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死神になります14

バンガロウ城、謁見の間に……


 サントン王が玉座に座り、左右の椅子にシーサイド王、リバーサイド王が座っている。玉座の前には、左右に分かれて各国の臣下達が並び立ち、臣下達に囲まれるように謁見の間の中央に敷かれた赤絨毯の上に三人の男が跪く。


「どうだ、セントセルスの客人よ。快適に過ごせているか」


 サントン王が三人に話しかける。


「こんなことをしていいと思っているのか、貴様ら」


 ガンドルフ・ボルナレフが叫びながらサントン王を睨み付ける。コウガは俯き、テリーは真っ直ぐサントン王を見ていた。


「それはこちらのセリフだ。我が国に軍を進めてきた貴様らを、まだ生かしてやっているだけありがたいと思え」


 サントン王が殺気を込めて三人を睨み返す。


「ヒィ!」


 胆力に自信のあるはずの聖騎士をもってしても、サントン王の気迫は凄まじく、ガンドルフはサントン王の気迫に悲鳴を上げた。


「早速だが、戦闘に関しての報告だ。こちらの被害は六千人ほど、そちらの被害はその十倍ぐらいだ」

「グゥゥゥ」


 ガンドルフ・ボルナレフは苦虫をかみつぶしたように顔を顰める。


「さらに貴様らをセントセルス本国に帰すために、いくつか条件を提示した」

「無駄です。我々はただの使徒、本国には関係ありません」


 今まで黙っていたテリーが言葉を発して、サントン王を見つめる。その目には何の感情も籠っていなかった。


「それはどうかな。貴様らの本国では条件を飲むそうだ。聖騎士コウガ並びに聖騎士テリーの両名を生還させることを条件に相手は承諾したぞ」

「えっ?」


 それまで俯いていたコウガが顔を上げる。コウガが顔を上げたことで、臣下の中に仮面をつけて立っていたアクは、コウガの顔を見て懐かしい思いに駆られる。この世界に来たとき、共に異世界から召喚された少年を久方ぶりに見るのだ。少年は体を鍛え、見た目がだいぶ変わっている。

 変わらないものがあるとすれば、召喚された時のままアクが嫌いな綺麗な顔をしていた。


「だ、か、ら、二人の命と引き換えにセントセルス神興国は大量の資金と、ソクラテスの土地を分け与えてくれるそうだ」


 二人が押し黙り、ガンドルフ・ボルナレフが叫び声を上げる。


「ワシは、ワシは対象に入っていないのか」

「入っていない。そもそもオッサン、誰だ?俺は司令官を呼べと言ったはずだが」

「ワシが最高司令官のガンドルフ・ボルナレフだ」

「ガンドルフ?誰だそれ、わかるかセントハルク?」

「全く知りません。聖騎士筆頭のテリー殿はよく存じていますが、あとは私と手合せをしたコウガ殿もなかなかでした」

「だとよ。オッサン、あんたの国も、あんたは不要だと判断したみたいだぜ」


 ガンドルフ・ボルナレフはそれでも何かを言おうとしたが、周りの兵士がガンドルフ・ボルナレフの肩を掴み外へと連れ出した。


「これで話しやすくなったな」

「本当に我々の命と引き換えに条件を飲むと言ったのですか?」

「ああ。だからお前ら二人は丁重な扱いを約束するぜ。最高の警備を付けて本国に帰ってもらう」

「帰れるのか?」


 コウガはサントン王の言葉を反復する。


「おう。だから騒ぎを起こさないでくれよ」


 テリーは頷き、立ち上がる。コウガは状況についていけず、どうしていいのかわからなくなっていた。コウガの心は壊れかけていた。大事な戦いで負けてしまった。本当の強者に相対したとき、一度として勝ったことがない。自分の中で最後のチャンスだと思っていた。自らが立案した作戦を成功さるはずだった。

 結果はセントハルクとの一騎打ちに敗北し、信じてくれたはずの聖女に報いることができなかった。


「ウォォォォ!!!」


 それは彼の中にあった『狂気』を暴走させるに至った。何もかもが上手く行かなかったコウガは、膨大な魔法力を自爆させることを選んだ。

 いきなりの叫びと暴走に対して、聖騎士コウガが何をしようとしているのかわかった者は少なかっただろう。光が謁見の間を覆いつくし全てを破壊するはずだった。


 この場にもう一人勇者がいなければそうなっていただろう。


 光は闇を照らす、闇は光を飲み込む。


 強大な光の固まりは強大な闇に押しつぶされる。


 闇は光を閉ざし、全てを飲み込んだ。


 アクの魔法であるブラックホールは、コウガが放つ光の魔法にとって天敵と呼ぶのに相応しい力だった。光の勇者ごと爆発の光を納めてしまったのだ。


「なっ!何が起きたんだ」


 一番に言葉を発したのはテリーだった。テリーはコウガが自身の魔法力で自爆を狙ったことを理解した。そんなテリーだからこそ、コウガを抑えた力の正体がわからなかった。


「アクか?」


 テリーの言葉に応えたのは、サントン王だった。


「お前がやったのか、アク?ここまでの力があるのは、この中でお前だけだ」

「サントン王、勝手ながら聖騎士を封印しました。彼はその時が来たとき、私の手で送り帰すこととさせていただきます」

「まぁお前に任されば問題あるまい。何より、あいつのした行為は殺されても仕方がないだろ。生きているだけでもよかったんじゃねぇか」

「ありがたきお言葉」


 サントン王と仮面の宰相のやり取りに、テリーは唖然としていた。


「最後に残ったテリー殿、あなたはどうされる?」

「えっ?ああ。私は普通に帰らせていただきます。部下たちはどうなりましたか?」

「ケガをした者は保護している。生き残った者は、続々とセントセルスに帰還してもらっている」

「そうですか。ありがとうございます」


 テリーは素直に礼を述べて王座を後にする。


「こんなところでよろしいか?」


 サントン王はテリーが去った後、シーサイド王、リバーサイド女王にそれぞれ話を振った。


「ああ、俺はかまわねぇよ。逆に聞いてもいいか、本当に金貨はウチがもらっていいのか?」

「もちろんだ。シーサイドは今回損害も多かっただろう。金貨だけしか報酬がないのあ、むしろ申し訳ないぐらいだ」

「いや。俺達はそれで十分だ。それに、リバーサイド王国に比べれば……」


 シーサイド王はリバーサイド王を見て、言葉を濁した。


「うちは多くの民を失った。しかし、サントン王の計らいで、ソクラテスの街と国民をもらった。何も言うことはない。戦った者達も覚悟をもって戦ったのだ。今更何かを言う者はいないでしょう。聖騎士テリーを見ると、今でも殺したいと思いますが、私も王だ。民の事を一番に考えよう」

「俺がもっと早くついていれば……すまない」

「サントン王。あなたが来てくれなければ私はここにいなかった。改めて礼を言う」


 リバーサイド王はサントン王に頭を下げる。王様達の会話が済んだことで、王達は下がり、臣下も解散となった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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