夏休みの想い出 ~ ひとりぼっちの夏 ~
中2のアキラ
「なぁ、夏休みにみんなで海に行かねぇ?」
「いいね、行こう行こう!アキラも行くでしょ?」
終業式の日、クラスではもう夏休みの話になっていた。
私はその話を上の空で聞き、今年も行けないおばあちゃんちのことを思った。
小学3年の春、両親が離婚した。
私は、母に引き取られることになり、今は二人暮らしをしている。
この頃から、母は仕事の量が増えたのか、朝は早く夜は遅く帰ってくるようになった。
夏になり、おばあちゃんちへ行きたいと言ったとき、母に言われた言葉が未だに私を動けなくする。
「アキラも私を置いて行ってしまうのね……」
初めて見た憔悴しきった母の顔に私はそれ以上何も言えなくなった。
おばあちゃんからの電話も出ることもなく、私は家と学校の往復をする日々を過ごしていた。
中学2年になった今、夏休みは大体部活に行く。
部活の休みの日に、クラスの子たちが海に行こうと計画しているようだ。
私は、海よりマサくんと遊んだ川で泳いだことを思った。
服を着たまま飛び込んで、おばあちゃんちに着いたころには乾いている。そんな夏休みが私は好きだったのだ。
「アキラ聞いてる?」
「あぁ、ごめん。なんだっけ?」
「水着を買いに行こうって話しているんだけど?」
「水着ね……ついて行くよ!」
「じゃなくて、アキラの水着を買いに行くの!私たちはもう買ってあるから!買いに行かなかったら…… スクール水着着てきそうじゃない!」
リカに指摘され、私は……そういえばと笑ってしまう。
今日は部活が休みなので、そのまま水着求めて街をフラフラすることになった。
◇◆◇
「いいのあってよかったね!」
「えっと……本当に、着ないとダメ?」
「ダメ!アキラが海に来てくれないとさ……ショウヘイたちもこないじゃん?」
「そんなことないと思うけど……」
私は右手に持つショップ袋の中身を思い、ため息をついた。
露出の極力少ないワンピース型の水着を選んでレジに並んだのだが、リカに売り場に連れ戻され、結局ビキニを買わされた。
せめて、短パンがついているの!とごねて、セクシー路線から可愛い系の方にしたのだが、これは、この夏1回だけしか着ないと心に誓う。
◇◆◇
海だぁー!と仲のいいグループで来たのはいいけど、やっぱり、このビキニを晒す気にはなれず、大きめのパーカーをずっと被っていた私。
「アキラ、泳がないの?」
「ショウヘイは泳いで来たら?荷物番も必要でしょ?」
私は、ガンとしてその場から動こうとしなかった。
その横にショウヘイも座る。
「アキラが行かないなら、俺もここで休んでよっと」
「えっ?遊んできなよ!発起人がここにいたらダメでしょ?」
「発起人って……俺は、アキラと遊びたかっただけだから、別に海じゃなくても良かったんだよな。なぁ、今度、二人でどこかに出かけない?」
茣蓙の上で寝転び上目遣いに私を見てくるショウヘイに困惑する。
「えっと……」
「そんなに困らなくても。傷つくな……」
口を尖らせながら、じっとこちらを見てくる。
「アキラってさ、好きなヤツいるの?」
「……いないよ」
「何、その間。怪しいなぁ……俺の知ってるやつ?」
「だから、いないって!ショウヘイが荷物見てくれているなら、私……行ってきてもいい?」
「それは……俺、ひとりぼっちで留守番?」
「そうだね……うん、誰か呼んでくるよ!」
私はスマホを持って立ち上がる。
ショウヘイと二人は、正直気まずい。
所謂女子会での出来事、親友のリカが好きだと言った人物なのだ。
まず、今の状況は、まずすぎる気がした。
「リカ!」
「アキラ、どうしたの?」
「うん、ちょっと散歩しようかなって……ショウヘイが休憩してるから行っておいでよ!」
「そうなの?ありがとう!行ってくる!」
リカは、休憩しているショウヘイのところへと駆けて行った。
その後ろ姿を見送り、私は、そのまま、波打ち際をほてほてと歩き回る。
どんどん人がいない方へと歩いて行くと、太陽に当てられてピカピカと光るものがあった。
「シーグラスっていうんだっけ?」
浜辺の漂流物は、波に揉まれ角の取れたガラス片はとても綺麗であった。
私は夢中になり、そこかしこに散らばっているシーグラスを集め始める。
「わぁー綺麗!こういうのって、マサくん好きそうだよね。写真、写真。いつか、会ったときに……って、会えるのかな?私、マサくんに、また会えるのかな……」
誰もいない浜辺でシーグラスを握り岩場に腰掛ける。
もう、8年もおばあちゃんちへ行っていない。
私のこと……忘れちゃったりしてないかな?マサくん、元気かな?スマホとか……持ってるのかな?
連絡……取りたいな……声、聞けないかな?
小学校3年生のときの夏休みは行けなかった。また、来年って約束したのに。
それ以来、ずっとずっと、おばあちゃんちでのことを考えることが多い。
特に夏休みになると、マサと一緒に行った秘密基地や花火大会のことばかり、強く想いだす。
こっちで過ごす夏休みより、マサと遊びまわっていたころの方が、ずっと楽しかった。
「マサくんに会いたいな……今年の夏もひとりぼっちだよ……」
どれくらいこの場所に座っていたのだろうか?
岩の陰で涼しかったため、ずっと座って海を眺めていたのだが、スマホが爆音で着信を知らせる。
「アキラ?どこにいるの?夕方だから、そろそろ帰るよ!」
「もう、そんな時間なんだ……ごめん、今すぐ行くね!」
私は拾ったシーグラスをパーカーのポケットに突っ込んでみんながいるところまで戻る。
時計を見れば、17時で、周りも帰り始めているところだった。
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