第十話 真の姿
「馬鹿なことを言ってんじゃねえ。おまえの戦闘力はたかが20万前後。それでどう魔王と互角に戦えるってんだよッ」
動揺する魔人兵をよそに、ライスは俺へ叫ぶ。
そこへ、
「――ライスッ、何が起きたの!? 魔人兵が動揺してるけ……って、あんた、リル!?」
「なぜあなたがここに……?」
魔人兵の波を飛び越えて、本陣にマリナとウルティナが到着する。
二人は俺の姿を見て、顔をしかめた。
「魔王がどうとか……そんな話が聞こえていましたが?」
「リルが魔王になったとかふざけたこと抜かしてんだよ。どうせ嘘に決まってる」
「リルが魔王ぅ? なにそれ、魔人兵とのコラボネタ? ぜんっぜん面白くないんだけど」
「鑑定してみましたが……この場の誰よりも最弱ですよ。マリナより弱いのに、どうやってこの場に来られたのでしょう……?」
「わたしが弱いっていうの余計じゃない?」
ウルティナは鑑定を持っているというのに、俺のスキルの内容には気が付いていないようだった。
いや、興味がないだけか。
ウルティナは気に入った人物とそれ以外との温度差が激しい。
勇者パーティに配属されてからの一年間。一端の兵士なんぞがとうてい会うことのできない王女ウルティナと共に肩を並べて戦える栄誉を羨まれたが……。
彼女は、結局一度も俺とは目を合わせてくれなかったし、二人でゆっくり話すこともなかった。
完全に、骨の髄までライスに惹かれているようだった。
だからこそ、それ以外の男には興味を見出せない。
それに、人間は戦闘力至上主義みたいなところがあるから、ウルティナじゃなくともそこまで深くは読み取る奴は多くない。
「大方、俺らの情報を売るとかで魔人と手を組んだんじゃねえの? 知らんけど……魔人側に立っている以上、人間族の裏切り者だ。魔王より先に、ここでこいつを殺す」
「賛成よ。裏切り者には死あるのみ」
「恥を知りなさい、恥をね」
三人が並び立ち、得物を構えた。
カリオストロが動きそうになったのを手で制して、俺は一歩前へ踏み出る。
「おまえたちは上部でしか俺を知らない。本質を、もっと深くを読もうとしなかった」
「あぁ?」
「見せてやる――俺の真の姿を」
――火花にも似た何かが音をたてて散る。瞬間、俺は目を見開いて叫んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」
「な、なんだ……!? どうしたどうしたイカれたか!?」
おどけた態度のライスだったが、その表情はすぐさま凍りついた。
跳ね上がる闘気。戦闘力。
黄金のオーラに包まれた俺の逆立った髪が、黄金へと変わっていく――
「せ、せ、戦闘力……50万オーバー……っ!!? ま、まだ跳ね上がります……!!」
ウルティナから悲鳴にも似た声が上がる。
今回は第二形態ではなく、最初から第三形態で戦う。
一目でわかった。ライスはこの短時間であり得ないぐらいに強くなっている。
第二形態では荷が重いと判断した。
「温度が……上がってる」
「急に汗が……っ」
「何か――とてつもないのが、来るぞ」
吹き荒れる暴風に抗いながら、ライスが言った。
「――変・性」
黄金のオーラが炎へと変わり、俺を包み込む。
やがて炎が弾かれるようにして消し飛び、極大の火柱が天を衝く。
「――焦熱たる暴虐の黒星――」
長い金髪が舞い、真紅のドレスが揺れる。
手には、身の丈ほどの大剣・爆ぜ螺旋する炎煌剣を握り、俺ははじめてこの姿でライスたちと対峙した。
「戦闘力……100万オーバー……っ!? それに、その姿は……!!?」
「ど、どこかで会ったこと……ある?」
「ま、まさかあなたは……あの時の幼女さん? いやでも成長してる?」
第二形態の面影を俺にみたのだろう。
驚愕するライス一行。
構わず、俺は大剣を構えた。
「ライス――構えろ」
刹那、
「っ―――」
ボトッと、ライスの首が地面に転がった。
なんの抵抗もなく、多分目で追うことすらできなかっただろう。
ライス一行の背後に立った俺は、大剣を肩に担いで振り返る。
「おまえが不死持ちじゃなかったら終わってたな」
「な、なに……何が起きたの……? まったく……見えなかった……っ」
「……っ」
恐るおそる振り返るマリナとウルティナ。
気が付いたのだろう。
その気になっていれば、自分たちもライスのように、首が転がっていたかもしれないと。
「――早すぎて見えなかった……はっはーっ! さすがは『さすらいの幼女様』だぜ!」
「再生速度も上がってるのか」
「まさかなあ、リル……! おまえの正体が幼女様だったなんて知らなかったぜ!」
