共食いはしない
と言う事で、何とか時間に間に合いました。
「先輩、真っ赤な地図を見た時から予想はしていましたが本当に血塗れなんですね」
さっきのスーパーボール事件で、そんな事すっかり忘れていたわ。
「まあ、血も滴るいい男という事で」
「女ですね」
「いや、男だよ」
突っ込んで欲しかった処と違うんだけど。
そんな事はどうでも良くないが、話を先に進めよう。
「そんな事より、全部持って帰ってきたのか? ドロップアイテム」
凛の足元には、とても1回では持ち運べない量のドロップアイテムがまとめて置いてあった。
たかが1時間でこの量か。やはり気配感知系の能力を使える者が本気を出したら凄いな。
凛なら1階層のウルフは一撃だろうしな。
「ある程度ドロップアイテムが溜まったら、ダンジョンを出て、ここに置いておきました」
「そう言えば、ドロップアイテムの事を考えていなかったな」
俺はマジックポーチがあるので大丈夫だったけど。
俺がマジックポーチを手に入れる前は、凛と同じ様に持てるだけ持ってダンジョンを出たり入ったりしていたな。
「まあ、ドロップアイテム事は後にして。先に着替えるか」
俺程ではないが、凛も多少の返り血を浴びている様だからな。
「そうですね」
ーーー
着替え終わりました。
マジックポーチの中の水を結構使ったので、家に帰ったら水道水を補充しとかないとな。
「今日はもう帰りますか、先輩?」
着替え終わった凛が聞いてきた。
19時になると辺りは日が落ちてすっかり暗くなっている。
「そうだな、帰るか」
「分かりました。今日借りた服は洗って返しますので、先に帰ります」
凛はそれだけ言うと、俺の返事も待たず、走って帰っていった。
迷いなく帰っていったが、帰り道は分かるのか?
「あっ、地図返してもらうの忘れてた」
なら、裏山で迷子になる事はないか。
それに最悪、この裏山は圏外ではないので、何かあれば連絡してくるだろう。
凛は殆どのドロップアイテムを置いていったので、俺はマジックポーチからブルーシートを取り出すと、ドロップアイテムを包み、近くの茂みに隠しておいた。
俺も家に帰る事にするか。
ーーー
家に帰る前にスライムダンジョンに向かい、レッドウルフに会いに行った。
試練の扉まで行くと、レッドウルフは俺を見つける。
唸ってはいるがスキルは使ってない。
いい加減意味がない事に気付いたか。
しかし、こうして見ると保健所に捕まってしまった狂犬みたいだな。
人間には勝てないと分かっているが、決して懐く事はない雰囲気がある。
まあいい。俺がここに来た理由は餌をやる為だ。
今俺が持っている肉はダンジョン産ウルフ肉と残った鹿の足一本だけだ。
食費削減の為、このレッドウルフには是非ダンジョン産ウルフ肉を食べてもらいたい。
マジックポーチからウルフ肉を取り出してレッドウルフの前に放り投げる。
暫く観察していると、レッドウルフはウルフ肉の匂いを嗅いだが食べようとはしなかった。
そして、要らないとでも言うように前足で俺の方にウルフ肉を蹴り飛ばす。
これで食費の節約になると思ったんだけどな。
流石に共食いはしないか。まあ、普通そうだよな。
モンスターだから大丈夫なのではないかと思っていたが駄目か。
仕方なく鹿の足を取り出すと、レッドウルフの前に置いた。
レッドウルフはさっきと同じ様に匂いを嗅ぐと、今度は大丈夫だと判断したのか鹿肉を食べ始める。
俺はレッドウルフが鹿肉を食べ終わるのを待った。
ーーー
「これも試してみるか」
レッドウルフが鹿肉を食べ終わるのを確認してから、マジックポーチからある物を取り出した。
俺が取り出したのは肉では無くスライムの死骸だった。
このスライムは、ここに来る途中に居たスライムをいつも通り倒した後に、ウルフ肉を手に入れた時同様に解体すると言う意思を込めてスライムがドロップアイテムに変わる前にナイフで突き刺す事で残った死骸だ。
スライムの死骸は死んでしまうと、種族スキルの酸も無くなり普通に手で掴む事が出来た。
肉では無いがレッドウルフなら、もしかしてデザート感覚で食べるられるかもしれないと思い持ってきた。
見た目はゼリーに見えない事もないからな。
レッドウルフの前にスライムゼリーを置くと、レッドウルフが匂いを確認するかと思いきや、いきなり食いつき一瞬で食べ終わった。
「食い付き良過ぎだろ」
どんだけ好きなんだ。
それにしても、こんな近くに食糧問題解決の食材があったとはな。
レッドウルフが確認すらしないで食べている所を見ると、余程美味しんだろうな。
野生の生物としてそれはどうかと思うけど。
もしかして、人間でもスライムゼリーは美味しいと思うのだろうか?
それ以前にモンスターは人でも食べる事が出来るのか?
ダンジョンから肉が取れるなら、世界の食糧事情もかなり変わるな。
まあ、俺は自分で検証する気は無いから解体方法をネットに上げて、民間でも国でもいいから頑張ってもらう事にした。
レッドウルフの大好物なら全部置いていくか。
「ごはんだぞっと」
マジックポーチから回収してあったスライムゼリーをレッドウルフの前に全部出した。
「さて、帰るか」
出してやったスライムゼリーを夢中で食べているレッドウルフを後にしてダンジョンを出た。




