第3話 来客は母の古い友人?
「冬夜くん、どうしたの?」
眉間にシワを寄せて考え込む冬夜を見て、メイが心配そうに声をかける。
「ああ、ちょっと引っかかることがあってな……メイは母さんの古い友人という人には会ったのか?」
「うん、さっき雪江さんに頼まれてお茶を運んだ時に少しお話したよ」
「そうか……どんな感じの人だった?」
「うーん、優しそうな感じの人だったよ。白っぽい帽子を被っていたから顔はよく見えなかったけど……すごくきれいな長い銀髪で女の人だったよ!」
「そ、そうだったんだ……」
急に目を輝かせて答えるメイの様子に圧倒される冬夜。
「リーゼさんの髪色に似ていたような気がするよ!」
メイの口からリーゼの名前が飛び出すと、冬夜があることに気がついて問いかける。
「へえ、リーゼのような銀髪の人がいるとはな……って、そういえばアイツはどこに行ったんだ?」
「言われてみればリーゼさんを見ていないよね。ソフィーや美桜ちゃんに聞いたけど、一緒に公園に行ってないみたいだよ」
「一緒に行動していたんじゃないのか? あのリーゼがソフィーと別行動を選ぶなんて考えられないんだが……」
メイの話を聞いた冬夜は顎に手を当て、しかめっ面になりながら考え始める。
(そういえば玄関で大量のぬいぐるみをぶちまけた時、エミリアさんと何か話していたのは覚えているんだが……言われてみればその後から姿を見ていないような?)
「なあ、メイ。リーゼと最後に顔を合わせたのっていつだった?」
「えーっと……あれ? そういえばずっと見ていないような気がするよ」
姿が見えないことを不思議に思った冬夜が問いかけると、人差し指を顎に当てて顔を傾けるメイ。すると二人の様子を黙って見ていた雪江が、笑みを浮かべながら話しかける。
「ふふふ。リーゼさんならエミリアさんに連れられて、お家に帰られたそうですよ」
「そうだったのか。それなら帰ると言ってくれても良かったのに」
不機嫌そうな顔をしながら冬夜が呟くと、雪江が小さくため息を吐きながら答える。
「気持ちはわかりますが……エミリアさんを止めるのも大変だったんですよ。頭に血が上っていて大事なことを言わないから、リーゼさんも怒り出して親子喧嘩が始まりまして……何も言わないつもりでしたが、収拾がつかなくなりそうだったのでちょっと雷を落としました」
「げっ……ばあちゃんの雷が落ちたのか……」
恥ずかしそうに口に右手を当てて話す雪江に対し、口を引きつらせている冬夜。対照的な二人の様子を見て、メイが問いかける。
「冬夜くん、すごく顔がひきつっているけどどうしたの?」
「あ、うん……なんというかばあちゃんを怒らせると……」
「冬夜、何を話そうとしているのですか?」
冬夜が口を開いた瞬間、雪江の鋭い声が響いた。反射的に体が跳ね上がり、額から汗が流れ落ちる。
「いや、ばあちゃん? 俺は真実をメイに話そうとしただけで……」
「真実ですか? エミリアさんとリーゼさんが親子で言い争いを始めたので、仲裁に入っただけですよ。それ以上でもそれ以下でもないですが……他に何があるというのでしょうか?」
「まあそうなんだけど……止め方が問題と言うか……俺も散々身に沁みてわかっていると言うか……」
言葉を選びながら口ごもる冬夜を見て、雪江はわざとらしくため息を吐いて話しかける。
「はぁ……言いたいことがあるならはっきり言わないと相手には伝わりませんよ?」
「……いや、はっきり言ったら俺の立場がヤバいと言うか……」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいと言いましたよね? 何が言いたいのでしょうか?」
歯切れの悪い返答をする冬夜に対し、鋭い視線を向けながら一喝する雪江。すると観念したように冬夜が口を開く。
「……いえ、何でもありません」
「そうですか。それなら最初からはっきり言えばよいのですよ」
「はい……」
借りてきた猫のように大人しくなる冬夜に対し、満足げな表情を浮かべる雪江。何が起こっているのか理解できないメイが首を傾げていると、応接室から顔を出したソフィーが駆け寄ってきた。
「メイ、どうしたの? あ、雪江さんと冬夜くんも一緒だったんだね」
「そうだよ。ソフィーは何をしていたの?」
「応接室でお客さんと一緒にお話していたのよ。いろんな場所に行っていて、すごく物知りなんだよ!」
目を輝かせたソフィーが、冬夜とメイに向かって嬉しそうに話し始める。
「昨日はすごく大きな砂浜のある海の近くにいたんだって! その時に困っている男の子がいて、話を聞いたら幼馴染の子と喧嘩して吹き飛ばされてきたって言ったんだって。それでお話を聞いて、ちゃんと仲直りしないとダメだよって話したって……」
「ん? ちょっと待て……ソフィー、その男の子の特徴とか聞いていないか?」
引っかかりを覚えた冬夜が話を遮るようにソフィーに問いかけると、怪訝げな顔をしながら不思議そうに聞き返す。
「うーん……詳しくは聞いていないけど、黒髪の人だって言っていたよ。あと、声を掛ける前に『愛の力は偉大なんだ! アイル・ビー・バック!』って海に向かって叫んでいたって」
「……思い当たる節がありすぎるんだよな、間違いなく一布さんだろ……それに砂浜がきれいな海岸って、ここから電車で二時間以上離れてるし……言乃花のやつ、どこまで飛ばしてるんだ」
さまざまな考えが脳内を駆け巡り、額に手を当てて大きなため息を吐く冬夜。そんな彼の様子に気がついていないメイが笑顔でソフィーに話しかける。
「海に叫びたくなるくらい情熱的な人なんだね。私も一緒にお話を聞きたいな」
「うん! あのね、冬夜くんとメイにお話したいことがあるみたいで呼んできてほしいって頼まれたの」
ソフィーの言葉を聞いた冬夜の表情が徐々に曇り始める。
(ん? なんで俺たちのことを知っているんだ……俺のことはさておき、メイのことを知っているのが引っかかるな)
無邪気に話すソフィーを見つめ、どんどん険しい顔になり始める冬夜。
母の友人という存在への違和感が――彼の心を少しずつ侵食し始めていった……




