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第二十話 反乱軍の予期

「では――行きますッ!!」



山間部にヴィヴィアンの声が響いた。


硬い地を踏みしめ、ヴィヴィアンが突撃槍(とつげきそう)を繰り出す。


俺はそれを剣で右後方に流し、そのまま逆袈裟(けさ)に薙いだ。


一週間前ならば、開始三秒――二撃目で終わっていた。


だが、



「――ふぅッ!!」


「おお、速いな」



剣のリーチを正確に読み取り、ギリギリ刃が当たらない距離にバックステップ。引き戻した槍が踏み込みと同時に放たれた。


しっかりと体重の乗った突き。それを再び流し、目を見張る速さで引き戻した槍が俺の胸目掛けてうねる。


ヴィヴィアンが俺の侍女(じじょ)となって二週間が経った。


午前は勉強。午後からは山で模擬戦を行なっているのだが、ここ数日で驚くほど戦闘力を上げていた。


大体1000ほどか。とはいえ、その程度では荒波に飲まれればすぐに死ぬ。



「――はい、トドメ」


「ひぇ……まったく歯が立ちませんよ……」



都合百回の打ち合いを経て、俺は彼女の首筋に剣を添えていた。


荒い息を吐いて膝を曲げるヴィヴィアン。


一回一回の試合で本気を出すように言ってあるから、体力の消費も相当なものだろう。


だが、以前よりは数をこなせるようになっていた。


前までは三試合でぶっ倒れていた。今は十試合。これで九試合目だ。


俺はひとたび試合がはじまれば、疲れていようが問答無用で、百回打ち合うまでやめない。


結果、ヴィヴィアンは粘り強い体力と根性を養いつつあった。



「体力はついてきたし、うまく反射で動けるようになってきてた。いい調子じゃないか?」


「あ、ありがとうございます……っ! でも、これはまだ一騎打ちを想定しての試合ですよね……? 実際の戦場を意識したら、まだまだです……」


「そうだな。一騎打ちに持ち込むまでに荒波をくぐり抜けなければならない。一人で五人以上を相手にしなければならない時もある。上空からは矢と魔法が降り注ぐから、常に気を張っていないとならない。それ以前に、騎乗戦ができないと話にならない」


「うぅ……道が遠いです……」



汗と泥で体を汚したヴィヴィアンが俯く。


しかし、それも一瞬のこと。すぐさま立ち上がると、槍を手にした。


切り替えの速さはさすがと言うべきか。きっと背には守りたいものが多くいるのだろう。


こういうタイプは実戦で伸びるタイプなのだが、如何せん、基礎がお粗末だ。体力も心もとない。


そこら辺をクリアしたら、一度戦場に連れて行ってもいいかもしれないな。


次に征服予定の国はもう、決まっているわけだし。


おそらく、争いは避けられない。



「リル様、次お願いしますッ」


「おう」



裂帛(れっぱく)の気合をもって踏み込むヴィヴィアンの槍に、光るものを感じながら剣で弾いた。







結局、その後三試合を行ない、すっかり日が暮れた山道を馬に乗って帰還した。



「お疲れ。また明日な」


「は、はい……っ! ありがとうございました……また来週からもよろしくお願いします、リル様……っ」



疲労で今にも倒れてしまいそうなヴィヴィアンと別れる。


午後の鍛錬が終われば、ヴィヴィアンの仕事は終わりだ。


そして明日から二日間は休日。ヴィヴィアンは実家で休日を過ごすと言っていた。


これから準備をして向かうのだろう。



「……家族、か」



俺も、いつか家族ができるだろうか。


そんなことを考えながら、シャワーを浴びるため王専用の浴室へ向かう――途中、



「――陛下。報告しておきたいことが」


「カリオストロか。どうした?」



曲がり角。


廊下の中央で膝を折った眼帯の老人が、俺を待ち構えていた。


カリオストロは目線を上げると、重く静かな声を上げた。



「ついさきほど、元王叔(おうしゅく)のプレテイラ率いる軍が百人ほど入国しました。その中には村人に扮装(ふんそう)したサボルアの姿も確認しております」


「……何か企んでるな」


「はい。それに加え、未確定情報ではありますが……バルバトス魔王国の精鋭が紛れ込んでいると」


「バルバトス……たしか友好国の? 一ヶ月後に挨拶しに行くと封書(ふうしょ)を送ったんだが……」


「非常にきな臭いです。どうしましょう? 潰しますか?」


「……いや。隣国の精鋭部隊までかき集めてやりたいことなんて決まってるだろ。わかっていたらどうってことはない。放置しておけ」


「よろしいので?」


「ああ。それと、もし城に攻めてくるようなことがあればそのまま通せ。交戦するなよ。ムダな争いに兵を失いたくない」


「御意。ではこちらの軍を衛兵に紛れ込ませます。このカリオストロ、陛下の軍に損傷を与えることなく御身(おんみ)の元までお届けいたしましょう」


「頼んだ」



最後に(うやうや)しく礼をして消えるカリオストロ。相変わらず、凄まじい練度の気配遮断(スキル)だ。



「あの老人、いろいろ考えていそうでお粗末なだな。カリオストロ軍の諜報(ちょうほう)を舐めてないか?」



それともわざとなのか。わからないが、まあいい。


久々に本格的な戦闘になりそうだ。


敵兵は百と言っていたが、入国していないだけでまだいるだろう。


五千から一万か。



「バルバトス魔王国の精鋭は名高い猛者ばかりだと聞く。ここらで戦力を測っておくか」



バルバトスの魔王はへカーティアの友人と聞いていた。


ゆえにできる限り平和的に解決(セイフク)しようと考えていたが……そっちがその気なら、遠慮はしない。



「真っ正面から征服してやる」




「おもしろかった!」


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