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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第八章 崩れ始める世界

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第一話 つかの間の日常

「うう……メ、メイ! しっかりしろ! 頼む、目を、目を開けてくれ!」


 冬夜が悲痛な叫び声を上げた時、頭の中に聞き覚えのある怒鳴り声が響き渡る。


「こりゃ! いつまで寝ておるんじゃ。いい加減目を覚まさんか!」

「へ? あ、あれ? メイはどこだ! それよりもここは……」

「寝ぼけておらんと、シャキッとせんか!」


 寝ぼけた冬夜が大声を上げ、飛び起きようとすると紫雲のゲンコツが脳天に直撃した。


「いでぇ! じいちゃん、いきなりなにするんだよ!」

「寝ぼけて飛びかかってきたやつに()()して、何が悪いのじゃ。落ち着いて周りをよく見てみるんじゃ」


 涙目になった冬夜が頭を抑えながら周囲を見渡すと、見慣れた机や本棚が目に入る。


「……おかしいな。どこをどう見ても俺の部屋にしか見えないぞ……そ、そうか! これは夢の世界なんだ! だから、じいちゃんが目の前にいるんだな」

「お前は何を言っておるのじゃ。まだ目が覚めておらんのか……もう一発、ゲンコツが必要なようじゃな」


 呆れた紫雲が小さくため息を吐くと、右手を握りしめて口元に当て、ゆっくり息を吹きかける。その姿を見た冬夜の顔から血の気が引き始める。


「じいちゃん、夢とはいえさすがに何度も殴られたら……って、あれ? 夢なのに痛いとはどういうことだ?」

「そうじゃな、痛みは無いはずじゃもんな。じゃあ、夢かどうか自らの身体で確かめてみるのが、良いと思うのじゃぞ」


 満面の笑みを浮かべた紫雲が拳を振りかざすと、大慌てで冬夜が止めようと訴えかける。


「じ、じいちゃん。暴力は良くないと思うぞ……ここは平和的な話し合いをするべきだと思うんだ」

「ほう? 話し合いも悪くはないのう。じゃが、男同士である以上、時に拳を交えて話し合うことも大事じゃ」

「オーケーオーケー、たしかに拳で話し合うときもあるだろう。だけど俺は平和主義者なんだ! そう、世界は手を取って助け合うべきだと思うんだ!」


 冬夜の話を聞いた紫雲は腕を組み、感慨深い顔で大きく頷きながら話しかける。


「ほう? まさか孫に世界平和を問い正される日が来るとは思っていなかったのう」

(良かった……なんとかじいちゃんを説得できそうだな)


 ゲンコツを回避できたと胸を撫で下ろした時だった。いきなり口元を釣り上げ、怪しげな笑みを紫雲が浮かべ始める。


「世界が平和なのはいいことじゃが、()()()()()()()はワシが守らなければならぬ。それに……寝ぼけて現実と夢の区別がつかなくなっているようじゃし、ちゃんと目覚めさせてやる義務があるからのう」


 紫雲の変貌ぶりを見て、冬夜の頭から滝のように冷や汗が流れ始める。


「じ、じいちゃん? 俺はもうとっくに目が覚めているというか……」

「いいや、まだ目覚めておるとは思えんのじゃ……きっといろんな激戦を経験したせいで、現実逃避をしようとしておるに違いない。そんな情けない孫に育てた覚えはないのじゃ……安心せい、ちゃんと正しい道へ戻してやるからのう!」

「わー! 待て待て、ちゃんと現実を見て生きているから! 人の道を踏み外すようなことは……」


 冬夜が必死に弁解をしようと試みるが、紫雲の決心が揺らぐことはなかった。


「問答無用! 歯を食いしばるんじゃ!」

「ギャー! 暴力反対!」


 冬夜が叫び声を上げた瞬間、家を揺らすほどの衝撃が冬夜の脳天に襲いかかる。声を出すことも無く、ベッドに倒れ込むと、部屋の外から複数の足音が響く。そして、勢いよく扉が開かれると、心配そうな顔をしたメイが飛び込んできた。


「冬夜くん、どうしたの? ものすごい音が聞こえたけど……」


 彼女の目に飛び込んできたのは、ベッドの上で体を曲げたまま、伸びている冬夜の姿だった。


「冬夜くん、しっかりして! 紫雲さん、一体何があったのでしょうか?」


 真っ青な顔をしたメイが近くに立っていた紫雲に問いかけると、明後日の方向を向きながら気まずそうに答える。


「あーうん、あれじゃ。まだ寝ぼけておるみたいなんじゃよ。よっぽど疲れが溜まっているようでな」

「そうなんですか? でも、寝ているというよりは気絶しているような気が……」


 話を聞いたメイが冬夜を見て首を傾げていると、後ろにいた言乃花が肩に左手を置きながら話しかける。


「メイちゃん、世の中には目を開けたまま眠る人もいるのよ」

「そうなんですか! 目を開けたまま眠れるなんてすごいです!」

「でしょ? 冬夜くんも気絶しているように見えて、まだ寝てるだけだと思うの。ほら、美桜もたまに目を開けたまま寝ていることだってあるのよ」


 優しい笑みを浮かべた言乃花が語りかけると、階段の下から抗議するような声が響く。


「お姉ちゃん、それは違うのです! 美桜は寝ているのではなくて、気絶させられて……」

「……」


 無言で軽く右手を上げ、階段下に向けると突風が一直線に駆け抜ける。そして、階段下から蛙の鳴き声のような声が聞こえてきた。


「あら? 美桜ったら蛙を連れてきたのかしら? ちゃんと外に逃がしてきなさいと言っておかないといけないわね」


 顔色ひとつ変えずに告げる言乃花を見て、心の声が思わず漏れ出してしまう紫雲。


「うーむ……さすが弥乃の娘じゃのう」

「紫雲さん、なにかおっしゃいました?」


 紫雲の耳に聞こえるはずのない声が響くと、額から一筋の汗が流れ落ちる。


「……いや、なんでもないのじゃ」


 何が起こったのか理解できず、不思議そうな顔で紫雲と言乃花を見るメイ。すると、階段の下から雪江の声が聞こえてきた。


「冬夜もいつまで寝ているんですか? お客様が待っておられますよ。メイさん、言乃花さん、ちょっと手伝ってほしいので来てもらえますか?」

「わかりました、すぐ向かいますね。行きましょう、メイちゃん」

「は、はい。冬夜くん、先に下に降りてるね」


言乃花に促されて階段を降りていくメイ。すると追い打ちをかけるように、雪江の声が響く。


「おじいさんも早くしてください! いつまでも遊んでないでくださいね」

「わ、わかったのじゃ! おい! 冬夜、早く起きんか!」


 雪江の声を聞いた紫雲は自分の行為を棚に上げて、気絶している冬夜の体を必死に揺らす。

 天ヶ瀬家を訪ねてきた来客とは、誰のことだろうか?

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