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再:胎動  作者: 百舌巌


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第06話 空気のような存在

 賢治は警察署から外へ続く階段を降りながら火災以外での原因を考えてみた。

 だが、直ぐには人間を大量に死なせる事故や事件はそうそう思い付かなかった。


(工場から猛毒のガスが漏れたとか……かな?)


 以前に新聞やテレビのニュースで見たことがあった。

 インドの化学工場のガス漏れ事故で死傷者が出た事件を思い浮かべたのだった。

 死体だらけの警察署での印象でそう考えたのだ。


(それだと俺も死んでいるか……)


 そんな事を考えていると警察の玄関に到着した。外は警察署の中と同様に静かであった。

 まだ、昼近くであるはずなのに人通りが無い。ザワザワとした人特有の気配が皆無なのだ。


「はあ、外も同じかよ……」


 賢治の口から溜め息が漏れた。

 警察署前の通りには死体が沢山転がっていた。いきなり死を迎えたのか、歩いている最中に倒れ込んだような印象を受けていた。

 そして、車道には多くの車が放置されている。


(んーーーー)


 もちろん、車道に放置された車にも死体は有った。ハンドルを握ったままの死体もあった。

 彼等は運転しながら死んで行ったのだろうと思われた。

 道路沿いには車が何台も止まっている。車内に運転手の姿は見えるが微動だにしない。

 交差点でも車同士が衝突事故を起こしたのか燃えた形跡があった。警察も消防も駆け付ける事無く車は燃え尽きたようだ。

 賢治は見回すと、空のアチラコチラに黒煙が立ち上っているのに気が付いた。


「火災が発生しているのか……」


 賢治は歩きながら次々と車を覗き込んでいった。どの車の死体も目が濁っていて火膨れがあった。

 事故を起こしている車もあったが、警察が駆け付けていた気配すら無かった。

 恐らくは同時に死んだに違いないとも考えた。


「本当にいきなりだったんだな……」


 犬が死んでいた。飼い主と思われる女性は、犬の首輪から伸びるリードを握ったままであった。

 散歩の最中だったのだろう。突然の異変に身構える暇も無く果てたのだ。

 彼女の回りにも死体が散らばっている。道を歩いている最中にいきなり死んでしまった様な印象を受ける。


(毒ガスでも撒かれたのか?)


 賢治はそんな死体の間を縫うように歩いていく。

 なんだか焦げ臭いなとは思っていたのだ。


(そう言えば、中性子爆弾は建物なんかを破壊しないで、人間だけを殺傷するって聞いた事があるな……)


 中性子爆弾がどういうものかは詳しくは知らない。

 だが、戦争後に占領しやすくする為に作られた爆弾だと聞いた事を思い出した。


(日本は何処の国と揉めたんだ?)


 此処で思いついたことが有った。


(もし、中性子爆弾が炸裂したのなら、成果を見るために飛行機とかを飛ばすものじゃないのか?)


 そう考えた賢治は空を見あげたが何かが飛行している様子は無かった。


(違うのか?)


 そんな事を思い出しながら、賢治はコンビニに入ろうとした。


「え……」


 だが、入り口の自動ドアは反応しない。固く閉ざしたままだ。


「何でやねん……」


 これまでも自動ドアが反応しないのは良く有った。

 多くの自動ドアは動態監視センサーの反応で動作する。

 センサーの前で何か動く物が一定以上の大きさであると人が来たと判断するらしい。


「まあ、確かに俺は空気のような存在だと言われるけど……」


 自動ドアの前で手を振ったり行ったり来たりしたが反応しなかった。


「何故?」


 賢治は暫し考え込んだ。そしてコンビニの中を覗き込んである事に気が付いた。


(照明が点いて無い……)


 周りを見渡すと信号機が消えているのが気が付く。


(この辺り一帯が停電になっているのか……)


 此処で停電している事に気が付いたようだ。電気が来ていなければ自動ドアは動く訳がない。


「しょうがないな……」


 賢治は手で自動ドアをこじ開けた。分かって要ればどうと言う事が無い。簡単に開ける事が出来る。


「うがっ!」


 しかし、中に一歩足を入れると異臭が襲いかかって来た。

 ほのかに漂うなんて物ではなく、襲いかかるという表現がピッタリなのだ。それ程、激烈な匂いであった。

 電気が止まり空調機器が動かなくなったせいで匂いが籠もってしまったのであろう。


「くっさ!」


 それは留置場に漂っていた臭いと一緒だった。中を見ると雑誌コーナーに一人倒れている。

 きっと会計カウンターにも店員が倒れているに違いない。

 日にちが経っているので、臭いが熟成されたようであった。


「ええい!」


 賢治は息を止めて中に入り、菓子パンとジュースを手に取って出て来た。菓子パンがある棚は一番奥だった。

 そこには入口からは見えなかった死体が三体有った。

 賢治は見ないようにして、パンとジュースを手に取ると走って入口に戻って外に脱出した。


「ハァハァ……」


 賢治は肩で息をしながらも入口横の車止めの縁石を椅子代わりに座り込んだ。そして、パンの袋を破り齧りついた。

 菓子パンの甘みが口の中に広がる。至福のひとときだ。


「そういえば、前回の刑務所勤めが終わってから、最初に買ったのが菓子パンだったな……」


 刑務所では、オヤツなどの嗜好品は自由に購入できないし、食べられる時間も決まっている。

 そこで刑務所から出てきた者は、最初に甘味物を求めたがるのだそうだ。


(何処も一緒なのかな……)


 パンを齧りながら賢治は陰鬱な気分になってしまった。

 ヌルいジュースでパンの残りを流し込み


「さてと……」


 賢治は立ち上がり再びコンビニを覗き込んでいた。中にはまだ食糧がある。今後の事を考えると出来れば確保しておきたい。


「どうすっかなあ……」


 しかし、折角食べたパンを粗末にする予感がして躊躇していた。


(うーん……)


 何しろコンビの中は鼻の奥を抉り取るような激臭に満ちているのだ。


(でも……あの臭いがなぁ…………)


 死臭というのは直ぐに馴れるような種類の臭いでは無い。賢治は暫し思案顔になってしまっていた。

 だが、ここで思い出した事があった。


(そうだ。 マスクをすれば良いジャン!)


 賢治はマスクである程度は臭いが緩和されるはずと思いついた。そして、コンビニの店内にはマスクもある筈だ。

 一回、店の中に駆け込んでマスクを装着すればいいかと思いついた。


(待てよ? 確かペンキ屋が使っているヤツの方が防臭効果が高いんだよな)


 ペンキには有機溶剤が含有される事が多い。なので健康被害を防ぐ為に特殊なマスクを使うのだ。

 以前、居酒屋で隣り合わせになったペンキ屋のおっちゃんが言っていたのを思い出した。


(ホームセンターかワークショップに行くとするか……)


 賢治は少し考えてホームセンターに向かう事にした。

 警察署のある区画からそんなに遠くないはず。車じゃなくて歩きだけでも行ける距離だったはずだ。


(食い物も売ってたはずだよなあ……)


 現状、何が起こっているのか不明だが、生き残る為に必要な物資を調達する必要もあるのだ。



*誤字報告ありがとうございました

あらすじに誤字が有ったのは盲点でした……

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