表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/31

第二十七話 破壊の十字路・救世主は消えた

「魔王? 人間が、魔王? なにそれ、意味わかんない」



目を細めたアルテミス。殺意を乗せた風が俺の頬をうすく裂いた。



「お姉ちゃんも落ちぶれたね。そんな人間をそばに置くなんて」


「……リル。避難が終わり次第、私も助太刀する」



アルテミスに一瞬だけ目を向けたへカーティアは、そう言って踵を返した。


瞬間、アルテミスが動く。



「その舐め切った態度がムカつくんだよ……! 動けないようにお姉ちゃんの手足を引きちぎってやる」



赤い旋風(せんぷう)が駆ける。


俺を無視して背後のへカーティアへ迫るアルテミスを、迎え撃つ。



「ちょ——なんで……ッ!?」


「——変・性」



右手の魔王フレイヤを上空へ投げ、第三形態へ変身。


燃え盛る大剣をアルテミスへ叩きつけた。



焦熱たる暴(ムスペルヘイム)虐の黒星(・スルト)


「——ぷふぁッ! 人間のくせにおもしろいギャグもってるじゃん!」



第三形態の兵装・爆ぜ螺旋す(ティルーヴァ)る炎煌剣(ソラス・ファング)と真っ向から拳を重ねたアルテミスが嘲笑する。



「でも弱いね。精々がお姉ちゃんと同程度でしょ? そんなんじゃ止められないよ」


「これ以上をお望みなら、引き出して見せろよ」


「年下で人間のくせに生意気」



拮抗(きっこう)していた剣と拳の間で炎が爆ぜ、俺とアルテミスは距離を取った。


そこへ、上空に飛んだ魔王フレイヤの魔術が炸裂する。



「貸し一つ! サポートしてやるから全力で(わらわ)を守りなさいッ」


「逃げても良かったんだぞ」


「魔王が背を見せるわけにいかんでしょッ」



陥没した地面からいくえもの巨木が槍のごとく突き出し、アルテミスへ迫る。


それをかわすこともなく、アルテミスは視線をそえた。


ただそれだけのことで、無数の巨木に亀裂が走り、消失する。



「魔術程度なら視線だけ殺せるってか……ッ!」


「ザコ魔王は昔かっらザコだねえ!」


「うるさいっ! 妾は戦闘向きじゃないのっ!」



魔弾と砲撃による絨毯(じゅうたん)爆撃がアルテミスを上空から襲うも、彼女に直撃する範囲だけが霧散(むさん)して消える。


足止めはできても、ダメージを与えることはできないようだ。



「リル様、微力ながらわたしもお力添えします」


「……行けるか、ヴィヴィアン」


「行けます」



俺の脇に挟めていたヴィヴィアンが、覚悟を決めた表情で言った。


今の彼女では、まともに打ち合うどころか目が合うだけで体が砕ける。


正直、話にならない。


しかし、おおきく成長するための絶好の機会でもある。


ヴィヴィアンは実戦で成長するタイプだ。


なにか、大きなものを得られるかもしれない。



「アルテミスとは目を合わせるな。死ぬぞ」


「……わかりました」



俺でさえ、目を合わせただけで肉体が悲鳴を上げたのだ。


今のヴィヴィアンでは、確実に死ぬ。


第三形態では鑑定が使えないから、どういったスキルなのか詳細はわからない。


ただわかっているのは、視線だけで魔術を殺せる金銀妖瞳と——。


歩くだけで地面が粉砕し、大将軍三人を難なく倒す攻撃力。


自己強化系のスキル……しかも破壊力に特化したモノである可能性が高い。



「息を殺せ。気配を殺せ。絶好の機会に、過去最高の一撃を繰り出せ」


「ハイッ」



頷いたヴィヴィアンを置いて、俺は走る。


絨毯爆撃の最中(さなか)へ、荒れ狂う炎威(えんい)が轟いた。



「出力四十%——爆ぜ螺旋す(ティルーヴァ)る炎煌剣(ソラス・ファング)



