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~第7幕~

 大阪にある吉原興行本社に高級車が入る。



 いつものことだが、それはいつものことではなかった。



「久しぶりだな。何年ぶり?」

「さぁ。録音されているかもしれない。気をつけろよ」

「何だよ? スパイ映画でもないのだし。考えすぎだ」



 後部座席に座るのはマジカルバブリーの2人。



 賢治はずっと真剣な面構えをしていたが、傑はどこか楽しげに余裕を持っていた。



 彼らは案内されるままに本社最上階の社長室へ案内された。



 社長室にいるのは吉原興行現社長の岡崎氏と明らかに反社会勢力の壮年と他2名だ。



 岡崎は立っていながらもチンピラ風情の彼らはソファーに深々腰掛けていた。



「よう。久しぶりだわな。テープとか変なモン持ってきてないな?」

「場を和ませるジョークですか? 社長が立っているなんて」

「馬鹿抜かせ。今日は世間知らずのお前らに説教や」

「おう、何や? コイツらがウチらを買おうって輩か?」



 刺青が肩先から見えるその男はいきなし立ち上がり、賢治の顔を殴ってみせた。



 賢治は倒れこんだが、すぐさまに起きあがる。鼻血を抑えながら。



「何すんだ!?」



 傑は大声で怒ってみせるが、男は懐から拳銃を構えて見せた。



「お前らが知るこの世界のトップはこんな所におらん! この会社ゆうのはウチの組が代々支え今に至る! 今や俺らが吉原の神官や! 俺かてウチの組じゃ中堅! ボスは華やかでも見えないところにおるゆう話じゃ! 今日は始末してもいいって許可を得ているからなぁ! なぁ! そこの坊主は1カ月行方不明だったんやろ? なら、突然永久行方不明になっても誰も文句ないわなぁ!」

「やれよ」

「あぁ?」

「撃てるものなら撃ってみろよ!!! 今すぐ!!!」



 賢治の怒号はヤクザの男をひるませた。



「やれっていっているだろうが!!! どうした!!!」

「おぉ……おぉっ!? 本気で撃つぞこの野郎が!!!」



 岡崎は目を閉じて震えている。彼が雇ったヤクザなのか何なのか分からない。



 しかし何とも情けない姿に他ならないだろう。



 涙まで浮かべているのだ。



 しかしこのままではまずい。



 このままでは……



 涙を浮かべているのは傑も同じだった。しかし岡崎と一緒にして欲しくなどなかった。



「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 大声の絶叫がトリガーを引こうとした男の手を止める。



「傑……?」



 傑は尋常じゃない力で自分の指を嚙みちぎったのだ。



「ごれでいいでずがぁ!!!!! こででぇっ!!!!!」



 拳銃を構えていた男は銃を下ろす。そして投げ捨てた。



「こんな男を見捨てるなんて……岡崎はん、アンタ、やっぱ人を喰えん男やな」



 ぼそっとそんな事を彼が言ったかのように賢治は聴こえた。



「おい! いますぐ病院に連れていけや!! 見殺しにすんなぁ!!!」



 男の取り巻きのチンピラ衆が夥しい出血に喘ぐ傑をすぐさま連れだす。




 賢治と岡崎とヤクザの男は静寂の中で社長室に残っていたが、男が「オッサン、でてけや」と岡崎に小声でいうと「は……はいぃぃ……」と情けない声を上げ、そそくさと部屋を去った――



「坊主、座れや」



 男はソファーに座る。賢治も言われるまま座った。



「お前はあの名前だけ社長と違って見込みのある男やぞぉ。それも俺らじゃ体験できない凄い未来を創れるほどのなぁ。俺はあと一歩でお前を殺していたけど、あのあんちゃんが救ってくれた。カタギなのに指1本落として……お前なら話したってもいい。この会社の本当の事。それから松薔薇の事。それを聴きに来たのやろ?」

「ああ。そうだ。でも、1つお願いしたい」

「なんや?」

「鼻血が止まったら、ここにあるウィスキーは飲んでもいいのかな?」

「ふっ! いかれた奴! まぁ俺も呑むならアンタと一緒がええなぁ!」



 男は中本と言った。吉原と付き合いのある組の若頭を務めるという。



 賢治が彼から聴いた話はそれは想像を遥かに凌駕するものだった――

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか……いやかなり壮絶な展開が続きますね。 そして松薔薇に関する情報が開示されそう。 しかし想像以上に攻めた作品と思いきや、 細部の設定や拘りもあって、 作者様の一読者として、先が楽し…
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