大地君(仮)の所為
「1時間後だからな。遅れるなよ、凛」
「分かっています。何回目ですか? そんなに言われなくても大丈夫ですよ」
「人と一緒に入るのは始めてなんだ。凛は年下だから何かあったら俺の責任になる」
「別に先輩に責任はありませんよ」
そうなんだが、傍から見れば俺の所為という事になるんだよな。
「やっぱり心配だから、これも持っていけ」
俺は自分の腕時計を外して凛に渡す。
タイマーを18時半にセットしておいたから、これで遅れてくる事は多分無いだろう。
「心配しなくても、いきなりそんなに奥まで入りませんよ。私はダンジョンに入るの始めてなんですから?」
凛は心配し過ぎている俺を見て呆れた様に言う。
そうだよな。初めてのダンジョン探索でいきなり奥に入ったりはしないよな。
俺は初めてのダンジョン探索で1階層を網羅していたから心配になった。
俺はそのまま隠し部屋で鑑定のスクロールを手に入れて、相当痛い目を見た。
まあ、その時はダンジョンだって知らなかったんだから、ノーカウントでも良いか。
「そう言えば、凛はどうやってスクロールを手に入れたんだ? ダンジョンが初めてという事は、ダンジョンで手に入れた訳ではないんだろ?」
「私がスキルを持っているのは、確かダンジョンが出現したとテレビで流れてから、2日目でした。
その日は部屋で勉強をしていて、途中で気分転換にでもと思い、近くのコンビニに行きました。
その帰りに道端に丸まっている紙が落ちていたんです。
その紙は売っているとこを見た事が無い様な用紙で、高価そうだったので、その時は交番に届けようと思っていました。
けど、その時は丁度コンビニで買ったアイスが袋に入っていたので一旦家に帰りました。」
「帰っちゃったのか」
「はい。あの時、家に帰らずに交番に行っていたら、あんな事にはならなかったのに」
凛は顔を伏せる。
「いや、凛。全然後悔もしていないのに、なんで雰囲気を作っているんだよ」
「何と無くです」
「そうか。それで、その後家に持って帰ったスクロールはどうなったんだ?」
「その後は、拾ったスクロールなんですけど。そのスクロールを特に何も考えずにコンビニの袋に入れていたんですよ。
そうしたら、アイスの結露で出た水で、家に帰る頃にはスクロールが結構濡れていました。
だから、交番に行く前に乾かそうと開いたら、スクロールの模様と文字が浮かび上がって、胸に吸い込まれ、頭と腰と手足に走る激痛で気絶しました。
そして、目が覚めると獣化が使えるようになっていてスクロールは消えていたんですよ」
「成る程、それは事故だな。死ななくて運が良かった。元々スクロールなんて物を落とす方が悪いが、ダンジョンが出現して2日目なのに、その落とした奴大丈夫か?」
と言っておくか。
これが無意識なのか確信犯なのかは俺が判断することでは無いが、アイスが入っている袋に用紙を入れるなんて、側から見ればわざとにしか見えない。
見た事もない種類の紙だ。ダンジョンが出現してから2日も経っている。
ダンジョンに興味を持つような子なら、何と無くにでも、この二つが結び付いていた筈だよな。
だから、凛は乾かすと言う口実を作って、ダンジョンに関係がありそうなスクロールを開いたのかな?
俺には段々とそうとしか思えなくなってきた。
まあ、凛はその罰を受けるかの如く、俺と似た様な激痛を受ける事になった。
俺とは違って、スキルの特性的に頭と腰と手足に激痛が走った様だな。
丁度獣化した手足と猫耳や尻尾が生えた位置に激痛が走ったのか。
分散している分、痛みも分散したのかな?
凛の話す様子はあまりトラウマになっている様には見えなかった。
俺は今でも思い出すと、少し脂汗が出るのにな。
それにしても、スクロールを落とした奴は誰なんだろうな?
そんな不用意なアホが居るのか?
まあ、俺が真っ先に思い浮かべたアホの顔は山田弟なんだけどな。
山田弟なら、スクロールを落としていてもおかしくは無いと思えてくる。
これが信頼と言うヤツだな。
まあ、落とした奴を、仮に大地君としよう。
その大地君は今スクロールを落とした事を相当悔しがっているだろうな。
あの頃はスクロールと言う物が知られていなかったが今は違う。
スクロールがあれば魔法やスキルを覚える事ができる。
それにもう少し待って民間にダンジョンが開放されてから売れば、没収される事もなく大金が手に入っていたかもしれない。
だが、その事に気付いた時にはもう遅い。
凛が拾ったから当然落とした場所には、スクロールは無く、交番に行って落し物を探そうとすれば、大地君がダンジョンに入っている事を自ら警察に報告しに行っている様なものだ。
そんな事をすれば、そのまま説教コース突入でダンジョンの場所もバレてしまう。
でも大地君の事だ。もしかしたら考えなしにそう言う行動を既に取っていて、警察に目を付けられたりしているかもな。
これからも大地君とは余程の事がない限り、関わり合うのは避けよう
lv12で一つもスキルを持っていなかったから、怪しいとは思っていたんだよな。
まあ、大地君の事だからlv0の人がそのスクロールを拾い使って、死んでしまったかもしれないなんて全く想像もしてないんだろうな。
警察に駆け込んでいたらごめん。
そう言えば、最初にモンスターからドロップするアイテムは良い物だった筈。それもその人が必要としている物や望んだ物がな。
普通の人なら、きっと何かしらスクロールがドロップするだろう。
そのスクロールを落としてしまった大地君(仮)は、猫耳属性が好きな人だったのかな?
大地君のどうでもいい性癖を知ってしまった。
まあ、武器が物凄く好きな人だったりすると、その人が好きな武器が出て来るのかもしれないな。
ん? ちょっと待てよ。




