第394話
基本的な食材は各種届いている。
肉類はパンチェッタ、ベーコン、ミラノサラミ、ボロニアソーセージ、プロシェット・ディ・パルマ、クラテッロ、コッパ。チーズもパルミジャーノ・レッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノといったハードタイプから、モッツアレラ、マスカルポーネ、リコッタといったフレッシュタイプ、ブルーチーズのゴルゴンゾーラ・ピカンテとドルチェが揃っている。スペイン産のチーズは届いていないようだが、小説「ドン・キホーテ」にも登場するケソ・マンチェゴなどが届く予定だ。
野菜は各種……とは言い切れないが、必要なものは揃っている。
「裏田君、昼の賄いにイカとエビ、アサリ、ムール貝、タコかな。使っていいか?」
「全然かまいませんよ。ペスカトーラですか?」
「3品くらいなら同時でいけるから、他にも作るよ」
金属製のトレイに必要な分だけ食材を取り出していく。
野菜はニンニク、茄子、キュウリ、ベビーリーフ、プチトマト。肉類はパンチェッタ、卵を四つとパルミジャーノ・レッジャーノを取り出した。
茄子は大きめの乱切りにして水に浸けておく。キュウリはひと口サイズの乱切りにする。続いて、パンチェッタは拍子木に切り、乾燥ワカメを水で戻し、ベビーリーフをサッと水洗いする。
「田中君、卵白4個分できるけど、使うよな?」
「そうですね、メリンゲかジェラートに使います」
「じゃあ、冷蔵庫に仕舞っておくから」
田中君が「はい」と返事するのを聞きながら卵を割って卵黄と卵白を別々のボウルに入れていく。
卵白の入ったボウルにラップをして冷蔵庫に仕舞い、卵黄が入ったボウルにはパルミジャーノ・レッジャーノを削って入れる。続けて2つのフライパンに叩いて潰したニンニク、種を取った鷹の爪を入れてオリーブオイルを流し込み、弱火に掛けてじっくりと火を通していく。それぞれ、オイル多め、ニンニク多めの2種類になっている。
ニンニクに火が入って表面がきつね色に変わってきたら、オリーブオイル多めのフライパンに茄子を入れて表面を焦がしていく。茄子が油を吸うので、すぐにオイルが消えてなくなるが、火が入れば茄子からオイルと旨味の詰まった汁が溢れ出してくる。このあとの工程で火が通りすぎないよう、アサリとムール貝を取り出し、代わりにホールトマトをつぶしながら入れて煮つめていく。
ニンニクが多めに入ったフライパンにはイカ、エビ、アサリ、ムール貝を投入し、イカやエビに火が通るように炒める。火が通って香りが立ったら白ワインを入れてアルコールを飛ばし、蓋をして小さく揺すりながらアサリ、ムール貝の口を開かせる。あとは潰したホールトマトを入れて煮詰めていく。
ホールトマトをつかったソースは赤いトマトの色が朱色に変わるくらいまで煮詰めて出来上がりだ。
3つめのフライパンにはパンチェッタを入れて炒める。パンチェッタの表面がカリッと焼きあがったら、白ワインを入れてアルコールを飛ばし、フライパンにこびり付いた焦げなどをヘラでこそげておく。
湯が沸騰したら、そこにパラパラと先ほど打ったタリアテッレを入れて茹でていく。3分程で茹で上がる。
最初は茄子のトマトソース。そこに茹で上がった麺を入れてさっと混ぜ合わせて盛り付けるだけだ。
次に魚介のトマトソース。こちらは半分に切ったプチトマトを入れて火を通したところに茹でたてのタリアテッレを入れて混ぜ合わせる。皿に盛り付けたら、ムール貝やアサリを飾るように並べ、刻んだイタリアンパセリを散らしてできあがり。
最後のフライパンは茹で汁を多めに入れて乳化させたところに、タリアテッレを入れ、混ぜ合わせた玉とチーズのペーストを混ぜ合わせる。皿に盛り付けて最後に黒胡椒を粗く散らす――カルボナーラだ。
次々と出来上がるパスタを見て、慌てて裏田君が俺にたずねる。
「オーナー、カメラは?」
「ああっ!!」
メニューに掲載する写真を撮るつもりだったのに、カメラを持ってくるのを忘れていた。2階の事務所部屋、引き出しの中に仕舞ったままだ。
「裏田君、手が空いてるならミミルがいない方のテーブルに運んで欲しい。いいかな?」
「いいですよ」
裏田君にこの場は頼み、俺は慌てて2階へとカメラを取りに走った。
デジタル一眼レフを手に客席へと向かうと、縁側近くにあるテーブルの上に裏田君が料理を並べて待っていた。吉田さん、中村さんの2人も一緒にいる。
「ん、どうしたんだ?」
カメラと三脚、レリーズなどを手に近づいていくと、裏田君が困ったような顔をみせた。
「ミミルちゃんがかなりお腹空かしたはるみたいで……」
「ああ、朝起きたのが早かったからなあ……」
ダンジョン内で目を覚ましてから料理して食事を終え、道具を片付けたりした時間。地上に戻ってから経過した時間を考えると既に6時間は過ぎていることになる。ダンジョン内での生活リズムを考えると腹を空かせていてもおかしくない。
「摘まんで食べようとしはるんですよお」
そう言う田中君の前には両腕でガッチリとホールドされたミミルがいた。
少しは抵抗したのかも知れないが、ミミルは後頭部を胸に挟まれたまま、どこか悟りをひらいたような目をしていた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。






