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第九話 勇者vs魔王

「――おまえが魔王か……っていうか、なんかボロボロ……?」



ライスの前に突如として現れたのは、配下に魔王と呼ばれた女性だった。


しかし、なんだか見た目がすでに満身創痍。


体中に包帯が巻かれ、ついさっきまで治療を受けていたかのような様相だ。



「だが……見た目はアレだが、さすがは魔王と評するべきか……強いな」



肌身に感じる威圧感。


おそらく戦闘力は90万を超えているだろうと予測して、ライスは手に汗を握る。



「魔王、か。まあ少しばかりややこしいことになっているが、これより死に逝く貴様には関係のないことだ」


「あぁ? いうじゃねえか、俺は勇者だぜ? そこらの生半可な人間と一緒にするなよ」


「取るに足らん。多少、死ににくいだけだろ?」


「ハァン、鑑定持ちか。俺のスキルを看破しやがったな」


「見られたくなかったら対策でもしておくんだな」


「はっはーッ! バレたからといって困ることはねえ。魔王さんよ――あんたに俺を殺しきれるかなァッ!?」



地を蹴って、剣を振り上げる。


これまでの戦闘で、ライスは以前とは比べものにならないほど強くなった。


もはやライス単体で、一国を相手取れるほどには。


音を置き去りに、魔王との距離を詰めるライス――振り下ろした剣が、過去最高の速度を持って放たれた。


しかし、



「笑わせるな」


「なッ――!?」



ライスの剣が弾かれ、そのあまりにも強すぎる威力にのけぞる。


そこへ、魔王の得物である太刀が流れた。


一瞬の抵抗もなく切り飛ばされる首。


さらに魔王は、ライスの胴体を真っ二つに割って蹴り飛ばした。



「殺しきれるか、だと? それこそ死にたくなるまで斬り殺してやる」


「――チッ、強えな」



ライスの肉体が粒子となって、混ぜ合わさる。


光が収まると、元の体へと再生したライスが舌打ちを鳴らした。



「だが、再生速度も上がってる。重畳(ちょうじょう)だ」



いくら相手が強かろうと、殺すことのできない俺を倒すことはできない――口角を歪め、再び魔王との距離を詰める。


首が飛び、体が四つに分けられた。


再生し、肉薄(にくはく)――全体重を乗っけて叩き込む。


最初の一撃よりも速く、力強い剣圧にも魔王は顔を歪めることなく受け止め、ライスの首をはねる。


復活するライス。首が飛ぶ。復活。飛ぶ――その流れが幾重にも続いて、



「はっはーッ!! どうしたどうしたどうしたぁッ!? 動きが遅くなったんじゃねえのか!?」


「くっ――!」



ライスの剣が、魔王の一撃を弾く。


数十回にもわたる死亡を繰り返し、ライスは魔王の動きについて来れるようになっていた。


受け止めきれなかった魔王の剣撃を正面から迎え撃ち、目で追うことすらできなかった横薙ぎの一撃を紙一重でかわす。


魔王の動きについていける。さらには、



「再生速度がエグぃッ!! なあ、そう思わね!? 切られた瞬間に再生だぜええええ!!? 

なあ、今どんな気分ぅ!? どんな気分か教えろよぉぉぉぉッ!!!」


「この――調子に乗るなよ下衆がッ!!!」


「ハッハァァァァァッ!!!」



死ぬたびに、損傷を受けるたびに再生速度が跳ね上がる。


もはや攻撃がすり抜けているのではないかと錯覚するほどの再生力を誇っていた。



(こいつ――本当に『不死』だけなのか? 他にもスキルを持っているのではないのか!?)



その異常すぎる成長力に、魔王は唇を噛む。


再度の鑑定結果は、変わらない。


不死性を与えるスキル『円環の定め(ライフ・オーバー)』……その文字しか、項目には書かれていなかった。


だが、おかしい。


この勇者――どこか、おかしい。



「うりぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!」


「っ!!?」



跳ね上がる太刀。


ガラ空きとなった胴体へ、ニヤついたライスの剣が振り下ろされた。



「――チッ」


「っ、はぁ……くそ……傷口が……っ」



包帯から血が滲みはじめる。

膝をついた魔王が、顔を歪めた。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が……今の一撃は危なかった)



