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第二十二話 反乱軍

「む……極秘の謁見(えっけん)という情報だったが……(はか)られたな」



サボルアを筆頭に雪崩れ込んできた一万の反乱軍。馬は置いてきたのか、全員地に足をつけていた。


武装は奇襲にふさわしく軽装。その中には、ひときわ異彩を放つ男たち——バルバトス魔王国の精鋭部隊も混ざっているようだった。


なるほど。精鋭と呼ばれるだけあって大した強さだ。大将のサボルアが可哀想に思えるほどに。



役者は一人欠けているが、はじめるとしよう。



「——サボルア・ハト。俺はおまえに命じたはずだ。辺境で畑を(たがや)せと。収穫にはまだ早いと思うが?」


「ふん、高みから偉そうに……このサボルア・ハト――真に魔王の命令でなければ従わぬッ! 貴様こそわかっているのか? その座は人間である貴様が腰を下ろしていい場所じゃないことをなッ」



サボルアの怒声に、周囲の兵士たちも叫んだ。


抜き身の剣を俺へ向け、気勢を叩きつけてくる。



「そこは人間の座るところではないッ!!」


「我ら誇り高き魔人族を人間ごときが支配できると思うなよッ!!」



口々と放たれる言葉に背後のカリオストロとラヴィーナが苛立ちを(つの)らせる。


待機と伝えてはいるが、暴れかねない状態だ。


二人のわずかに漏れた殺気を手で制して、俺は(あざ)笑うようにサボルアを見た。



「吐いてるだけじゃ何も変わらんぞ。御託はいいから結果を示せ。俺をこの座から引きずり落としてみせろ」


「……望むところだッ! ――行くぞ貴様らッ!! これは我が祖国を取り戻すためのッ! 正義の戦いであるッ!!」


「「「応ッ!!!」」」



鞘から剣を抜き、走るサボルア。その後ろを濁流(だくりゅう)のごとく兵士が殺到した。



「変身するまでにタイムラグがあるッ!! 舐めているうちに殺せェッ!!!」


「なるほど。よく見てるな、おまえ――もしかして、女の俺に惚れてるのか?」


「たわけがッ」



依然として、俺は笑みを貼り付けたまま玉座で足を組んでいる。


押し寄せる無数の軍勢(アリ)を見下しながら、冷静に呼吸を繰り返す。



「――くたばれッ!!」



跳躍で階段を越え、上段に構えたサボルアが裂帛(れっぱく)の叫びと共に振り下ろした――刹那。



「変身までタイムラグがあると言ったな?」 


「なッ――!!?」


「あれは演出だ」



サボルアの剣撃が放たれるよりも早く、第二形態へと変身した俺は大杖で剣を受け止め……



「受け身はしっかりとれよ。手加減してやるから」


「―――」



俺のちいさな手をサボルアの腹部に添える。瞬間、ゼロ距離から放たれた黄金の魔弾によってサボルアは吹き飛んだ。


城の壁を内部から打ち破り、血を撒き散らしながら消える。続けて、俺の後頭部上に現れた魔方陣が時計回りに動き出す。


玉座の間を満たす濃厚な魔力の気配。


兵士たちが息を呑む——



「〝出直しな(アーデ・ヴィーダ)〟」



狂い咲く魔弾の豪雨。魔方陣から射出された魔弾が反乱兵を撃ち抜き、次々とサボルアの後を追わせた。


一瞬にして玉座の間から兵士が消えた。



「……さて、負傷した兵たちを回収してくれ。手加減したから死んでいるヤツはいないと思う」


「御意」


「り……リルちゃん……かぁいい……あぅっ!?」


「………」



腕を伸ばしてきたラヴィーナの手を払い、冷ややかな視線で灰色の瞳を射抜く。


びくんと体を震わせ、頬を紅潮させる獣魔人(ハーフ)。睨まれているというのに、尻尾をパタパタ振って喜んでいた。



「駄犬、仕事」


「は、はぁい……っ♡」


「……陛下。やはり国外へ追放した方が懸命かと」


「……いや、だめだよ。変態だけど優秀だから」



真顔で進言してくるカリオストロ。額に若干、青筋が浮かんでいた。


ご立腹だった。カリオストロが怒っている。はじめて見た。



「使えなくなれば、追放にしても構わないのですね?」


「そこまで言ってないぞ? 俺の見てないところでラヴィーナに怪我させるなよ?」


「しかし、陛下の貞操が危ういのでは……?」


「だ、大丈夫……俺、まだ変身を三回も残してるから」


「………」


「か、カリオストロ……仕事、しよ?」


「御意」



渋々頷いて、退いてくれたカリオストロ。


ほっと胸を撫で下ろす。自分でもよくわからないが、あまりカリオストロには強く言えない。


他の大将軍は扱いがわかってきたから、堂々と命令できるのだが……。



「……遊びがないんだよな」



諜報(ちょうほう)、護衛等々、仕事がらカリオストロは常に気を張って警戒している。


遊びがない。つまり、冗談が通じない。


いたって真面目で忠実だから、俺も不用意に変なことを言えない。


それと、風格もある。カリオストロのそれは、異質だ。他の大将軍がなぜ彼と肩を並べていられるのか不思議なくらいに。


へカーティアがいなければ、カリオストロがシェルリング軍総大将になっていたかもしれない。



「……おっと。俺も動かなきゃな」



反乱兵を回収するカリオストロとラヴィーナ、その側近たちから視線を外して王座から立ち上がる。



「サボルアくん、死んでないといいけどな」



元より殺す気で迎え入れたのだが、このまま終わってしまったら不完全燃焼だ。


二度と反乱が起きぬよう、サボルアくんには生贄になってもらう。



そして俺は、魔術で全身を強化(ブースト)すると地を蹴った。


「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


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