表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/31

第二十五話 存在不明  

「ンで、リル様。こいつどうするよ? 処刑しとくか? それとも公開処刑?」



魔王フレイヤとの和解後、俺たちは元の位置まで戻ってきた。


ラヴィーナに首根っこを掴まれたプレテイラは、身動きできないよう縄で縛られていた。


だというのに、プレテイラは好戦的な笑みを浮かべ、俺を見上げる。



「ククク……こうも簡単に儂が捕まるとはな……すこし舐めておったわ」


「もう少し作戦を練るべきだったな」


「しかしまあ、儂の筋書きに変更はない。少しばかり不自由なだけよ」


「筋書き? 一万の軍もサボルアも、頼みの綱のバルバトスも失ったおまえに、これ以上なにができる?」



魔王フレイヤはプレテイラの反乱に乗じてへカーティアに会いにきただけだという。加えて、新たに魔王となった俺の視察もかねて。


なので、バルバトスからはもう支援を受けられない。



「せっかく(わらわ)の精鋭部隊を貸出してやったってのに、こうも簡単にやられちゃってさー。指揮官が無能だと付き従う兵も可哀想だよ」


「なに調子に乗ってるのよ、フレイヤ。ちょっと黙ってなさい」


「うぐぅ……まだ根に持ってるの? もっと寛容(かんよう)に行こうよ……たかがキスぐらいで」



こちらをチラ見するフレイヤへ、俺はため息を吐いた。



「たかがって、おまえあれだけ暴れてたじゃないか。そのキスで」


「リルはもうすこし、キスをしたことに対して喜ぶべきだと思うんだけどー?」



俺としては、キスした感触なんてなかったから嬉しくもなんともない。



「き、キスっ!?」


「……あ゛? キス?!」



ヴィヴィアンとラヴィーナが目を見開いて俺をみた。


スッと、ほぼ無意識に視線をそらす俺。


その反応を見た二人が、なにやら顔を赤くして体を震わせた。


程度の違いはあれど、さきほどのへカーティアみたいだ。



「き、キス……っ(リル様とキスしたい……キスしたいキスしたいキスしたいキスしたいキス——)」


「あたしだってまだ首絞め以上のことはされてないのに……ッ! しかもリルちゃんの姿で……あたしより先にキスだと……ッ!?」


「(ラヴィーナ様……ハード過ぎますよそれ……下手したらキスより濃厚です……)」



唇を噛んで俯く二人からは目線を逸らして、再度プレテイラを見遣る。


依然として、余裕の笑み。


捕虜としての表情ではなかった。



「叔父様、どうしてこのようなことを? 賢いあなたなら、返り討ちにあうことぐらいわかっていたはず。それでもどうして反乱を……?」


「へカーティアよ。誇り高き魔人族よ。お主は本当に納得しておるのか? 人間が、我ら魔人族の上に立つということを」


「無論。納得もしています。彼は魔王としての素質をたしかにもっている。民を想う心も、民を守る強さも。そして、王に必要不可欠な、偉大なる夢も」


「統一国家……そんな夢物語が本当に、その男ならなせると?」



プレテイラだけでなく、フレイヤも俺をみた。


多分、この先ながいこと、何度も問われる質問だ。


だからこそ、すでに答えは用意してある。


凝った言葉ではなく、シンプルに。


俺の想いと覚悟を乗せた言葉。



「成してみせるぞ。すべての国を統一し、争いのない平和な世界をつくってみせる。もう誰も、戦争なんかで泣くことがないような世界を」


「そしてその夢を、私は支えると決めた。だからこそ魔王という座を譲ったのです」



俺の言葉をついで、へカーティアが胸中(きょうちゅう)吐露(とろ)した。


それは、俺自身も聞いたことのない想いだった。



「彼なら必ず成し遂げてみせる。絶望にあえぎ、歩くのが辛くなったとしても……私がそばで支える。その先にある平和を信じて」



へカーティアが俺に視線を向けて、微笑をみせた。


息も詰まるほどに美しいその笑顔に、俺の胸が高鳴る。


これまで感じたことのない感覚に、戸惑いを浮かべながら俺は、ぎこちなく笑い返した。



「そうかそうか。口でいうのは簡単じゃがな。まあ、好きにやるといいさ。儂はもう、肯定も否定もせん。ただ、この国が滅びゆく姿をここで眺めているとしよう」


「残念ですが、叔父様。いくら私の親族とはいえ、反乱を起こした首謀者。生かしてはおけません」


「ほっほ! よいよい。姪とはいえ、一度は主君と認めた女。その手で殺されるのなら本望よ。して、処刑はいつになるのかの?」


「近日中に行います。他にも、あなたに手を貸した元王族と一緒に」


「ほっほっ! 自らの親族を殺すか! 儂がいうのもあれじゃが、恥知らずの所業じゃのお」


「本当に、叔父様がいうことではありませんね。……ラヴィーナ、連れていけ」


「うっす。おい、そこのおまえとおまえ、牢屋にぶち込んどけ」



ラヴィーナの命令で兵士二人がプレテイラを引き連れて行く。


その後ろ姿を見て、俺は違和感を感じた。


……なんだ、この余裕は。


何かひっかかる。



「一件落着! よし、そこのロリ男! 妾のファーストキスを奪った件についていろいろ考えんだけど——」


「待て、プレテイラ。おまえ、まだ何かあるだろ?」


「——あれぇ? 魔王だから対等だよね? どうして無視するのかな……?」



俺の静止に、プレテイラは下卑(げび)た笑みをこちらに寄越した。



「———あ」



そこで、ヴィヴィアンが何かを思い出した。



「あの、そういえば捕まっているときに、こんなことを仰っていました……へカーティア様の妹君が本命だ、とかって——」


「——まさか……叔父様ッ!!?」



妹君? 


