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第十一話 第四形態

「――オラぁぁぁッ!!」


「――ッ」



剣戟が轟く。


地面に亀裂が入り、剣風が周囲の兵士を薙ぎ払っていく。


ライスの剣撃を真っ向から打ち返して、後退った瞬間に踏み込み——


二撃目を受け止めたライスの足腰が砕け、間髪入れずもう一発叩き込む。


秒速の再生よりも早く剣撃をねじ込み、大剣から溢れた炎がライスを消し炭にした。


しかし、淡い光がライスを型取り再生する。


これで百回目。



「どうしたどうしたどうしたぁ!!? 俺は死なねえ無敵だ最強だぁぁぁッ!!!」



咆哮と共に振り下ろされた一閃。


それを受け止めた俺の足元が蜘蛛の巣状に割れ、さらに亀裂を広げていく。



「そろそろだ……そろそろ追いつくぜ!?」



言葉通り、ライスの勢いが増した。


弾いた瞬間には袈裟が、(さば)いた瞬間には真上から、ライスの動きが音を越え、残像すら残して剣撃が舞う。


不死に際限のない強化……厄介な組み合わせだ。


いくら殺しても、どんな手を使ってでも生き返る。


殺した分だけ強くなるのだから、こちらとしては溜まったものではない。



「はっはーッ!!! おまえ、遅くなったなッ!!?」


「―――」



ライスの剣が、俺の大剣を滑るようにして迫る。


後方へ退いてかわすも、完全にはかわしきれず胸元から腹部までドレスが裂かれてしまった。


傷はない……が、周囲の視線が胸の谷間に集まる。


大事なところはギリギリ布で隠れているけれど、俺のそれなりにおおきな胸がほぼ露出する形になってしまった。



「おほ、おほっ!! リルちゃんもしかして誘ってんのかああああっ!?!」


「キモイな」



こいつもそうだが、俺たちを取り囲む兵士たちの目線も。


これが女性の感覚か。


これからは安易に胸の谷間を凝視するのはよそう。



「しっかし、なあ……こんだけ追い詰めてるってのに、その余裕の態度はなんなんだ? もう少し焦ろよ。俺、まだ強くるぜ? あと一分もありゃ、リルちゃんを越えられる。もっとこう、くっ、殺せ……みたいな感じで苦戦してくれないとさあ。楽しくねえよ」


「そんなだからおまえ、趣味の悪い女にしか好かれないんだよ」


「はあ? 俺様めちゃくちゃモテるし? ちょっとばかりかわいいからって男の俺に舐めたくち聞いてんじゃねえぞ? ん? 奴隷にしたら真っ先に孕ませてやるからな?」


「救いようのないゲスだな」


「俺を倒してから言えよ、ざーこ。踏み台。美乳」



最後のは褒め言葉だろうか。


とはいえ、褒められた感じはしないし嬉しくもない。


だが……このままではジリ貧だ。


ある程度、やれることは試してみた。


第二形態ならば、殺し切れる可能性があるかもしれない。けれど、今のライスを前にして第二形態では危険すぎる。



「仕方がない」



これ以上、ライスの勝利を確信した顔は見たくない。



「これだけはあまり使いたくなかったんだが……」


「お? まだ奥の手でもあんの? いいねえ、全部ぶっ潰してやるからこいよ」


「……俺のスキル『変性』は、変身するたびに戦闘力を増す」


「あ゛? もう変身してるだろうが。幼女から美少女によぉ。たしかにおまえは強かったぜ? だが()()()()はねえだろ。はったりカマしてもムダだぜ?」



笑みを浮かべ、剣を俺の谷間に向けるライス。


下卑たツラの屑へ、俺は言った。



「言っておくが、俺はまだあと二回の変身を残している」


「……は?」


「その意味がわかるな?」


「――まさか」



――瞬間、大地に亀裂が走った。


膨れ上がる闘気。


俺を起点に地面が砕け、めくれ上がる。


絶え間のない揺れがその場を襲い、空気が激しく震動(しんどう)した。



「……っ、嘘だろ……!?」



常人なら立っていることすらできない震動のさなか、ライスは顔を引きつらせた。



「これほどとは……くっ」


「へカーティア様……お下がりください」


「どこにいても同じだ……それこそ、国を捨てて山の向こうへと逃げぬ限りな」



天にまで届く黄金のオーラ。


逆立った長い金髪が生き物のようにうなり、真紅のドレスが装いを変えていく――



「な、な、なにこの戦闘力……嘘ウソうそうそ――きゃああッ!!?」



若干の回復をみせたウルティナの左目が破裂した。


彼女だけでなく、へカーティア以外で俺を鑑定していた数十人の左目も破裂する。


狼狽える周囲の声に紛れて、俺は呟いた。




「――変・性」




猛威を振るっていた地震が突如としてなりをひそめ、俺を覆っていた黄金の光が弾ける。




揺蕩う淫らな獣星(ア・ザーリヤート)




足元まで伸びた金髪はシニヨンにまとめられ、かんざしと花で彩られる。


東方から輸入される、チャイナドレスに似た衣服へと()った俺は、扇子(センス)を開いて口元を隠した。


肩から腕、太ももがじかに空気に触れて涼しい。胸元も谷間だけ見えるように切り取られている。


涼しく動きやすいのだが……この第三形態、いやに注目を浴びる。



「――エッロ」


「殺す」


「リルちゃんさあ、もしかして色仕掛けで隙を伺おうって魂胆? たしかに戦闘力がやばすぎて驚いたけどさ……その全身からにじみ出る淫乱さに危機感ぶっ飛んだわ。やらせてくれない? 一発一千万払うから」


「俺を倒してから生意気いえよ。言っておくが、第三形態は別格だぞ」


「はは、俺には関係ねえよ!! んじゃさっそく――いっただきまーーーーすぅぅぅッ!!!」



ライスが地を蹴る。


それに合わせて、俺は腕をあげた。


華奢な中指を丸め、親指で押さえる。



「デコピンだぁ? 舐めてんのかおま――」



中指を弾く。瞬間、数メートル先にまで迫ってきていたライスの顔面に穴があいた。



「――言っただろ。別格だって」



地に倒れるライス。


この場で、この姿になった俺を見て、呑気にはしゃいでいるのはライスだけだった。


他の面々は、あのへカーティアでさえも顔を蒼白にして足を震わせている。



「戦闘力……200万オーバー……っ」



左目から血を垂らしたへカーティアが、震えた声でつぶやいた。





「おもしろかった!」


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