第17話:鎖の獣、試練の始まり
石造りの迷宮に、重々しい音が響いた。
ガラガラと鎖を引きずる音――それは、奥から迫ってくる“何か”の存在を告げていた。
「……来るぞ」
ヴァルグが低く唸る。
闇の中から姿を現したのは、鎖で繋がれた巨大な怪物だった。
四つの赤い眼がぎらつき、鋼のような皮膚を持つ異形。
その名は〈グラヴァル〉。
「では、一匹目を放ちます」
魔族の声が、どこからともなく響く。
次の瞬間、〈グラヴァル〉が咆哮を上げた。
轟音が迷宮を震わせ、石壁にひびが走る。
「リディア、下がれ!」
ヴァルグが前に出て炎を纏う。
リディアは〈月〉のカードを掲げ、幻影を展開する。
「《幻影結界・ルナティス》!」
霧が怪物の視界を覆うが――。
「効かない……!」
〈グラヴァル〉は幻影を見抜き、鎖を振り回して突進してきた。
リュカが剣を抜き、羅鬼流の構えを取る。
「羅鬼流・初式――《影返し》!」
閃光のような抜刀が鎖を弾くが、怪物の巨体は止まらない。
「くっ……硬すぎる!」
三人は必死に攻撃を繰り出すが、刃も魔法も通じない。
〈グラヴァル〉の突進で通路が崩れ、瓦礫が落ちる。
「リディア!リュカ!」
ヴァルグが叫ぶ。
だが、崩落により三人は別々の通路へと弾き飛ばされてしまった。
「……分断された……!」
リディアは暗い通路に一人取り残され、震える声で呟く。
遠くから、魔族の声が再び響く。
「では、次の二匹を放ちましょう」
鎖の音が、迷宮全体に広がっていく。
新たな怪物たちが、目を覚まそうとしていた。




