商人になります5
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エビスとの商談が終わったアクは、部屋の中でゆっくりした後、テラスに出てお茶をもらっていた。
「お待たせいたしました」
「急かしてすまなかったな」
「いえ、ただ量が多いので裏の方に来ていただけますか」
エビスに連れられ、店の裏にある倉庫にやってきた。そこには100人以上が1年食べても余るだけの大量の酒樽と野菜、肉や魚が山となって用意されていた。
さらに頼んでいなかったパンや塩、胡椒などの香辛料も置いてある。さらに隠すように倉庫の中には、剣や槍、弓と矢など、いくつもの武器やフルアーマーから鎖帷子などの防具が、外から見えないようになっていた。
「さすがだな」
アクは興奮してエビスの肩を叩く。
「我が商会にかかれば容易いことです」
エビスは少し芝居かかった口調で一礼する。
「そうか、やはりエビスを助けて良かった」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
「じゃさっそく使用人達をどけてくれ」
アクが魔法を使うことを告げる。エビスは急いで使用人達に倉庫からの退去を命じる。
「倉庫ももらっていいか?」
「かまいません」
「わかった」
大規模のブラックホールを開き、そこにある品物を【全てキャッチ】と念じ取り込んでいく。
「なんと!闇魔法を見るのは初めてですが、不思議なものですね。何より便利だ」
エビス何気ない言い方にアクはエビスが気付いていることを悟ったが何も言わなかった。
「俺もそう思う」
「馬車は馬小屋の方においてあります」
「本当に助かったよ」
「このまま行かれるのですか?」
「ああ、長く居過ぎたぐらいだ。これからもよろしく頼む。良き友よ」
「こちらこそ、良き友よ」
エビスと握手を交わし馬小屋に止めてある馬車に乗り込み走り出す。商店を出る時、セシリアが涙ぐみながら手を振っていた。手を振るのは恥ずかしかったので頷いておいた。
門でグルーに商人になったことを話すと「よかったな」と喜んでくれた。本当に異世界の奴は優しい奴が多いな、グルーにクック村に行くと伝えて町を出た。
門を抜けてすぐに森に入る。転移の魔法を使い、アジトの岩場に馬車ごと転移する。
転移してすぐにまずいことになった。エリスが目の前にいたのだ。
「……やっぱり」
エリスはどこか納得した顔で溜息を吐いている。
「……エリスさん、どうしてここに……」
「言ったじゃない。魔力を感じるって。大きな魔力を感じて、ここに来てみたら突然あなたが現れたの」
「……そうですか」
「説明してくれるわよね?」
物凄く怖い顔で詰め寄って来る、エリスに根負けして全てを話した。どうしてキララやセシリアに次いで、女性には嘘がばれるんだ。
「はぁ~記憶喪失ではないのね。本当によかったわ」
エリスは話を聞き終えると、怒るよりも安堵した顔になる。
「すいません」
縮こまって謝罪の言葉を口にする。
「いえ、嘘をついたのは許しがたいけど、事情があったのなら仕方ないわね。何より異世界人で勇者様だったなんて……」
「え~と、許してもらえるのかな?」
「ええ、そんなに気にしてないわ」
「ありがとうございます」
アクは安堵したように大きく息を吐く。
「それに、それぐらい誰も怒らないわよ。どうして隠してるの?むしろ頼りにされると思うけど」
「それが困るんだ。過ぎた力は人を狂わせる。それに切り札は見せない方がいいだろ?」
「そうなの?」
「だから誰にも言わないでほしい」
アクは真剣な顔でエリスの瞳を見つめる。
「わかったわ。二人だけの秘密なのね?」
「そういうことで頼む」
両手を合わせて拝むように頭を下げる。
「もう~仕方ないわね。誰にも言いません。でも、みんなが何をしようとしているか、私に教えて頂戴、それが交換条件よ」
「エリスは何も聞かされてないの?」
「ええ、父も兄も私には関係ないと言って教えてくれないのよ」
二人ともエリスのことが可愛いのだろう。だからかかわらせたくないのだろう。
「どうしてかな、魔力が感じれるだけでも凄い魔法の才能だと思うのに」
「だからだと思う。私に魔法を使って人に危害を加えてほしくないみたいね。こんなご時世で甘い話よね」
どうやらエリスも二人の気持ちがわかっているらしく。強く二人に聞けないのはそういう事情もあるのだろう。
「俺のいた世界では盗賊なんてほとんどいないんだ。魔法もないから、個人が強力な力を持つこともなかった。それこそ日常的な場面で、暴力的なことを見る機会もない。だから、ダントさん達の気持ちも分かるよ」
「アクも甘いのね。でも教えてくれなかったら皆に言うわよ」
エリスが本気であることはわかった。だからアクも覚悟を決めて話すことにした。
「わかってる、但し条件がある。言ってもいいけど、今回の作戦を邪魔しないでほしい」
「私に止めるなってこと?」
「そうだ。それを約束してくれないなら、ばらされても話さない」
アクの真剣な表情にエリスがため息を吐く。
「約束するわ」
エリスも真剣な顔で頷く。
「わかったよ」
アクは降参というように両手を上げて作戦を話し出す。
「てな、感じかな。今はそれぞれ三人が任務に付いてくれている」
「それをアクが考えたの?」
「そうだ」
「アクって性格悪い人かも」
「なんでだよ!!!」
「だって、なんだかセコイわ」
「セコイって!!!ズーン」
アクはエリスの言葉に肩をおとす。
「あっごめんなさい、でもきっと成功したら怪我人は出ないのよね」
「多分ね、多少の擦り傷ぐらいはできる奴はいるかもしれないけど」
「そう……じゃあ邪魔しないわ。そのかわり私も連れて行って」
「ハァ~?そんなことできるわけないだろう」
「連れて行ってくれなかったらばらすから」
「約束が違う。ハァ~もう好きにしてくれ」
アクはさすがにエリスを戦場へ連れていくことはできないと、バラされる覚悟をして、もうどうでもいいとふて腐れて横を向く。
「アク……お願い……」
弱々しい声に、エリスの方を見ると目に涙を溜めていた。
「あ~エリスはズルい!!!」
アクが大きな声で叫ぶ。
「絶対に言うことを聞いてくれよ」
「それじゃ」
「約束は守ること!!!」
「わかっているわ」
嬉しそうな顔になり、その時には涙もどこへやら?嘘泣きかよ。まぁいいか、女の涙はどんなときも見たくないものだ。
「ありがとう、アク」
「絶対に言うことは聞けよ」
「ええ」
アジトからの方が、クック村に近いと思って帰ってきた運の尽きだった。余計な荷物を乗せることになったと、何度めかの溜息を吐いてアクは馬車を走らせ始めた。
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