第359話
俺はミミルの言うとおり、きちんと魔力の糸があることを想像したうえでミミルに念話を送ったつもりだ。どこかに間違いがあるなら教えて欲しい。
〈もしかすると、いや、だが……ううむ……〉
ぶつぶつと呟きながら考えているミミル。とうとう歩くのをやめて立ちどまってしまった。
〈どうしたんだ?〉
〈可能性の話なのだが……〉
少し俯き気味になっていたミミルが顔を上げる。その視線はどこか思案気なようにも見えるが、不安そうにも見えた。
〈もう一度、念話の糸を繋ぎなおしたいのだが良いか?〉
〈え? あ、ああ、構わないが……〉
何だか再インストールされるような、そんな軽い感覚で請け負ってしまったが、いいのだろうか。いや、いくらミミルが相手と言え、俺の知識、記憶といったものを覘かれるのは気持ちの良いものではない。
ちゃんと駄目なことは駄目と言っておく方がいいだろう。
〈でも、前回みたいに俺の記憶だとか、知識は覗かないでくれよ〉
〈もちろんだ〉
俺の同意を得たせいか、ミミルは少し安心した様子で右手を差し出してくる。前回と同じ、白く、細くてきれいな指。この手でたくさんの魔物を倒してきたなんて思えない、俺が強く握れば簡単に折れてしまいそうな……そんな小さな手。
俺もそっと手を伸ばし、ミミルの右手を優しく握る。
前回同様、ミミルの手を握る俺の手がじわりと熱くなり、広がる温かく優しい光が全身を包んだ。前回と違うのは、身体の中にミミルの魔力が流れ込んでくるのを感じたことと、俺の身体からも魔力が流れていくのを感じたことだ。
〈試してみてくれ〉
〈あ、うん。わかった〉
ミミルに促され、互いの右手を繋ぐ魔力の糸をイメージしながら念話を送る。
『聞こえるか?』
『うん、聞こえる』
『おおっ、やった!』
念話が使えるようになったことに嬉しくなって思わずガッツポーズをする俺。
ミミルはそのポーズを見て不思議そうにしているが、俺が念話を使えたことを喜んでいることは理解しているようで、すぐに笑顔へと変わった。
〈ありがとうな〉
何故か嬉しくなった俺は繋いだ右手を引いてミミルを抱き寄せ、頭をポンポンと優しく叩く。
〈いや……う、うん〉
〈帰ったら、2階と1階で会話できるか試してみたいな〉
思わず子どものような考えが俺の口から飛び出すが、どこまで念話が届くのか知っておきたい。
店の営業中はどうしてもミミルのことが後回しになると心配していたが、1階の厨房から居室のミミルに念話で話しかけられるなら安心だ。
〈う、浮かれているところすまないが、そろそろ放してくれない……かな?〉
〈あ、ごめん……〉
言われてすぐにミミルを解放した。アルビノの白い肌が紅潮し、耳まで真っ赤になっているのがわかる。
口調が違うから怒ってはいないと思う……。俺が力を入れすぎたせいで、息苦しかったのかな。
〈いや、謝るのは私の方だ。しょーへいに魔力が宿る前に念話の魔法を使ったからな。しょーへいから伸びる魔力の糸がなかったのだ。もっと早くに念話の魔法をやり直しておくべきだった〉
ミミルは少し俯いて地面を見つめて話した。
〈うん、まあ気にすんな。できればそれでいいんだ〉
またミミルの頭に手を載せ、ポンポンと軽く叩く。
念話ができるようになっただけでいろいろと楽になる。
例えば、今夜過ごす予定のエルムの木。明朝、ミミルがどこかにお籠りになっている間にラウンが飛んで来たら……と考えると、念話ができるようになって本当によかったと思うだろう。
他にも何かの理由でダンジョンの中で離ればなれになっても念話があればなんとかなる可能性もある。それだけでかなり安心して過ごすことができる。
〈い、行くよ〉
〈ああ、うん。行こう!〉
なんだかミミルの口調が変わったな。普段はいつも威厳のある偉そうな話し方だというのに。不思議なことだ。
『次のエルムの木にラウンがいるといいな』
まだ浮かれているのか、気が付けば俺は覚えたての念話を使って話しかけていた。少しは自重しないといけないな。
『そ、そうだね』
なんだろう……念話のせいか口調が違う。たぶん、普段のミミルは表情だとか語気、語調が邪魔をして尊大に聞こえるんだろう。
さらさらとした銀色の髪、血管が透けて見えるほど白い肌。もっちりとした頬はつるつるのすべすべだ。大きな目にはウルウルと潤んだ瞳。それが光をキラキラと反射してとても……うん、子どもだな。とても可愛らしいが、そこらにいる子どもと変わらない。
『今夜は何が食べ……』
『肉』
『――たい?』
質問が終わる前に返事が来た。昼ごはんに肉がほとんど入っていなかったからだろうな。ヴィースの頬肉は脂が多いからあまり入れなかったんだよな。
それにしてもミミルの肉好きにも困ったものだ。いや、あの水で煮てしまうと味が抜けてしまうダンジョン産野菜しかない世界で生きていれば仕方がない。だったら今夜は普通にバーベキューにして焼き野菜にするか。
この物語はフィクションであり、実在の人物・地名・団体等とは一切関係ありません。






