第12話:嵐の海と影の追撃者
船は北の町〈ルミナリア〉へ向けて、静かに港を離れた。
甲板ではリディアが海風に髪をなびかせ、ヴァルグは小型の姿で膝の上に丸くなっていた。
「次のカードは〈正義〉。光の神殿に伝承があるって聞いたわ」
リディアが呟く。
「正義か……均衡と裁きの力。扱い方を誤れば、刃にもなる」
ヴァルグが小さな声で答える。
リュカは日記に今日の出来事を記録しながら、ふと空を見上げた。
「なんだか、嵐が近い気がするな……」
その予感は、やがて現実となる。
空が急に曇り、風が荒れ始めた。
そして――霧の向こうに、黒い船影。
「……来たか。Dハンター」
ヴァルグが低く唸る。
魔族の船が接近し、甲板に魔力の矢が降り注ぐ。
乗員たちは悲鳴を上げ、船は混乱に包まれる。
「ヴァルグ、戦える?」
リディアが叫ぶ。
「この姿では力が制限される。再変身が必要だ」
リディアは〈太陽〉のカードを取り出し、詠唱を始める。
「太陽よ、覚醒の力を――《再顕・ヴァルグロア》!」
光がヴァルグを包み、元の姿へと戻る。
炎を纏った魔獣が甲板に立ち、咆哮を上げた。
「我が牙で道を切り開く!」
戦闘が始まった。
ヴァルグが炎の爪で敵を薙ぎ払い、リディアは〈月〉の魔法で霧を操る。
「《幻影結界・ルナティス》!」
霧が敵の視界を歪ませ、幻影が甲板を覆う。
Dハンターの一人が錯乱し、仲間を誤って攻撃する。
だが、敵の隊長格が魔法陣を展開し、船体を揺らすほどの衝撃波を放つ。
その一撃でリディアとリュカは甲板から吹き飛ばされ、船室の奥へと落下した。
「リディア!リュカ!」
ヴァルグの叫びが遠ざかる。
船室の中、リディアは壁に打ち付けられ、リュカは彼女を庇って倒れていた。
「……大丈夫?」
「うん、なんとか。でも、ヴァルグと離れたのはまずい」
そのとき、船室の扉が軋みながら開く。
Dハンターの一人が、剣を手にゆっくりと近づいてくる。
「契約者と記録者。ここで終わりだ」
リディアは魔力を使い果たし、立ち上がることもできない。
だが、リュカは静かに立ち上がった。
「……僕が守る。記録者としてじゃなく、剣士として」
彼の瞳が鋭く光る。
次回――リュカの剣が火を裂く。




