第二十一話 反逆の夜明け
「――さあて、いよいよ決行日となったわけじゃが……どうじゃ、サボルアくん。仕上がりの程は?」
朝焼けがシェルリングを照らしていく中。
宿屋に集まった兵百人の前で、プレテイラは騎乗するサボルアに問う。
巨漢サボルア・ハトは自信に満ちた笑みを浮かべ、以前より数倍に膨れ上がった筋肉をたたく。
「最高です。負けるビジョンが見えぬ程に。あのへカーティア様にも負ける気がしませんよ」
「ほほっ! それは大きく出たのぉ。しかし、期待はしている。見事、一万の軍を率いて玉座にそりかえっておる人間を討ち取ってみせよ。サボルアくん」
「ハッ!!」
拳を手のひらに突きつけ拱手の礼をとると、サボルアは馬を走らせた。それに続き、百の兵も後を追う。
まだ誰一人として歩いていない目貫通りを、シェルリング魔王国の旗を掲げながら走る。
これで万が一、兵士に見つかっても妨害されることはない。ムダな争いは避けられる。
「残りの一万、路地裏から進行をはじめました。予定通り、サボルア様の城門突破に乗じるそうです」
「おうッ!!」
こうして、反逆者たちは魔人族の誇りを胸に城門を目指した。
「うまくやれるといいがのお、サボルアくん。まあ、こちらには人質がいるしの」
「――ぜったいに許しませんから。いくら元王族だろうと……こんなことはッ」
「ほほっ! ヴィヴィアンちゃんだっけの? お主とあの人間が関わりを持ったことで、思わぬ隙ができた。感謝しよう」
「この……ッ」
手足を縛られ荷車に乗せられていたヴィヴィアンは、忌々しくプレテイラを睨みつけた。
「安心せい。ことが終われば無事に帰してやる。いっさい手出しもしておらんじゃろ? 同胞を汚すほど落ちぶれておらんわ」
「リル様も、その同胞なのでは?」
「たわけが。そこについて論ずる気はない」
「……勝てませんよ。たかが一万で」
「そうかもな。正直、サボルアくんには期待しておらん」
「え……?」
その言葉に、ヴィヴィアンが間抜けな声を漏らした。
「サボルアくんにも、バルバトスの精鋭にも期待はしておらん。本命は他にいるのじゃよ」
「……本命?」
「――聞いたことがあるかな、お嬢ちゃん。前魔王へカーティアには、血の分けた妹がいるという話を」
――シェルリングの禁忌にして、最終兵器と恐れられた破壊神を。
*
「――来たか。案外早かったじゃないか、サボルアくん。まさか、報告を聞いた次の日に来るとは思わなかったぞ」
早朝。城の主塔から王国全体を見渡していた俺は、薄く笑みを浮かべた。
円形の城壁に囲まれた城下街に向かって、目貫通りを駆ける集団。
路地裏からもアリのようにうじゃうじゃと正門へ集まってきていた。
「なるほど、旗を掲げていれば敵だと勘違いされないし、比較的楽に門を突破できる。考えたじゃないか、サボルアくん」
目論見通り……というか、俺の命令通りかはさておき、正門は開かれた。俺の時とは違い、二体のゴーレムは反応しない。
無事、城下街への侵入に成功した反逆軍は、俺がいる王城まで一直線に馬を走らせる。
「さて、玉座にでも移動するか」
無論、彼らを迎え討つために。
これを制圧し、骨の髄まで俺には敵わないと思い知らせる。
一種、公開処刑のようなものだ。
こうなりたくなかったらやるなよ、という戒め。
「俺の礎となれ、サボルアくん」
そして王座にたどり着いた俺は、偉そうにふんぞりかえった。足を組み、肘掛けに肘を乗せて頬を支える。
俺の想像する王様ポーズ。
顔も作っておこう。
とはいっても、鏡がないからどんな顔になっているかわからないが。
そうこうして時間を潰していると、
「間抜けな野郎だなあ。奇襲からの短期決戦だってのに、情報が筒抜けなんだから」
「別に来なくても良かったんだぞ、ラヴィーナ」
「いやいや、万が一があったらいけないだろ、リル様。手助けはしないから、そばに居させてくれないかな?」
「そばにいるだけならな」
「へへッ。いつものへカーティア様ポジション、一度でいいから立ってみたかったんだよなあ。側近って感じがたまらないぜ」
ニヤニヤと口角をゆるませながら、ラヴィーナは俺の斜め後ろに立つ。
いつも謁見などがある時は、ラヴィーナの位置にへカーティアがいた。
そこで俺のサポートをしてくれたりするのだが、ラヴィーナは密かに憧れていたようだ。
「ここに立つだけで、さらに強くなった気がするぜ……」
「第二形態に勝てるようになるといいな」
「次は負けねえぜ――って言いたいところだけど、どうせなら戦いじゃなくてその、また——アレ、してほしいな……。次は馬乗りになって言葉責めしながら胸とか揉まれたい……それ以上のことも」
「………」
徐々に行為がエスカレートしていっている気がする。
そのうち、立場が逆転して襲われたりしないだろうか。
……不安だ。それにラヴィーナも鍛錬は欠かしていないから、多少なりとも強くなっているようだし。
最近はアマリリスと喧嘩じみた模擬戦も行っている。
気を抜いていると、あっという間に越されてしまうかも知れない
「それで、リル様。この茶番の内容はまだ聞いてなかったが……どういうふうに遊んでやるんだ?」
「見せつけるように、一方的な蹂躙だ。殺さず、生かして俺への恐怖を叩きつける。悪いがサボルアくんには死んでもらうことにした」
「なるほど。アマリリスの教育がなってねえから、あんなのが助長しちまうんだよな。それに比べて、うちの軍はみんなリル様に惚れ込んでるってのに」
「……惚れ込まれた覚えはないぞ? 嫌われるよりかはマシだが……もしかして全員、ラヴィーナと一緒で変態ぞろいなのか?」
「ば、ばっか誰が変態だ、だれがっ」
「――口には気をつけろ、ラヴィーナ。我らの主だぞ」
「か、カリオストロ……てめえ、またあたしの背後に立ちやがったな……!?」
会話に割り込んできたカリオストロが、ラヴィーナを睨む。
「いくら大将軍とはいえ、陛下には相応の言葉遣いを心掛けろ。周囲の人間が真似する」
「……へいへい――って、おま、なに当然のようにそこに立ってんだよ!? あたしのポジだぞ! 二人もいらねえって! 格が下がっちまうだろッ」
玉座の左斜めに後ろに立つカリオストロを、反対の位置に立ったラヴィーナが非難した。
「……陛下。恐れながら、ラヴィーナの降格を進言します」
「てめえ……ッ」
「……さすがに降格はしないけど……すこし落ち着こうな、ラヴィーナ」
「……しゅん」
「ふっ」
項垂れるラヴィーナと勝ち誇ったように口角を上げるカリオストロ。
大将軍の中で、群を抜いて戦闘力の高いカリオストロは、戦闘以外でも他の大将軍より抜きん出ているようだった。
「――っと、もう来るぞ。一応、雰囲気だけ作ってくれ」
「仰せのままに」
「よっしゃ、雰囲気だけならへカーティア様にも劣らねえぜ」
そして、強引に開かれる扉。
俺が命令し、カリオストロの側近が流した罠でまんまと誘導されたサボルア率いる一万の軍が、玉座の間に雪崩れ込んできた。
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