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夏休みの想い出  作者: 悠月 星花


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夏休みの想い出 ~ 浴衣の彼女とスポーツ刈りの彼 ~

高2の二人

 私は、今日のためにおばあちゃんに浴衣を着せてもらった。

 着なれないから、歩きにくい。夏休みの最終日曜に毎年ある花火大会。

 今年は、高校の同級生や仲間内で集まって行くことになっていた。


 待ち合わせ場所まで、一緒に行こうとマサの家に寄ったら、もう出て行ったよって言われ、私はとぼとぼと一人歩いて行く。

 待ち合わせに行けば、見知ったスポーツ刈りの男の子はいなかった。



「先に行ったって言ったのに……連絡連絡っと」



 -おかけになった電話は現在電波の……



「なんだよ……どこに行った?でも、集合場所にいないって言うなら……多分、こないな」



『ごめん、ちょっと用事ができたから、皆で楽しんで来て!』


 スマホから、目の前にいる友人に連絡を入れると私は屋台を回る。

 たこやき、焼きそば、イカ焼き、りんご飴。

 食べ盛りである、マサのために少しだけ多めに食べ物を買い込むと、今来た道を戻り、そこから山へと入っていく。

 私に心当たりがあるとすれば……二人の秘密基地以外、マサはいないだろう。



「浴衣だと……歩きにくい。荷物もいっぱい持ってるし……もぅ!行くなら私も連れて行ってくれたらいいのに!」



 山道をせっせと登り、たくさんの荷物を持って目的の大きな木の下に着いた。



「マサくーん!そこにいるんでしょ?ねぇってば!食べ物買ってきたから、降りてきてよ!ほらほら、はーやーくー!まーさーくーん!」



 下から叫ぶと、秘密基地からひょこっと顔を出すマサ。

 私がここに来たことに驚いている。



「アキラ、サッカー部の奴らと花火行ったんじゃなかったの?」

「あっ!やっぱりいた!」

「いや、いた!じゃなくて……」

「私は、マサくんも来るって言ったから行くって言ったのに、いないんだもん!ばっくれてきた!せっかく、マサくんに見せようと浴衣きたのに!」

「あぁ、俺、最初から誘われてないし、8年前から毎年ここで花火は見てるからさ」



 胸を張り、うむ。私もだけどね!と言うと、笑いながら見下ろしてくる。



「うそつけ、何年も来なかっただろ?」

「確かに……」

「で、サッカー部の方はいいのかよ?」

「私、どっちかっていうと、サッカーより野球の方が好きだな。なんでもいいけど、迎えに来てよ!野球部!」

「あぁ、はいはい。って、浴衣でここ登るの?」



 降りてきたマサに持ってきた食べ物を全て渡すと、梯子の前に私は立つ。

 草履を脱ぎ捨て、よしっと気合を入れる。



「当たり前!野生児なめるな?」

「それ、俺のほうで、アキラではないよな?」

「そうだっけ?私も木登ってた記憶があるけど……」



 苦笑いをすると、俺が先に登るから途中まで上ったら引っ張ってやるよと先に登っていくマサ。

 サルもビックリの早業で登り切って、アキラも登って来いよと声をかけてきた。

 私も梯子に手をかけ登り始めるが、なかなか難しい。手伝ってもらって秘密基地に登った。

 中に入って、私は驚いた。



「来ない間に、かなり充実してない?」

「そう?補修もいるからたまにしてただけだけど……」



 去年来たときにはなかったテーブルがあり、椅子まで作ってあった。

 二人、椅子に座り向かい合う。

 二人きりの空間に私は緊張する。



「何買ってきてくれたの?」

「いろいろ。割り勘だからね?」

「あぁ、わかった。うまそうだな!」



 さっそく焼きそばに手を伸ばしたとき、8年前聞いたものと同じように花火が上がっていく音がし、菊花が開いた。



「見て!花火!」

「あぁ、はいはい。俺、食うのに忙しい!」

「もぅ、こんな美人を前に食べ物って……」

「美人を前にしてるから、食ってるんだけどな?」

「どういうこと?」

「鈍いな……飴でも食べて花火でも見てろよ!」



