第361話
「――ブリック」
思うところがあって、ミミルに教わりながら石を作り出す魔法を教えてもらった。これがないと今夜の食事は始まらないとまで言うと、ミミルは素直に教えてくれた。
魔法そのものは石礫を作るストーンバレットの延長だ。石礫ではなくレンガのような形のものを魔力で作る。
これを先ほどからいくつか作り出し、並べて石窯を作っている。とはいえ、これでパンを焼く気もないし、ピッツアを焼く気もない。いや、生地は余っているので作ってもよかったのかな。とにかく、石で作ったバーベキュー台だ。地上で買っておいた炭を入れて火をつけ、同じく地上で買った網を置いてその上に食材を適当に並べて焼く。それだけのために覚えたのだ。まあ、覚えておけば何かのときに役に立つはずだ。
みっちりと隙間なく組み上げたレンガをモルタルで固定する気もない。一度作ったからずっとここに残ることはなく、数日たてば魔素に還っていくらしい。問題は地球から持ち込んだ木炭や網の方で、こちらは3週間ほどかかるだろうとのこと。
今回焼くのはやはりキュリクスの肉。あと、試すためにもギュルロ、リューク、コウルを焼き野菜にする。ギュルロは薄切り、リュークは輪切り、コウルの葉は毟って水で洗っておく。
茄子とズッキーニは買って持ち込んだものが残っているので、それを使うことにする。
問題はつけダレだ。アメリカだとバーベキューコンテストなるものが開かれるというし、いろんなソースがあるんだろうが、俺が知ってる簡易なソースはケチャップやウスターソース、醤油を使うものだ。ここにないものばかりで作れない。
〈ミミル、食材から水だけを抜き取るってできるか?〉
〈それくらいしょーへいもできるだろう。想像し、創造するだけだ〉
〈料理ができるまで時間がかかるぞ?〉
〈仕方がない、やろう〉
腹を空かせているのだろう。即答で手伝ってくれることになった。まあ、普段は退屈そうに俺が料理をするのを見ているだけだけど、今日は田中君とティラミスを作ったりもしたからな。料理に少しは興味を持ってくれると俺としては嬉しい。
調理をする前に簡易テーブルの上に並べられた食材から取り出すのはキュメン、リンキュメン、トリューク。他に地上から持ち込んだスパイスからナツメグパウダー、パプリカパウダーを取り出す。ポルペッティーニを作るときにはナツメグが必須だし、パプリカパウダーはパン・デ・アホを筆頭に、スペイン料理では結構な頻度で利用するので持ち込んでいた。
「あとは……これだな」
手に取ったのはシナモンパウダー。
イタリアやスペイン料理だとお菓子の材料になることが多いので持ち込みを悩んだが、手軽なデザートとして作られるアロス・コン・レチェを作ることを考えて持ち込んでいたものだ。米と小麦の中間のような種子――ヴェータを使って作るのも悪くない。
さて、さきほどミミルから食材の水分を抜き取る魔法をお願いしていたので、先にそれが必要な材料を用意する。
まずは、トリューク。皮を剥いてボウルに入れてミミルへと差し出す。
〈これの水分だけを抜き去り、乾燥させる……でいいのだな?〉
〈うん、粉にしたいんだ。香りを飛ばさずに乾燥させるってできるか?〉
〈乾燥は風を使う。香りも飛んでしまうかもしれないぞ〉
〈そっか……じゃあ、俺が試してみるか〉
フリーズドライの製法は、まず料理なり食材を凍結させる。すると水分が凍るので、それを溶かして蒸発させる。凍った水分を蒸発させるために、温度を上げないといけないのだが、気圧を操作することで沸点を下げる。つまり、気圧を下げても大丈夫な器の中に入れる必要がある。
「そんなもん、ないぞ……」
腕を組んでボウルの中に入ったトリュークを眺めたところで、中の気圧を下げられる器がない以上はフリーズドライなんて無理だ。
まあ、乾燥なんだから、単純に水だけを抜き取るイメージをしてみるか。
慣れた手つきでトリュークをみじん切りにし、またボウルへと移した。みじん切りにした理由は、断面を大きくしたいのと、このあとすり潰す手間を省くためだ。
布で濾すようなイメージだと、水分だけが抜けて乾燥した状態にはならないと思う。汁に溶けて旨味や香りが抜けてしまう気がすんだ。あくまでも旨味や香りを残したまま、水分だけを分離するイメージが重要なんだと思う。
頭のなかで組み立ててみる。
まず分子レベルでH2Oだけを抽出又は抜き取る……そんなイメージは作れない。想像力の良し悪しというレベルを超えていて無理だ。
では、何らかの方法で水だけが濾過されて乾燥するというのはどうだろう。魔力でフィルタを作る感じだろうか。でもそれには絞るという工程が必要だ。
〈悩んでいるな。想像するのに行き詰ったら、結果から想像するといい〉
〈結果から?〉
〈そうだ〉
ミミルは小さく頷き、指先に炎を付けてみせた。
※ アロス・コン・レチェ : ミルク粥のことです。
この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。