「……?」
何か、ニュアンス……というか。
何かが違うと思った。
「男の姿は仮初……今の姿が本当のおまえなんだな。気が付いてやれなくて悪かった」
「……は?」
「だが意図がわからんぞ。最初からその姿ならば、その力を使っていたのなら、俺はリルを追放したりしなかったのに……いやまだ間に合う! だってリルは、とびきりの美少女だからッ」
なるほど、こいつ……女の姿の俺が本物だと思い込んだわけか。
たしかに、さっき俺の真の姿を見せてやろうとかいったけどさ。
その場のノリと勢いで言ったわけでさ。
まあ、いいけど。どっちでも。
ともかく、
「俺の元に戻ってこいリル――」
「――手加減なんてしてやらないからな」
「―――」
ライスの頭から股間まで、真っ二つに裂かれる。
そこへ、今しがた倒れようと揺らいだライスの足元から極大の炎が噴いた。
近くにいるだけで皮膚が爛れるほどの超高温。
ライスの両隣にいたマリナとウルティナの服が瞬く間に溶け、その柔肌を焼いた。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!?」
「ぁああぁぁぁぁあああぁぁぁッ!!!?」
悲鳴がふたつと、轟き天を衝く火柱が一つ。
ライスが出てくる様子はなかった。
「……やったのか、勇者は?」
「いや、あいつの不死性は尋常じゃない。死んではいないが、脱出も不可能。再生した瞬間に死ぬんだからな。……とはいえ、どうやって殺したものか」
隣にやってきたヘカーティア。
俺が戦闘中に包帯を変えたのか、血はにじんでいなかった。
「この火柱はいつまで続くんだ?」
「俺が命じる限り、半永劫に」
「どこにそんなリソースが……?」
「星の力だよ」
「……星?」
「俺の兵装は、魔力ではなくこの星から力を引き出してるんだ」
爆ぜ螺旋する炎煌剣は星の力を熱に。
第二形態時に解放される兵装・夜空穿つ星虐の杖は星の力で魔術を強化する。
「よくわからないが……貴殿の強さはわかった。その星との力とやらで、あの勇者を殺しきることはできないのか?」
「一つだけ確実な方法がある。できればあまり使いたくないから、他に殺せる方法がないか模索し――」
その時だった。
突如として、炎柱がふたつに断たれる。
俺とへカーティアをかき消すかのように吹く剣風。
まさか……あいつ、この炎を切ったのか……?
「ふぅ。やっぱ俺が最強かぁ」
全裸のライスが、剣を肩に担ぐ。
再生しては死ぬようなあの柱の中を、どうやって……!
「きたきたきたきた……ぁぁぁぁあああああきんもちぃぃぃぃぃぃッ!!」
「戦闘力が跳ね上がってるぞ、あの人間……っ」
「―――」
へカーティアの言葉が右耳からすり抜けた。
今……同じものを感じた。
一瞬だけ、同じものをライスから感じ取った。
「星の……力?」
「なに?」
「あいつ、俺とおなじ星の力を使って強化してやがる……」
「……なるほど。危機に瀕する対価として強くなる……と言ったところか。これまでの成長速度から考えるに……なんだ、これは?」
へカーティアが目を見開く。
「勇者のスキル『円環の定め』に新たな項目が追加されているぞ。おおむね、私の予想通りの内容だ」
「……恐ろしい野郎だな」
一つのスキルに二つ以上の効果がある……たしか百万に一人の割合でそういう人間が生まれると聞いたことがある。
その組み合わせが優れているか劣っているかはこの際置いておくとして。
このタイミングで発現するなんて、都合のいい野郎だ。
いや、もしかしたらずっと前から発現していたのかもしれない。
そうでなければ、昨夜から再会するまでの数時間で、戦闘力が倍以上に膨れ上がるはずなんてない。
「そうなると、ふたつ目の効果は隠蔽していたのか?」
「いや、それはあり得ない。私の鑑定は、一流の魔術師の隠蔽すらも見破れる。たとえ見破れなかったとしても、違和感はあるはずだ」
「ますますわけのわからない野郎だが……」
素振りでマリナとウルティナの炎をかき消したライス。
百メートル先まで剣風が地面を抉り、兵士たちの甲冑をまとった体が吹き飛んでいった。
「よーしよし。絶好調だぜ、過去最高だ。続きをやろうか、リルちゃん」
虫の息のウルティナからローブを剥ぎ取り、それを腰に巻いたライスが剣を構える。
俺もそれにならい、大剣を構えた。
「――来い」
「いっくぞぉぉぉぉッ!!!」
肉薄したライスの剣と俺の大剣が重なった。
「おもしろかった!」
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