第28話:正義の覚醒と氷の崩壊
氷刃のメルゼスが消えたあと、王都には静寂が戻った。
だがその空気は、ただの安堵ではなかった。
人々は、目の前で繰り広げられた“契約者の戦い”に言葉を失っていた。
リディアは〈正義〉のカードを手に取り、ゆっくりと見つめる。
先ほどの戦いで、カードは新たな術式を生み出した。
《審光断罪・アストレア》――それは、裁きの光を放つ力。
「このカード……均衡を保つだけじゃない。正しき秩序を、導く力だったのね」
ヴァルグが肩を叩く。
「お前の意思が、カードを変えた。それが“契約”ってやつだ」
カスミは微笑みながら言う。
「あなたが選んだ“正義”が、世界を照らしたのです」
そのとき、王都の枢機院が姿を現す。
かつてリディアを追放した者たち――その顔には、深い後悔と敬意が浮かんでいた。
「契約者リディア・ヴェルシュタイン殿。あなたの力が、王都を救いました。今こそ、正式にその名を讃えさせてください」
リディアは静かに頷く。
「私は、誰かに認められるために戦っているわけじゃない。でも――この街が、私を必要とするなら、応えます」
枢機院は契約者の証を差し出す。
それは、かつて剥奪された“光の紋章”。
リディアはそれを受け取り、胸元に掲げる。
「この紋章は、私の過去の証。そして、未来への誓い」
王都の人々が歓声を上げる。
「光の令嬢が、戻ってきた!」
「契約者が、王都を守ってくれた!」
その夜、王都の空には星が広がり、氷の霧は完全に消えていた。
だが、リディアの瞳は遠くを見ていた。
リュカの気配――そして、次なるカードの震え。
「次は〈塔〉。崩壊と再生の力……その先に、リュカがいる」
物語は、いよいよ魔王の居城へと向かっていく。




