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絶望の箱庭~鳥籠の姫君~  作者: 神崎 ライ
第五章 虚空記録層(アカシックレコード)

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第6話 レアのもたらしたもの(前編)

「美桜はおやつを食べ過ぎないのです……あれ? ソフィーちゃんが()()()()()()()のです? できれば飲み物が欲しいのです」

「美桜ちゃん、しっかりして! すぐに飲み物を貰ってくるよ!」


 口から魂が抜けかけている美桜を見て、大慌てで飲み物を取りに厨房へ向かうソフィー。そんな美桜に呆れた様子で言乃花が話しかける。


「全く……何を言っているの? ソフィーちゃんは最初から一人しかいないに決まっているでしょ? その様子じゃまだ余裕がありそうね?」

「そ、そんなことはないのです! お姉ちゃんは何も知らないから簡単に言えるのですよ!」

「それだけ元気なら大丈夫ね。レアさんがいる間はまたお願いしようかしら?」

「お姉ちゃんのおにーーー!! 美桜が死んでもいいのですね!」


 必死に訴える美桜を華麗にスルーするとレアの元へ歩いていく言乃花。


「レアさん、お久しぶりです。今日は美桜のトレーニングと面倒を見て頂いてありがとうございます」

「あら、言乃花ちゃん? そんな(かしこ)まった挨拶なんてしなくていいのよ。私も久しぶりに美桜ちゃんと遊べて楽しかったわ」

「そういっていただけるとうれしいです。しばらくはこちらに滞在される予定でしょうか? 父と母も会いたがっておりましたので」

「そうね、ひと段落したところだし、バカ二人(翔太朗と玲士)の根性も叩き直さないといけないからね。健太郎くんと弥乃ちゃんの道場にお邪魔させてもらうわ」


 二人が笑顔で談笑する様子をぽかんと見ている冬夜とメイ。そこへコップを両手に持ったソフィーが急いで戻ってきた。


「はい、美桜ちゃん。虹色ソーダをもらってきたよ」

「ソフィーちゃん、ありがとうなのです! 美桜に優しくしてくれるのはソフィーちゃんだけなのです」

「俺も飲み物が欲しかったっすよ……」

「レイスさんの分もありますよ。はい、どうぞ」

「おお……ソフィーさんがうさぎの天使に見えるっすよ」

「何をバカなことを言ってるのよ! ソフィーちゃんは天使に決まってるでしょうが!」


 遅れてやってきたリーゼが呆れた声でレイスを一喝する。


「二人ともどうしたの? そんなところで立ち止まって」

「なあリーゼ、言乃花と話してる女性っていったい誰なんだ?」

「私も気になっていたんです。広場の前で声をかけられたのですが、ちゃんとご挨拶もできなくて……」


 困惑するメイと冬夜の言葉に思わず吹き出してしまうリーゼ。


「ふふ、そういうことね。ちゃんと紹介するから一緒に行きましょう。あ、ソフィーちゃんもね」

「はい、リーゼさん」


 レイスに飲み物を渡したソフィーが笑顔で戻ってくるとリーゼの右手をぎゅっと握り、ニコニコと笑顔を見せた。


「もー! ソフィーちゃんの笑顔は何物にも代えがたいわ……もうずっと握っていたいくらいよ」

「ちょっとリーゼ、心の声がダダ洩れどころか……全部丸聞こえよ」


 いつの間にか背後に言乃花が立っており、だらしなく緩んだ顔のリーゼに耳元でささやく。


「なっ、こ、言乃花! いつの間に……」

「さっきから声をかけているのに反応しないほうが悪いでしょう? ほら、はやく三人を紹介してきなさい」


 顔を真っ赤にして文句をいうリーゼを無視して厨房のほうへ歩いていく言乃花。慌ててリーゼが冬夜とメイを連れて歩き出そうとしたところで先にレアが話しかけてくる。


「リーゼちゃん、久しぶりね。昔はもーっと堅物のような感じだったのにだいぶ丸くなったわね。あら、そういえば昔からかわいい物には目がなかったっけ? よく通販でぬいぐるみを買っては一人ずつ名前を……」

「わー! レアさんストップ! 私の話はいいですから三人の紹介をさせて……」

「あら、面白そうだから当ててあげましょうか? 左から天ヶ瀬 冬夜くん、メイちゃん、そしてリーゼちゃんと手を繋いでいるうさぎさんはソフィーちゃんでしょう?」

「え? なんで俺たちのことを知っているのですか?」

「すごい、どうしてわかったのですか?」

「すごいです!」


 名前を完璧に言い当てられて驚きを隠せない冬夜とメイ、そしてリーゼの隣でキラキラ目を輝かせているソフィー。


「ふふふ、私にはすべてお見通しなのよ!」


 子どものように無邪気な笑顔を浮かべて得意げに言うレア。


「あ、自己紹介がまだだったわ。私は『芹澤 レア』、玲士の母よ。あの子って引きこもりだし興味を持ったら周りが見えなくなるから迷惑ばっかりかけてるんじゃない? それに話が長いのよねー、まったく誰に似たのかしら? そうそう、ここに来る前に病院に寄ったんだけどね……」


 レアによる自己紹介という名のマシンガントークが繰り広げられるうちに夕食会の準備が整いつつあった。


(ああ、副会長の話し方はまさしく母親譲りだな……)


 冬夜は病室でも交わされたであろう舌戦を思い浮かべ、額から一筋の汗が流れていた。

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