コスプレ?
さて、能力テストを始めようか。
慶と戦った時は、lvアップの恩恵やスキルが使えなかったから、人相手にそれらを使うのは初めてだ。
今後の為にも恩恵ありきの対人経験はしておきたいと思っていた。
慶に相手を頼もうかと思っていたので、丁度良かったな。
別にいいよな。小池さんもこの勝負を教育だと思っているんだから、俺が唯の能力テストだと思っていても。
「さっさと始めるか。小池さん」
「分かりました。 第二開放」
小池さんがそう呟くと、小池さんの気配が増した。
レッドウルフの威嚇スキルの圧力に似ていたが、今回は唯の虚仮威しとは違うだろう。
第二開放。小池さんが使えるスキルは王獣化(猫)だけだ。
それで気配が増したというのなら、それは王獣化(猫)のスキルの力なんだろう。
第二と言っている事から、恐らく段階式の強化系スキルなんだと思う。
第何開放まで上がるのか分からないが、第二開放って事はまだ腕試しの段階だろうな。
俺もlvアップの恩恵と、神眼の気配感知以外は使わない事にしよう。
俺が動かずにそんな事を考えていると、小池さんが1歩の踏み込みだけで俺に肉薄し脇腹に蹴りを放った。
悪手と言いたいが、最初だから唯のウォーミングアップ程度の感覚でいたら、想定より速度が速かった。
俺は防御が間に合わず、もろに蹴りを受ける。
「ぐへっ」
俺は地面を5回転くらい転がり、やっと止まったので土を払いながら起き上がる。
「イタタ、油断してた」
lvアップの恩恵無しでは、間に合わない速度か。lvアップで耐久力が上がっていなかったら、肋骨に罅が入っていたかもな。
まさか、いきなりそこまでするとは思っていなかった。
いや、lvアップで耐久力が上がっている前提の攻撃という事かもな。
予定変更。今から神眼を気配察知以外にも使う。
「大した事無いですね」
「ごめん、ちょっと油断してた」
「あれは油断と言うか、反応に体が追いついていませんでしたよ」
「まあ、大丈夫。次から本気出すから」
「正直言ってガッカリです。ダンジョンに入っても大した事は無いんですね」
「だから、油断し」
小池さんは俺が返事をするのを待ってくれない様で、また全く同じ攻撃をしようと踏み込んで来たのを、神眼の空間把握能力で動きを予測する。
俺は重心を後ろに倒して、脇腹に迫る蹴りをギリギリで避けられる位置に下がってから、小池さんの蹴りに被せて見えないように同じ軌道で俺も蹴りを放った。
「ぐっ」
小池さんの蹴りはギリギリで空振り、俺の蹴りは小池さんの脇腹に入った。
まあ、俺の方が足が長いからな。小柄な小池さんにはないリーチを生かした攻撃だ。
しかし、王獣化(猫)は速度や力だけでなく、耐久力も強化されているようだな。
普通に相手なら、今の攻撃で暫くの間動けなくなる所を、小池さんは一瞬息が詰まった程度で、俺の様に派手に転がったりもしなかった。
いや、そう言えば俺にはユニークスキルがあるからダメージが1しか入っていないだけか。
まあ、それでもあまり衝撃を受けていない所を見ると、耐久力がが上がっているのは本当の様だな。
「大した事あってごめんな」
「くっ」
挑発に乗ってくるか?
「第三開放」
小池さんがそう言うとまた気配が一段増した。
見下していた相手の挑発には耐えられないのか。
小池さんは地面に軽く罅が入る程の踏み込みをして、俺に向かって真っ直ぐ突っ込んできて殴り掛かる。
俺はその動きに合わせて、殴り掛かってきた腕を掴むと背負い投げで投げ飛ばした。
ポーションもあるから、殺さなければ多少の怪我は後で治せる。そこまで遠慮しなくても問題ないだろ。
「くっ」
「くっ、じゃない。幾ら身体能力が上がっていても、そんな単調な動きで勝てる訳がないだろ。佐久間の門下生として、そんな戦い方して恥ずかしく無いのか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬっ!……ふぅ~、そうですね」
また、安い挑発に乗るかと思ったが、息を吐くと気持ちに整理をつけた。
「今からは佐久間の門下として戦います」
小池さんは、初めの様な見下した態度は鳴りを潜め、試合の相手と対峙するかの様に真剣な表情でこちらを見据える。
そこからの小池さんの動きは、力に振り回されている所もあるにはあったが、段々と武術家らしい正確な動きに近づいていき、今では避けるのがやっとだった。
今の小池さんの第三開放は、大体レッドウルフと同じ程度に感じるから、約lv30の身体能力という事になるな。
lv0でlv30の時と同じ身体能力か。かなり強力な強化スキルだ。しかもまだ先がありそうに感じる。
そのlv30の身体能力で戦う佐久間の門下相手に、lvアップの恩恵無しで頑張っている俺も褒めてあげたいくらいだ。
まあ、空間把握能力がチートなだけなんだけどな。
これで小池さんの筋肉の動きで、次の行動を予測出来る。簡単な予知能力と同じ力だ。
まあ、この程度なら、慶も俺と同じ様に対処は出来ていただろうけどな。
「これでも倒しきれませんか。 使いたくなかったけど、第四開放!」
小池さんはしょうがないとでも言う様に第四開放を使う。
すると、小池さんの頭からはひょこっと猫耳が出てきて、腰からは尻尾が生えた。
「猫耳か。そう言えば、獣化だから当たり前なのか」
「そうですよッ。恥ずかしいから人前では使いたくなかったのにッ」
「それは君がまだ俺を舐めていたという事だな」
「そうですね。だから油断せずに先輩を圧倒します」
さっきがlv30だったから、今がlv40くらいに上がっているのかな?
第三開放でもギリギリついていけていたのに、第四になったら流石にこのままでは対応しきれないか。
「それが最終形態か?」
「いえ、後一つあります」
「魔王かよ。なら、俺もそろそろお試し期間終了という事で」
良かった。第十開放までありますとか言われて、lv100相当になられていたら、流石に勝てなかったかもしれない。それはあり得ないと思っていたけどな。
「どういう意味ですか?」
「いや、俺も本気?を出さないと、そろそろ負けそうかなと」
「本気って全力じゃなかったって事ですか?」
「あれ、気づかなかったか? 俺の動き、ダンジョンに入っている割には遅かったと思うが」
「そう言えば」
俺の言っている事に思い当たる節があるようで、小池さんは何かを決意した様な表情をして、何故か靴と靴下を脱いだ。
「まあ、ここまでは唯の腕試し。小池さん次第では今からもずっとそうなんだけどな」
「第五開放」