「おいおいおいおいおい……もうこれ、俺の勝ちだろ?」


「何を言っている……まだこれからではないか……ッ」


「はあ? もう底が見えてんだよ魔王さんよぉ……! あんた、包帯が取れたら美人だろ? だから殺さねえ。一生飼ってやるよ、奴隷としてな」


「下衆が。私を倒してからいえ、そのセリフは……ッ」


「もう倒したも同然じゃん。わかるだろ? 鑑定持ちなら……今の俺の戦闘力を」


「くっ……」



()()()1()0()0()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、今のライスは有していた。


まさに、勇者に恥じぬ強さ。


たとえ不死性がなくとも、この場の全員で挑んだとて勝ち目はない。


彼をここまで成長させた、紛れもない張本人へ。


ライスは感謝と愉悦と(いや)しい笑みを浮かべて、言った。



「魔王のねーちゃん、手負いのくせに強かったぜ? けど俺の勝ちだ。これでもうおまえの国は俺の奴隷ハーレムと化して―――……あぁ? なに笑ってやがる?」



クスクスと、小馬鹿にしたような笑い声が魔王から漏れる。


不審げに魔王を見やる勇者。


魔王は、耐えきれないといわんばかりに表情をゆるめた。



「残念だが勇者よ……一つだけ、訂正がある」


「……あ? 訂正だあ?」


「ああ。とても大事なことだからな。心して聞けよ」



そして魔王は、膝をついた状態のまま――告げる。




「――私はもう、魔王ではない」




はっきりと、鮮明に空気を震わせた声。



「な…………に?」



一瞬、耳を疑った。


魔王では、ない……?


それは一体、どういうことなのか。


ライスだけでなく、周囲を囲んでいた魔王の配下たちも、ぽかんと口を開けていた。



「ど、どういう――」



言いかけた――その時だった。



「―――」



靴音が聞こえ、ライスは弾かれるようにしてその方向を見た。


そこには、あり得ない姿があった。



「おまえは……ッ!?」


「数時間ぶりだな」



悠々と魔王本陣へ現れたのは、軍服に身を包んだ青年だった。


彼の名は、リル。


昨夜――勇者パーティから追放した……剣士だ。



「リル……!? なぜ、おまえがここに……?!」



問いかけに、リルはふっと口角を釣り上げた。



「――俺が、魔王だ」


「な……っ」



かつての同胞が、そんな馬鹿らしいことを平気で口にした事実に口がふさがらない。


魔王? 誰が? おまえが?



「……なんの冗談だよ。いやたしかに、この場にいるのはびっくりしたけどさ……てっきり王国に帰ってる途中だと……そもそもおまえの存在なんて忘れてたし……」


「信じられないか?」


「信じられるわけないだろ。なにそんなイタいこと真顔で言っちゃってんの? ほらみろよ。魔人どももお怒りだぞ」



周囲を見渡したライス。


ライスのいうとおり、この場にいる魔人族の兵士たちが、怒りをあらわにしていた。


自らの主君を前にして、己を魔王と名乗るその罪深さ。


許されるものではなかった。



「――オイ、貴様……人間風情が魔王を軽々しく名乗りやがってッ」



その中で、一際怒りを発していた大男が前へ踏み出た。


この場の総大将を務めていたアマリリス軍の第一軍長サボルア・ハト。


身の丈二百センチを越える巨体に、三メートル近い戦斧(せんぷ)を片手で握るその男は、



「とっとと()ね――貴様のような三流がいていい場所じゃあねえンだよッ!!」



己よりも遥かに矮小(わいしょう)なリルへ戦斧(せんぷ)を薙ぐ。


瞬間、



「――どういうつもりだ……カリオストロ大将軍」


「どうもこうも、主君の身を守るのが俺の仕事だ」



戦斧が大鎌によって受け止められ、微動だにしない。



「おいおい、なに寝ぼけてやがる正気かァッ!? テメエの主君はへカーティア様だろうがッ!!?」


「そのへカーティア様が主君と仰いだお方だ。先の戦闘の余波……感じなかったとは言わせぬぞ」


「……へカーティア様とそこの小僧がやり合ってたとでも言いてえのか?」


「そう言っている」



待機を命じられていたアマリリス軍は、国内で何が起きているのか知らなかった。


薄々、魔王が何者かと戦っているのではないかと感じてはいたが、まさか……



「――そこの小僧に、負けたっていうのか……!?」


「そうだ。私は、敗北した。そしてそこの男が……シェルリング魔王国の主――魔王だ」


「ッ!?」



それを、主君と崇めていたヘカーティア本人の口から聞かされて、サボルア含める魔人軍に激震が走った。






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