第10話:星の神殿と運命の問い
北方の高地――空に近い場所に、星の神殿は静かに佇んでいた。
風は冷たく澄み、空気には魔力の粒子が漂っている。
リディア、ヴァルグ、そしてリュカの三人は、険しい山道を越えて神殿の前に立っていた。
「ここが……星の神殿。空と運命を司る場所」
リディアは息を呑む。
「〈星〉のカードは、未来を照らす力を持つ。だが、それを得るには“選択”と“試練”が必要だ」
リュカが記録をめくりながら言う。
神殿の扉は、リディアが近づくと静かに開いた。
中は星の光が差し込む静謐な空間。
中央には、浮遊する魔法陣と、空に向かって伸びる光の柱があった。
「汝が進むべき道を問う場だ。答えを持たぬ者は、カードに拒まれる」
ヴァルグの声は、静かに響く。
リディアが光の柱に触れた瞬間、空間が揺れた。
星の魔力が解放され、神殿の奥から異形の魔物が現れる。
その体は星の欠片で構成され、空間を歪ませながら迫ってくる。
「試練……来たわね」
リディアは〈月〉〈太陽〉のカードを手に取る。
魔物が咆哮し、星の光を弾丸のように放つ。
ヴァルグが前に出て、炎の壁を展開する。
「《焔壁・カルドレア》!」
「月よ、幻を編め――《幻影結界・ルナティス》!」
リディアの〈月〉の魔法が空間を歪ませ、魔物の視界を撹乱する。
星の弾が幻影に吸い込まれ、実体を見失う魔物。
「今よ、太陽の光で照らすの!」
リディアは〈太陽〉のカードを掲げ、詠唱を始める。
「太陽よ、真実を照らせ――《浄光術式・ソレリス》!」
神殿全体が光に包まれ、幻影が消え、魔物の本体が露わになる。
ヴァルグが跳躍し、爪に炎を纏って突撃する。
「《終焉牙・ノクティス》!」
魔物が崩れ落ちると同時に、空から一枚のカードが降りてきた。
淡い銀光を放つ――〈星〉のカード。
リディアが手を伸ばすと、カードは彼女の手の中に収まり、優しい魔力が体を包み込んだ。
「これが……未来を照らす力」
「汝は選んだ。ならば、我はその未来を守ろう」
ヴァルグが静かに言う。
リュカは記録を閉じながら微笑む。
「君の物語は、確実に“契約者の歴史”に刻まれていくよ」
神殿を後にした三人。
空には星が瞬き、風は新たな旅の始まりを告げていた。
そのとき、リュカが突然叫んだ。
「待ってくれ〜!僕も連れてってくれ〜!次のカードも絶対面白いって確信してるんだ!」
リディアは笑いながら振り返る。
「もう連れてってるわよ。置いていく気なんてないもの」
ヴァルグは無言で歩き出す。
その背に、四枚のカードが静かに光っていた――〈節制〉〈月〉〈太陽〉〈星〉。
こうして、令嬢と魔獣、そして記録者の旅は、第一章の幕を閉じた。
だが、カードはまだ残り70枚。
世界の均衡は揺れ続けている。
遠く離れた王都では、リディアの名が再び囁かれ始めていた。
“契約者狩り”――その言葉が、静かに広がり始める。
物語は、次なる章へ。




