第19話:ヴァルグ、覚醒
迷宮の奥、巨大なホールに三人はようやく合流した。
だが安堵する間もなく、鎖の音が轟き渡る。
「では、最後の三匹を放ちましょう」
魔族の声が冷たく響く。
闇の中から現れたのは、さらに三体の怪物。
すでに放たれた三体と合わせ、六体の巨獣がホールを埋め尽くす。
鋼の皮膚、毒の息、巨腕、異形の咆哮――それぞれが絶望を形にした存在だった。
「……六対三……」
リュカが剣を構えながら呟く。
「勝ち目なんて……」
リディアは震える手でカードを握りしめる。
「でも、逃げ場もない……!」
怪物たちが一斉に咆哮し、突進してくる。
三人は必死に回避しながら応戦するが、刃も魔法も通じない。
石壁が砕け、床が揺れ、空気が絶望に満ちていく。
そのとき――ヴァルグが二人を背に庇い、低く唸った。
「……仕方ない。今から巨大化する。みんな逃げろ」
「ヴァルグ……!」
リディアが叫ぶ。
「我が力は制御できぬ。お前らまで巻き込むかもしれん。それでも構わぬなら――」
ヴァルグの足元に魔法陣が展開される。
炎と闇が渦を巻き、彼の体を包み込む。
「《魔獣顕現・ヴァルグ=ノヴァ》!」
轟音とともに、ヴァルグの体は膨張し、巨体へと変貌していく。
その姿は城の天井に届き、炎の鬣を揺らす巨獣。
咆哮ひとつで空気が震え、六体の怪物が怯んだ。
「うおおおおおおおおっ!」
ヴァルグが突撃する。
炎を纏った爪が一閃し、怪物の一体を粉砕。
尾の一撃で二体目を壁に叩きつけ、炎の咆哮で三体目を焼き尽くす。
圧倒的な力。
六体の怪物は次々と蹂躙され、ホールは炎と轟音に包まれた。
その瞬間――リディアの聖印が光り、〈太陽〉のカードが共鳴する。
「……これは……!」
光がリディアとリュカを包み込み、傷が癒え、魔力が満ちていく。
二人はその光の中で、ヴァルグの背中を見つめた。
「ヴァルグ……あなたは……」
リディアの瞳に涙が滲む。
「まだ終わりじゃない。奴らを倒し、〈運命〉を掴むんだ!」
リュカが剣を握り直す。
炎と光が交錯する中、戦いは最終局面へと突入していった。




