第二十三話 制圧完了
「く、くそ……ッ!! 生き残りはすぐに隊列を整えろ!! 急げッ」
サボルア率いる兵士たちは城下街まで吹っ飛んでいた。
兵士の宿舎や食堂、軍と提携している酒場などが並ぶ大通りで、苦しみ悶える兵たちが体を起こす。
先の一撃で、大半の兵が戦闘不能に陥っているようだった。
まあ、一万で玉座の間に突っ込んでくるアホばかりだし仕方がない。
身動きも取れないで、逃げる場所もなく、わけもわからず重傷を負っている……五割の兵はそんな感じだ。
「気勢も削がれ、奇襲も失敗に終わり、残るは千にも満たない負傷兵。それで……次はいったい何を見せてくれるんだ?」
「ぐく……ッ!! いつの間に、この距離を……ッ」
サボルアとの間合ギリギリまで近づいた俺は、その巨体を見上げた。
「体ばかりが大きくなりすぎて、脳みそに栄養いってないのでは?」
「舐めやがって人間風情がッ」
「その人間風情に指いっぽん触れられないおまえは、魔人族ですらないな」
踏み込み、袈裟に振るわれる戦斧を大杖で受け止める。
突き抜けた衝撃が俺の足を地面に埋め、突風が髪を揺らす。
なるほど。思い上がるだけの力はあるようだ。しかし、
「笑わせるなよ。おまえ程度に俺の座を犯せるものか」
「——ッッ!!?」
触れ合う大杖から瞬時に魔方陣が展開——まばたきよりも早く、黄金の極光がサボルアを呑み込んだ。
斜め上へと押し上げられていくサボルア。装備は一瞬にして粉砕し、皮膚が焼け爛れる。
「——おまえと俺とでは、覚悟の質が違う」
「ッ」
宙を吹き飛ぶサボルアの背後に瞬間移動し、背中合わせとなる。
振り返りざまに戦斧を振るうサボルアよりも早く、俺は手のひらを背中に置いた。
「———」
ゼロ距離より射出された魔弾がサボルアを地面に叩きつける。
特大のクレーターの上でうつ伏せになるサボルア。そこへ、容赦なく魔弾を撃ち続けた。
一発一発の威力は高くない。オークを昏倒させられる程度の威力だ。
それらを高速で叩き続け、百を越えたあたりで俺は撃つのをやめた。
舞い上がる粉塵。
隊列を組み直していた兵士たちは、サボルアの惨状をみて慄き……やがて武器を捨てた。
「これで理解しただろう。誰に喧嘩を売ったのか。そしてその果てにある結果を」
反乱兵の他にも、出勤途中だった兵たちが集まってくる。上空にいる俺との立ち位置を理解した何人かの兵は、すぐさま周囲の反乱兵を捕縛しにかかった。
「ま——魔王様、この者たちはいったいどういたしましょうか……?」
地上に降り立った俺へ、緊張を孕ませた兵士が捕縛した反乱兵を見遣る。
「カリオストロとラヴィーナの側近が回収している。そちらに引き渡してくれ」
「はッ」
「ああ、それと……」
「はい?」
「すまないな。出勤早々、見苦しいものをみせた」
「い——いえッ!! こちらとしましても、眼福でありますッ」
「………?」
「そ、それでは失礼しますッ!! ——おいクソ野郎どもッ! このヘスカタがてめえらを無事に地獄まで連れてってやるからなッ!! 覚悟しろよオラッ!!」
「——ヘスカタぁ? てめえなに調子に乗ってんだゴラ」
「ひぃぃッ!!? ら、ラヴィーナ様どうしてここに……ッ!?」
三十代の大男が、二十代前半のラヴィーナに髪の毛を引っ張られて泣きはじめた。不憫だ。
さて、これで兵士はどうにかなったが……
「……カリオストロ。もう一人はどこにいる?」
「はっ。プレテイラですが、私の側近が監視を続けておりま——」
「——カリ、オストロ……さま……ッ」
「!?」
カリオストロの言葉を遮るようにして、黒装束の男が現れた。
