第11話:小さなヴァルグと船出の朝
「……このカードとこのカードを組み合わせたら、ヴァルグを小型に変化させることができないかな?」
朝の光が差し込む宿の一室。
巻物を広げたリュカが、真剣な顔でカードを見つめていた。
「〈月〉は幻影と変化、〈星〉は調整と希望……理論上、変身魔法の補助になるはずなんだ」
「……我を変化させるだと?」
ヴァルグが眉をひそめる。
「だって、君の姿じゃ船に乗るたびに騒ぎになるし、目立ちすぎるんだよ。小型化できれば、旅もずっと楽になる!」
リディアは興味津々でカードを手に取る。
「試してみましょう。〈月〉と〈星〉の力、私たちなら扱えるはず」
リュカが魔法陣を描き、リディアが詠唱を始める。
「月よ、姿を揺らし、星よ、形を整えよ――《変化術式・ルナステラ》!」
光がヴァルグを包み、次の瞬間――
「……我の姿が……縮んだ……?」
ヴァルグはふわふわした毛並みの小型獣に変化していた。
鋭い瞳はそのままに、体はぬいぐるみのように丸く、愛らしい。
「か、かわいい……!」
リディアは思わず抱きしめる。
「……我は威厳を失った気がする……」
ヴァルグは不満げに唸るが、リュカは満足げに頷いた。
「これなら大型船にも乗れるし、目立たない!完璧だ!」
その日の午後、三人は港へ向かった。
船は北の町〈ルミナリア〉へ向かう定期便。
船主はヴァルグの姿を見て「珍しいペットですね」と笑いながら乗船を許可した。
甲板に立つリディアは、海風に髪をなびかせながら呟く。
「次のカードは〈正義〉。光の神殿に伝承があるって聞いたわ」
「正義か……均衡と裁きの力。扱い方を誤れば、刃にもなる」
ヴァルグが小さな声で答える。
リュカは日記に今日の出来事を記録しながら、ふと空を見上げた。
「なんだか、嵐が近い気がするな……」
その予感は、やがて現実となる。
霧の向こうに、黒い船影――魔族の追撃者、Dハンターの姿が迫っていた。