 りんご飴を渡され、私は釈然としない感じで花火を眺めている。

 あのときとは形の変わった花火もあり、背丈も何もかも変わった私たちと狭く感じる秘密基地。



「なぁ、今日サッカー部の宮本に一緒に回らないかって言われてなかった?」

「あぁ、言われてたね。回らないけど……サッカーより野球がいいもん」

「なんだよ、それ」



 私はバカと呟く。花火の音で消されていくと思っていた。



「意外とここは、花火の音小さいから聞こえる。バカって言ったろ?」

「言った。バカにバカって言ったのよ!」

「あぁ、バカだな……宮本、アキラのこと好きだろ?」

「知ってるよ!だから、逃げてきたんだけど……行けとか言わないよね?」

「……言わねえよ。終わるまで……終わってからもしばらくここにいろよ」



 うんと頷くと、最後のスターマインが始まる。



「俺、アキラのこと好きなんだけど……知ってる?」

「ふふ、知ってる。私もずっと好きだったの知らないでしょ?」

「それは、初めて知ったな……」



 向き合った机のあっちとこっちに手をつき近づいた。

 ゴツン……



「うまくいかないな……」



 距離感がつかめず、キスはできなかった。

 最後の花火が、ひゅぅ~~~と鳴り真っ暗な空に登っていく音が聞こえる。



「最初からこうすれば、よかったんじゃない?」



 私は机の上に腰掛け、マサを見下ろすように見つめる。



「そうかもな?」



 真夏の練習で焼けた黒い手が私の頬に触れ、唇が触れる。



 どぉーんっと1番大きな菊花が咲いたとき、やっとそれぞの気持ちを打ち明けられた。



「幼馴染って……こじれるね?」

「この関係が壊れたら、戻れなくなると思うからなぁ……」

「壊れないでしょ?」

「だと、いいけど……あぁ、忘れてた。誕生日、おめでとう!」

「ついでっぽいな……」

「幼馴染だから、仕方ない。帰り、寄ってけよ。プレゼントあるから」

「期待はしないでおくね!」

「アキラ?」

「マサくん、もう一回。今年のプレゼントは、これ以上はいらないよ!」



 もう一度とせがむと、唇が重なる。



 花火も終わり、そろそろ人も少なくなっただろうと一緒に山をおりる。

 下山は、手を繋いで。

 いつの間にか、大きくなったマサの手にどきどきしながら握って歩く。



「ただいま!ちょっと待ってて……」

「あら、アキラちゃん。バカ息子には会えたようね!」

「うん、会えた!」

「バカ息子は、ひどくねぇか?」

「バカにバカって言って何が悪い!バカじゃなくなるよう何かないかな?」

「おばさん、私に任せておいて!ドンケツから国立大学受からしてあげるから!」



 楽しみにしているわとマサの母は笑う。



「送ってくる!」

「帰ってこなくても……は、まずいか。気を付けてね!アキラちゃん!」

「はぁーい!ありがとう、おばさん!」



 行くぞと手を引かれ、おばあちゃんちへと帰る。

 誕生日プレゼントとしてくれたのは、ネックレスだった。



「ありがとう!これは、なかなかいいセンスだね?一人で?」

「そう……メッチャ、緊張した」

「アハハ、それ、見てみたかったよ!」

「まぁ、いつか一緒に行けば見れるんじゃね?」



 あっという間に家につく。

 せっかく、両想いになったとしても……部活に忙しい二人は、なかなか会えない日を過ごすことになることはわかっていた。

 実は、クラスが違うのだから、全然接点がない。



「秋の大会、見に行くよ!これつけて!」



 あぁと歯切れの悪いマサに、ん?と覗き込む。



「見に来てくれ。グラウンドに出れるように頑張るからさ!」

「体壊さない程度にガンバレ、エース!んじゃあね!」



 後ろからぎゅっと抱きしめられる。じゃあなっと、首筋にキスだけ残してマサは帰って行った。

 バカだ……マサくん、バカだ!

 私は、玄関の前で真っ赤になり、家に入ることもできずに立ちつくのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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