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夏休みの想い出  作者: 悠月 星花


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夏休みの想い出 ~ ガムシロとミルク ~

中3の二人

「こんにちは、おばさん!」

「あら、アキラちゃん、こんにちは!」

「マサくんいる?」

「マサね……さっき、出かけてくるって言って出てったきり、どこに行ったんだが……」

「そっか……ありがとう、探してみるね!」



 私は、麦わら帽子のつばをギュっと持ち、白いワンピースにサンダルの踵を鳴らして歩き始める。

 ふらっとどこかに行くなら、きっとあそこだろう。



「私、こっちに来てから、避けられているんだよね……なんでだろう?」



 てくてくと歩くと、昔は酒屋だったところが、今ではコンビニに変わっている。

 たぶん、何も飲み物も持たずに出て行ったであろうマサに私はジュースを買っていこうと、コンビニに入った。



 ◆◆◆



 この町も、私が初めて来たときとは、ずいぶん変わってしまった。

 酒屋がコンビニに……何もなかった町に少し大きめのショッピングモールができたり……

 田舎!っていう感じだたのに、少しだけ大きなものやコンビニが出来たことで、田舎の都会をあらわしているようだった。

 私もこの町に初めて来たときは、まだ小学生だった。

 今では中学3年である。月日がたつのは早いなと、伸びた手足を見て祖母は言うのだ。


 この春から母は仕事に海外へと行ってしまった。

 小学3年のときに両親は離婚。元々、母が仕事人間であったため、父はそれに寂しさを覚えていたらしい。

 そんなもんか……と、考えていたが、母の海外転勤の話と共に、母の実家であるこの町に住むことになったのだ。

 向こうに友達はたくさんいたが、この町でのことは常に頭のどこかにあったので、海外について行くか、父と暮らすかの二択を両親から迫られたとき、この町で祖母と住みたいと申し出た。


 引越ししたとき、向こうの制服を来て近所にあるマサの家に挨拶に行った日のことを覚えている。



「マサ、アキラちゃん来たわよ!これから、同じ中学に通うのですって!」

「えっ!アキラがこっちに引越ししてきたって?」



 2階にいたマサが、私が来たことを聞きつけ降りてきてくれ、私を見て明らかに戸惑った様子をしたのを今でもはっきり覚えている。

 それからだ……避けられているのは。

 学校には、1度だけ一緒に行ってくれた。

 中学までの道が、わからなかったから……でも、それ以降は、この1学期中、部活が忙しいからという理由で一緒に行ったことはなかった。



 ◆◇◆



「マサくん、何がいいかな?スポーツドリンク?うーん……アイスコーヒーでいっか!」



 手じかにあった、冷凍庫から、アイスコーヒーの入れ物をレジに持っていき、二人分のアイスコーヒーを淹れた。



「ガムシロって1つでいいのかな?ミルクいる?わかんないから……マサくんの分は2つずつもらってこ」



 私は鞄にガムシロ3つとミルク3つを入れ、汗をかきながらいつもの山へと登っていく。

 道を歩いているときは、暑くて溶けそうだったが、山に入ると木が木陰を作ってくれ、風も通り涼しく感じる。



「こういうとこ、快適だよねぇ……」



 一人山道を歩いているのだ、返事は返ってこない。

 やっと、秘密基地についた頃、さすがに息も弾む。



「……マサくん、いるんでしょ!」

「……」

「ねぇってば!もう、返事なくても、そっち行くからね!」



 私は、設置されている梯子に足をかけた。すると上から覗く目と目が合った。



「やっぱり、いた!アイスコーヒー買ってきたから、一緒に飲もうよ!」

「……アイスコーヒーって……俺、スポーツドリンクの方がよかったんだけど?」

「次からは、そうするよ!」



 私はするすると梯子を上りきると、秘密基地に上がりこむ。

 はいっとアイスコーヒーを渡すと、すでに氷がだいぶとけていて、水っぽい感じであった。

 しまったなと思いつつ……ストローを渡す。



「ガムシロって、何個いる?」

「何個って何個もらってきたわけ?」

「3つかな?私の分もあるから……」

「そう、なら2つ。ミルクもある?」



 あるよ!と3つ差し出すと、全て取られてしまった。

 私は、マサのことを眺める。

 中学は野球部で、夏の大会が終わったばかり……真っ黒にやけていた。



「マサくん、受験どうするの?」

「俺、勉強できないし、野球推薦で高校受かってるから受験なんてない」

「そうなの?どこ、決まったの?」

「西高」

「西高ね……そっか」

「頭いいから北高だろ?」

「私は頭がいいわけじゃないよ!ちょっと、容量がいいだけ!」

「要領?」

「容量」


 私は空に文字を書きながら、「ようりょう」と呟く。



「物覚えがいいってこと?」

「そうね。だから、頭がいいわけじゃないの。そっか、マサくんは西高か。あそこの制服、とっても可愛いよね!」

「はい?」

「制服可愛くない?ほら、想像してみて!私が西高の制服着ている姿!」

「無理……て、言うかさ、北高行けよな?なんで、西高なんだ?」

「マサくんが行くから?」

「そんな理由で、大事な受験を決めるな!」



 マサは私に怒るけど……私は、真剣だ。

 あの日からずっと、避けられている。どうせなら、距離を取ればいいのだろうけど……何年も心の隅にいた人物を前に、離れるなんてありえないだろう。



「真剣に考えた結果だから……いいでしょ!それに、マサくん、私がいた方が、テスト勉強もきっと捗るよ?」

「そういうことじゃなくて……」

「そういうことなの。っていうか、早くコーヒー飲まないと、氷、全部溶けちゃうよ!」

「アキ……アキラのものな!」



 あの日以来、初めて名前を呼ばれ、私は知らずと涙が零れた。



「えっ?何……?俺、何か言った……?」

「アキ……アキラって……呼んでくれた……」

「呼ぶだろ?アキラなんだから……」

「でも、春にマサくんちに行って以来、名前なんて呼んでくれたことなかったし、ずっと避けられてた」



 次から次へと零れ落ちる涙。

 目の前にあるアイスコーヒーのカップの汗のように流れ落ちていく。



「俺、アキラのこと、男だと思ってたんだよ……後ろをずっと歩いてくるし、弟みたいに思ってて……久しぶりあったら、女で驚いたんだ……避けてたわけじゃなくて……その、なんだ……女の子にどう接したらいいのか、わからなかったんだ」

「私は私だよ?」

「わかってる、わかってはいるんだけど……あぁ、もう!」



 言葉にならないマサの気持ちは読み取ることは出来なかった。

 いきなり、ぬるくなり始めたアイスコーヒーをがぶのみするマサ。

 下にガムシロがとごっていたらしく、甘い……とごちている様子を見て、私は笑う。


 こっそり買っておいたミネラルウォーターを鞄から出し、それをマサに渡すと一気に半部くらい飲んでしまう。

 せっかくのコーヒーはありがたみがなく、ミネラルウォーターを美味しそうに飲まれ、多少傷つく私であった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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