かつて、へカーティアを一撃の元にほふった黄金の斬炎(ざんえん)が、魔王フレイヤの魔術もろともアルテミスを呑み込んだ。



「倒したの!?」


「いや——」



魔王フレイヤの言葉を否定するかのように、影が飛び出した。


炎を全身にまとわせた影——アルテミスは、自身の疾走でまとわりつく炎を掻き消し……



「今のは危なかったよ。ねえ、人間。あなた何者?」


「魔王だ」



重なり合う大剣と拳から生じた衝撃で、上空のフレイヤが吹き飛んだ。



「キャハ——信じるよ。褒めてもあげる。人間の身でよくそこまでの力を手にしたね。数だけが取り柄の劣等種なくせに」


「世間知らずなだけだ」



触れたもの、すべてを破壊しながら振るわれる拳。


技術も何もない、お粗末(そまつ)なただの突きが風を巻き起こし、俺のドレスと肌を裂く。


凄まじい攻撃力だ。


防御しても、威力が突き抜けてくる。



「それはそうかも! だってわたし、シェルリングから出たことないんだもん。いつもいつも戦争ばっか。攻めてくる敵兵を殺して殺して殺して……そんな光景しかわたしは知らない」



首を刈りとるようにアルテミスの右足が跳ね上がる。


後方へ跳んで回避するも首の皮が切れ、瞬く間に距離を詰められる。



「なら国を出れば良かっただろ。それだけの力があったのに、なぜ言いなりになってた?」


「殺せば褒めてくれるから。このスキルのせいで、わたしは誰にも触れられなかった。抱きしめようとしたら死んじゃうんだよ? 歩くだけで草花が散って、寝返りで部屋が吹っ飛ぶの。みんなわたしを遠ざけたよ。でも、()み嫌われたわたしでも、敵兵を殺せば褒めてくれるの」


「……スキルが制御できないのか」



号砲を鳴かせて炎が横殴りにアルテミスを襲った。しかし、視線でそれを掻き消しながら、重く鋭い蹴りが大剣の一閃を押し返す。



「クスクス……この二十年で制御できるようになったよ。——いいこと教えてあげるよ、人間。まだわたしは、三分の一しか力を出していない」


「———」



跳ね上がった大剣が、得体の知れない猛威によって手から吹き飛んだ。


握っていた腕がひしゃげ、激痛が体を駆けめぐる。



「アハッ! すこし本気を出しただけで壊れちゃったね、人間ッ」



愉悦(ゆえつ)を咲かせ、アルテミスの左拳(さけん)がとどろいた。


闘気とはまた違う、紫色のオーラを纏わせた拳。


感覚でわかった。


それは、マズイ——



「終わりだよ。跡形もなく消し飛べ」



かわすことも避けることもできない距離で、俺は——なすすべもなく。





「アッハハハハハハハハハッ!!! あー、きもちぃぃっ!! 弱いなあ、弱すぎるよおまえらっ!! 本当に滅んじゃうよ、この国ぃッ!!」



拳を振り抜き、掻き消えたリル。


スキル『破壊の十字路(ソーテイラー)・救世主は消えた(・トゥイラ)』の力を三分の二ほど込めた左拳によって、手応えを感じる間もなく消失した。


あらゆる攻撃、行動、動作に破壊補正がかかる——アルテミスのこのスキルは、〝触れただけでちり一つ残さず破壊する〟というレベルまで昇華されていた。


その気になれば、視線だけでへカーティアを殺せてしまえるほどに。



「——でも、それだけはしてあげない」



なぜなら、彼女にもおなじ苦しみを味合わせるために。


取るに足らない弱者とたわむれているのもそのためだ。あえて時間を稼ぐことによってへカーティアの恐怖心をあおる。


どこに逃げても必ず追いついてみせる。その自負があるからこそ、アルテミスはリルの相手をしていたのだ。



「さぁて、次はザコ魔王の番だよ。逃げてもいいよ? すぐに追いつくから」


「……っ」



上空の魔王フレイヤが頬を引き攣らせた。


その表情にアルテミスはゾクゾクと背筋を震わせて、飛びあがろうと足に力を込めた瞬間。



「あ……れ? か……体が、動かない……?」



なぜ……?


答えは、単純にして明快だった。



「え……? なんで……?」



両膝に……風穴があいていた。



「まだ三分の一しか出していない? ——奇遇だな。俺もまだ、変身を二回も残していたんだ」



アルテミスの背後——


開かれた扇子(センス)を口元にあて、性別とわず魅了する色香(いろか)を漂わせたリルがそこにいた。


第四形態・揺蕩う淫らな獣星(ア・ザーリヤート)


かの勇者を滅ぼしたその姿で、リルはあえかに微笑む。



「手加減してやったんだ。本気で来い」


「——な、めるなぁぁぁッ!!」



両膝から血を噴かせながら、アルテミスの絶叫が破壊を撒き散らす。




「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