック状態になって水を吸い込み、汚れや砂を吐き出すという習性を砂抜きに利用した。その時に水と共に魔素も吸いこんでいたのだろう。
残ったアサリは何の問題もなく空間収納に収まっていたが、湯を掛けてから15分ほど寝かせている間にアサリは死んでしまっていたのだ。
〈うむ。空間収納で生きたままの何かを運ぼうなどとしても、密閉した場所に水や海水と共に入れられた時点で溺れ死んでしまう。だから、陸地の生きものは空間収納では運べない。一方、海産物は問題がない。エルムヘイムでも内陸の地に海産物を届ける際は密閉した容器を用いている〉
〈ありがとう。理解したよ〉
俺が感謝を述べると、ミミルは平たい胸を張って大仰に頷いた。
両手を広げたくらいの大きさで、固体であれば収納できる。また、動物は基本的に収納できない。但し、密閉された液体の中に入っていれば収納できる。
〈他に空間収納の注意事項はあるかい?〉
〈液体を収納する際には容器に入れること。基本的に液体を直接収納することはできない。例えば酒や油などを収納したいときは樽や瓶の中に入れる。その際、大きさが違う容器は違うものとして扱われるから気を付けることだ。ニホンで買った酒、飲み物も容器に入った状態のまま収納できているし、そこに入っている空気も理屈では収納できている〉
〈基本的にということは、そうではない液体もあるのかい?〉
〈例えばジェル・スネグラを倒すと出る粘液状のものはそのまま収納できる〉
〈どのくらいの粘度があれば収納できるんだい?〉
〈だからこの粘液くらいだな〉
ミミルは空間収納からゼリー状になったジェル・スネグラの粘液を取り出してみせた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






