第404話
目が覚めると、第2層に出る階段の先に青空が見えた。
いまは何時なのか……と考えても、第2層の時間に合わせた時計がないのでどうにもならない。
せめて東西南北がわかればいいのだが、スマホのコンパス機能を起動しても針がぐるぐると回るばかりで使えない。
原始的ではあるが日時計を作るのがいいだろう。長い棒を1本立てて、最も影が短くなるタイミングを12時とすればいい。ついでに、その陰の逆が南ということになる。
地球の1分間と、エルムヘイムやダンジョン内の1分間の長さは同じ。これはミミルの砂時計で確認しているので間違いない。
だから、12時がわかれば、地球の時計を設定して時間を正しく管理できるようになる。
問題点はひとつ。
日時計を設置しても、時間が経つと魔素に還ってしまうこと。目印をつけたところで魔素に還ってしまうし、穴を掘ったりしても元に戻ってしまう。数日その階層に戻らなければ、作った日時計が消えてなくなり、また最初からやり直しになる。
解決策は、視界に見える目印を使って紙に東西南北を書き残して置くこと。そうすれば、紙を敷いて、その上に棒を立てるだけで日時計が復活する。
ダンジョン内の探索で移動するのは間違いないので、目盛までは書き込む必要はない。
いずれにせよ、模造紙のような大きな紙と、腕時計か懐中時計のようなものが必要だ。分度器もあるといいだろう。
また地上に戻ったら買うことにしよう。
空間収納から取り出したメモ帳に書き込むと、俺はミミルを起こし、そこに広げていた荷物を空間収納に仕舞った。
ミミルは少し寝ぼけているようだが、俺は階段を上がって第二層の祭壇に出た。
祭壇上に出て、再度簡易テーブルと椅子を広げ、簡易コンロ等を取り出して湯を沸かした。
フレンチプレスを使ってコーヒーを淹れると、ミミルが入口部屋から上がってきた。
〈とりあえず、朝食にするか?〉
〈うむ。朝食はなんだ?〉
バケットも残っているが、地上で写真撮影用に作った料理が色々と残っている。ミミルの空間収納に預けると、知らないあいだに全部食べてしまいそうで怖い。だから、皆が帰ったあとに紙皿やタッパーなどに移し替え、俺の空間収納に仕舞っておいた。
〈昨日の試作品の残りものでいいだろう。朝だし、残ったピッツアでいいか?〉
〈……う、うむ〉
残っていたピッツアはマリナーラ。元々はひとりで1枚を食べ切れる大きさだ。アルミホイルで包んだピッツアを火力を落とした簡易コンロに置いた網の上に置いて温め、ミミルへと差し出した。
〈これしか残っていないのか?〉
〈ピッツアはこれだけだな〉
〈そ、そうか〉
ミミルは少し残念そうな表情を見せると、ピッツアに齧り付く。
ニンニクの香りが強いので、電車に乗って帰るスタッフ達には食べづらかったのだろう。
歯や舌が真っ黒になるイカスミのパエリアも残っているから、その理由は間違いないと思った。
温めた自分の分のピッツアのアルミホイルを開き、俺も噛り付く。一度冷めたとは言え、チーズが載っていないぶんだけ、まだ食べやすい。
生地が焦げた香ばしい香りが鼻へと抜け、ニンニクの香りが口いっぱいに広がる。もっちりとした生地を何度も噛んでいると、ニンニクの旨味やトマトの酸味、旨味が噛むほどに広がっていく。
「美味いんだけどなあ」
マリナーラが残ったことを少し残念に思いつつ、俺は昨夜から気になっていたことをミミルにたずねることにした。
〈なあ、ミミル〉
〈ふぁんふぁ?〉
ピッツアを口いっぱいに頬張ったまま、ミミルが返事をした。
すぐに質問をしても、何を言っているかわからないと困るので、俺はミミルが口の中のものを飲み込むのを待ってたずねた。
〈エルムヘイムでは、他の世界のことはどのように認識されているんだ?〉
〈言い伝えでは、エルムヘイム以外に8つの世界があったとされている〉
〈あった、ということは現在は無いということかい?〉
〈わからんのだ。だが、エルムヘイムには小人族も巨人族もいるが、彼らの祖先はそこから来たのかも知れんな〉
〈その他の世界に名前はあるのかい?〉
〈神々の国であるアズガルズとヴァンアヘイム。ルマン人や猫人族、犬人族などの住むミドガルズ。黄泉の国であるニフルヘイム。巨人族が住むヤトゥンヘイム。灼熱の国、ムスパルヘイム。黒い住民がいるズヴァルドアルムヘイム。小人族が住む、ニザヴェリルだ〉
それぞれ、北欧神話のアースガルズ、ヴァナヘイム、ミズガルズ、ニブルヘイム、ヨトゥンヘイム、ムスペルヘイム、スヴァルドアルフヘイム、ニザヴェッリルに対応している。
どれも良く似た名前で、ムスペルヘイムは北欧神話と同じだ。
となると、エルムヘイムではミズガルズにあたる場所に人間や他の種族が住んでいたということになっているのだろう。
ピッツアを片手に、俺は空間収納から取り出したメモ帳へといまの話を書き連ねた。
〈それよりも、食後はどうする?〉
〈そろそろキュリクスの肉が切れそうだ。補給したいと思うんだが、どうかな?〉
〈わかった、夕食はキュリクスの肉だな〉
ミミルは嬉しそうな笑顔をみせた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