カリオストロ軍のその男は、今にも倒れてしまいそうな負傷を負っていた。
「申し訳、ございません……不覚を」
「報告しろ」
「はっ……、監視についていた小隊が……私を除きバルバトス兵に捕らえられました。それと……」
カリオストロから一瞬だけ俺を見やった男は、全身をガタガタ震わせた。
「ヴィ、ヴィヴィアン千人将が……人質に——」
「——ほっほ。足の速いヤツじゃのぉ。もう報告を終えたか」
「貴様……」
馬に乗って現れたのは、プレテイラ・ハサード。
へカーティアの叔父にして、元王叔の老人だ。
そして、その馬が引く荷車に乗せられていたのは、手足を縄で縛られたヴィヴィアン。
脳に——血がのぼる感覚。
血液が沸騰しそうなほど、急激に熱くなった。
「申し訳ございません……リル様」
「ほっほ。安心せい、縛っただけで丁重に扱ってやったわ。食事も与えたしの?」
「……それで。俺に何をやらせる気だ?」
「話が早くて助かるのぉ」
見落としていた。まさか、ヴィヴィアンが人質に取られるとは。
ああ、しかし。
へカーティアの親族だからと情けをかけてやろうと思っていたが……
「と、その前に邪魔立てされるのはご免じゃからな——」
「し——ね♡」
「——大将軍諸君には、手土産を用意したぞい」
頭上から、どこからともなく現れたアマリリスが紅に染まった戦斧をプレテイラへ叩きつける——しかし、すんでのところで横槍が入った。
アマリリスの重い一撃を受け止め、横に流すという高度な技術を披露した兵士。
さらに、俺たちを囲むようにして十一の武装兵が姿をみせた。
「ご存知、バルバトス魔王軍精鋭部隊『十二人の狩人』——お得意の野戦ではないが、それでも並の兵士とは一線を画す。お主ら大将軍を足止めする程度なら——」
「ちょっとおじいちゃんうるさい♡」
「———ッ」
血反吐と共に宙を舞う精鋭兵。
さきの、アマリリスの一撃を受け流してみせた技巧をもつその兵士が、白目を剥いてプレテイラの横を滑走していく。
「あなたの物差しでなに勝手に測ってくれちゃってるのかしらぁ♡ 足止め? 甘いあまい♡ 本気で足止めしたいのなら、あと百人は連れてきなさいな♡」
「き、貴様……っ!?」
凄まじい勢いで荒れ狂う戦斧の紅。
紅の軌跡が乱立し、ついで訪れる特大の破砕音。精鋭兵の防御すら難なく砕き、アマリリスが特攻をはじめた。
「——ま、待てッ!! こちらには人質が……ッ」
「ほら、仕方ねえヤツだな。次からは気をつけろよ、ヴィヴィアン」
「あぅ……も、申し訳ないです……」
「え?」
荷車に目を向けたプレテイラは、人質のヴィヴィアンを解放するラヴィーナの姿を目にした。
人質を守っていた兵士は、なぜか上半身が地面に埋まり、下半身だけが露出している。
「——残念でなりません。この鎌が、元とはいえ王族のお方を殺めるために使用するとは」
「か、カリオストロ……ッ」
プレテイラの背後から、大鎌が首を刈り取るように添えられた。
意気揚々と、プレテイラが喋りはじめた時にはすでに三人は行動を開始していた。
それに気がついていなかったのは、この場でプレテイラただ一人。
もちろん精鋭兵も、それらに気付き動こうとしていた。しかし、アマリリスの猛攻により失敗。
三人のムダのない動きによってヴィヴィアンは解放され、邪魔者も消えた。
「これでやっとお話ができるな、プレテイラ」
「……ッ」
にぃっと口角を上げて、幼女姿の俺はプレテイラへ近づいた。
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