へカーティアに妹? それは、初耳だな。


そして……なんだ? この雰囲気は。


妹の話題が出た瞬間に、空気が重苦しくなった。



「叔父様、あなた……もしかしてアルテミスを……ッ!?」


「ホッホッホッホッホッホッホッホっっホッホッホッホッホッホ———ッッ!!!」


「き、貴様ァッ!!!」



壊れたように笑い出すプレテイラの顔面を殴り、へカーティアが胸ぐらを掴んで引き寄せる。


その見たことのない鬼気(きき)迫る様相に、俺は背筋を(あわ)立たせた。


どうやら、この場でその存在を知らないのは、俺とヴィヴィアンだけのようだった。


全員の表情が凍りついている。フレイヤでさえも、親指の爪を噛んで何か思い詰めた様子を浮かべている。



「カリオストロ。簡潔に説明しろ」


「はっ」



その緊急性を把握(はあく)した俺は、比較的冷静なカリオストロに説明を求めた。



「へカーティア様の妹——アルミテス様は、そのあまりにも巨大すぎる力ゆえに封印されております。場所は王城の地下。いくえにも封印を(ほどこ)し、並のものでは近寄ることすらできない結界を張っております」


「アルテミス……。その結界と封印が破られる可能性はあるのか?」


「ないとは、言い切れません。しかし……タイミングが悪いことにきょうは……」



珍しく言葉を詰まらせるカリオストロ。


俺は無言で、続きをうながす。



「結界を定期的に張り替えているのですが、その周期がまさにきょう。張り替え作業を行なう特殊な魔術師ならば、時間はかかるにしろ封印を解くことは可能でしょう」


「その魔術師が脅迫、あるいは金で釣られていたとして……」


「張り替え作業は明朝から行われています。もし、それが事実であるのなら……もう封印は」



カリオストロから目線を移して、俺はへカーティアの元に向かった。


第二形態から第一形態へと戻り、酷く取り乱したへカーティアの両肩を掴む。


青碧(せいへき)色の瞳と目線を合わせる。



「秘密にしていたことについては問わない。それよりも、そのアルテミスって妹をどうにかすることの方が先決だ。違うか?」


「リル……っ」


「ほっほ! ムダムダ、ムダじゃあ!! もう封印は解かれておる! そのために儂自ら時間を稼いだのじゃからなあッ!!」


「おまえは黙っていろ」


「げぼッ!?」



騒ぎ立てるプレテイラを蹴り飛ばす。


へカーティアの体は震えていた。


弱々しく俯いている。


きょうは、二度もへカーティアの新しい一面を知れた。


しかし、どうすれば落ち着かせられる?


あのへカーティアが取り乱すほどの存在だ。


今から封印場所に向かうより、アルテミスとやらの情報を集めて、再び封印する算段を考えた方がいい。


だが、



「ご、ごめ、ごめんなさい……っ! リル、わ、私の、せいだ……私が、あの子のことを、遠ざけていたから……っ!」


「へカーティア。時間がない。アルミテスについて知ってることを教えてくれ。プレテイラが身を切ってまで使った切札だ。相当強いっていうのはわかる」


「リル、リル……っ! だめなの、あの子は……日に日に力を増していて……封印を解かれたら、もうこの国は……っ」



ボロボロと溢れる涙と嗚咽。


心拍数も上がっている。呼吸が荒い。


どうすればいい?


どうすれば、落ち着かせられる?


俺は、どうすれば———



「へカーティア。顔を上げろ」


「り——んんぅっ!?」



あごを掴んで、ムリやり顔を上げさせた俺は、へカーティアの唇に自分の口を押し付けた。


驚愕に目を剥くへカーティアの体を引き寄せ、彼女の震えがおさまるまで唇を繋げる。


薄く漏れる苦悶(くもん)


不思議と抵抗はなく。


へカーティアから震えと恐怖が消えていった。



「——ぷふぁ……、ば、ばか……こんな状況で……ばかっ」


「落ち着いたか?」


「うぅ……ッ! まあいい、責任はしっかりと……とって、もらうからなっ」


「わかった」


「……本当に意味をわかって……——ああもうっ!!」



顔を真っ赤にさせて、さっきまでの取り乱し方が嘘のようにへカーティアは前髪をかき上げた。


元通りになってよかった。


それにしても、キスには鎮静作用があるのか。今後も困ったら使っていこう。



「時間がないッ!! アルテミスの封印が解かれたかどうかはまだわからないが——」



「——わたしが、どうしたって? お姉ちゃん」



「———」



瞬間、凄まじい重圧がこの場を襲った。


背後から聞こえてきた声に振り返る。


そこには、



叔父(おじ)様も久しぶり。老けたねえ。ああでも、なんかわたしを解放してくれたらしいじゃん? だからほっぺにチュウしてあげる♪」



へカーティアとは似ても似つかない、血に浸したような赤い髪。


髪の毛を掴まれ、()()()()()()()プレテイラの生首。


その頬にキスをした少女は、付着する血を舐めとってあえかに笑う。



「それで——わたしがなんだって? お姉ちゃん」



「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、どんなものでも泣いて喜びます!


ブックマークもいただけると最高にうれしいです!


何卒、よろしくお願いします!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