第377話
ルーヴとウコの領域の間に続く安全地帯を30分ほど進むと、また分岐地点だ。
例によってエルムの木が右側に1本、左側に1本、生えているのが見える。
〈ここは右へ行く。左へ行けば川を2回も渡らねばならなくなる〉
〈へえ……〉
頭の中でどういう経路で歩いているのかイメージをしてみる。
川の上流にある中州から南側に渡り、レディックとチューダの領域の間をまっすぐ進んだ。その後2本に分岐する安全地帯を左へ――南東へ向かったことになる。このタイミングで左右はレディックとウコの領域。次の分岐で右に曲がったから再度南へと進んだことになる。ウコとグレスカの間にある安全地帯を進み、この分岐を右に行くとなると、ウコとルーヴの領域の間を北西に向かうことになるが……。
だめだ、位置関係がイマイチわからない。
〈第3層の入口がある中州から北へ渡った場所があっただろう? あの逆側に出る〉
〈なるほど、リュークとトリュークの領域とフロウデスの領域の間に出るということか?〉
〈そのとおりだ〉
1日目はウリュンブルグのいた領域から、リューク・トリューク領域へ。そこから北に渡ってルオルパの領域を中心にぐるりとまわって中州で1泊。今日は中州から出てチューダ、ウコの周囲を1周してリューク・トリュークの領域に戻るってことだな。ミミルはそれで日が沈む頃には第3層の入口に戻る算段をしているようだ。
時間的な方はどうだろう。
裏田君、田中君が帰ったのが21時くらい。そこから風呂に入ってダンジョン第2層に入ったのが0時頃だ。そして、ダンジョン2層で7時間から8時間くらい寝て……7時間半とすると、450分。地上だと45分ほどダンジョン第2層にいたことになる。
40分くらいしてから第3層に入ったから、時間としては1時半くらいに第3層に入ったことになるのかな。その時間帯が日の出前の4時くらいだったはずだ。日が沈む頃に第3層を出るとしたら、38時間ほど第3層にいたことになる。
ダンジョン第3層の時間は地上の7倍半の速度で過ぎていくから、地上では5時間と少し経過している計算になる。そのまま第3層から戻れば地上は朝の6時半だな。
〈入口に戻ったらチキュウに戻る、でいいのか?〉
少し朝早い時間の到着になる気もするが、ミミルの考えはわからないので確認するつもりでたずねた。
だが、ミミルは少し呆れたように溜息を吐き、俺の方へと向き直る。
〈明日も店の準備があるのだろう? だったら、睡眠が必要だ〉
〈ああ、うん。そうだな〉
〈ダンジョン第3層でそのままひと晩過ごせば、地球に戻る時間はちょうどいいと思わんか?〉
〈あ、そうだな。じゃあそうしよう〉
確かに第3層で7時間ほど睡眠をとれば、地上に戻った時は8時過ぎくらいになる。10時になると裏田君や田中君が出勤してくるのだが、8時過ぎに戻ることができるなら、それまでに朝食をたべて風呂に入るくらいの余裕ができる。
ミミルに対して特に店の営業時間などを話していないが、意外にもこの2日間の様子を見てどのくらいの時間に裏田くんや田中君が来るか、認識しているのだろう。まあ、単純にいつも起きるのが8時くらいだからというのもあるかもしれない。
ただ、ミミルは時計を持っていないので、正確に時間を知ることはできないはずだ。どうしてダンジョンから出て2時間後くらいに戻るのがちょうどいいとわかっているのだろう。とても不思議だ。
30分程歩くと、再びエルムの木まで100メートルというところまで近づいた。
いつもと同じように慎重に近づき、音波探知を掛けてみるもラウンはいなかった。
第3層の太陽の角度を考えると、エルムの木に立ち寄れるのもあと2回あるかないかだと思う。
「残念だ、非常に残念……」
「……ん」
念のため、音波探知だけでなく、エルムの木の下にまで進んでラウンがいないことを確認したが、いないものはいない。
〈全く会えない時もある。既に1回は接触して倒しているのだから、運は良い方なのだぞ〉
〈ん、ああ。そうだな……〉
ミミルが空間収納を得るまでに31回、10年も掛かっている。ダンジョンに入るようになってわずか10日程度でラウンを倒し、空間魔法と空間の魔石まで手にいれているのだから、贅沢を言ってはいけないのかも知れない。
〈となると、逃した1羽が悔やまれるよなあ〉
〈いや、あれは空間の魔石を落としたラウンだ。おそらくこの周辺を周回していたのだろう〉
もし、ラウンにも縄張りのようなものがあるとするなら、その中を周回しているのは想像するに容易い。だが、その縄張りの大きさがわからないと、他のラウンの居場所を推定するのも難しい。
〈このあと川を渡るのだが、そこはたぶん異なるラウンの縄張りだ。期待していいぞ〉
〈川の向こうってことは、エルムの木はあと2本か?〉
〈そうだ〉
フロウデス、リューク・トリューク、ウリュンブルグの間に1本ずつ。
この2本に願いを託す感じだな。
この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。






