第27話:四天王・氷刃のメルゼス
王都の空が、突如として凍りついた。
雲が裂け、氷の結晶が降り注ぐ。
その中心に、漆黒の剣を携えた魔族が降臨する。
「……来たわね」
リディアが〈正義〉のカードに手を添える。
現れたのは、魔王〈ヴェル=アザル〉の四天王の一人――〈氷刃のメルゼス〉。
氷の魔術を操る剣士型の魔族。
その気配は、ゼルヴァとは異なる冷酷さを帯びていた。
「契約者よ。王都を守るなど、無意味だ。すべては凍てつく運命の中に沈む」
メルゼスが剣を振るうと、空間が凍り、兵士たちの動きが鈍る。
結界が砕け、街の一角が氷の塔と化す。
「《浄光術式・ソレリス》!」
リディアが光を放つが、氷の壁に吸収される。
「光など、氷の静寂には届かぬ」
ヴァルグが炎を纏い突撃する。
「《焔牙・カルドレア》!」
だが炎は凍てつき、ヴァルグの腕に霜が走る。
「ぐっ……この氷、ただの魔力じゃない。空間そのものを凍らせてやがる!」
カスミが転移術式を展開し、一時撤退を提案する。
「このままでは全滅します。陣を立て直しましょう!」
だがリディアは首を振る。
「逃げるわけにはいかない。ここで、王都を守る」
彼女は〈正義〉のカードを掲げ、深く息を吸う。
「均衡を保つだけじゃない。裁きの力を――解き放つ!」
カードが光を放ち、術式が変化する。
《審光断罪・アストレア》――新たな術式が発動。
光の剣が空を裂き、氷の空間を貫く。
メルゼスの防御が崩れ、ヴァルグの炎が再び燃え上がる。
「今だ――!」
三人の連携が極限まで高まり、メルゼスの身体に深い傷が刻まれる。
氷の塔が崩れ、王都の空が再び動き出す。
メルゼスは苦悶の声を上げながら、氷の霧に包まれて消えた。
「……四天王の一角、崩れたわね」
リディアは剣を下ろし、空を見上げる。
だがその瞳には、まだ焦点が定まっていなかった。
「リュカ……次は、あなたを取り戻す」
王都の人々が歓喜する中、リディアたちは次なる戦いへと歩みを進める。




