技術の差
ダンジョンの会を結成したと同時に今日はお開きにする事を伝える。
「ダンジョンの会って何だよ?」
「いや、これまでは俺と慶の二人だけだったが、今日で一気にメンバーの人数が5人になったからな。勇者パーティとは言えないが名前を付けてみた。名前が気に入らないなら変えても良い。今適当に考えてつけた名前だからな」
「俺は別に良いけど、メンバー集めも難しかったからさ」
まあ、上手く秘密を共有出来るメンバーを集めるのは難しいだろう。
勇者パーティなんて言ったが、メンバーは基本的にこれ以上増やさない方針で行った方がいいだろう。
「私達も名前にこだわりはありません」
「ん」「はい」
全員の同意も取れたので、この集まりの名前はダンジョンの会に決定。
「それよりも今解散ですか? まだお昼の時間はありますよ?」
美月は不思議そうにそう聞いてきた。
「ああ、俺と慶には約束があるからな」
「本当にやるんだな」
慶はそうやって怠そうに聞いてくるが。
「お前が咲良達に余計な事を言わなかったら、やめようと思ってたんだよ!」
慶は俺の言葉を聞いて、咲良の方を見る。
「咲良。光希に言っちゃったの?」
「ん、言ってない」
「すみません。喋ったのは私なんです」
この子は謝る人が違うだろ? 普通俺に謝るよな。
まあ、人を教育するとか言ってしまう様な子だから、そんな子に常識を求めても無駄か。
「凛ちゃんか。そう言えば、口止めしてなかったね」
美月達なら口止めしなくても、俺にその事を伝えたらどうなるかくらい察しがついているからな。
「すいません」
「いやいや、気にしなくても良いよ。これは俺のミスだからさ」
「ありがとうございます」
いや、ミスとか関係無く、俺に悪いと思え!
どうせ俺が時間が経ってやる気が無くなっていたから、焚きつける為にわざとやったんだろうけど。
慶は自分からバラしたと言う筈が、小池さんが俺に話すとは思わなかった様だ。
俺が久し振りにやる気になったから、慶も遊びたいのかもしれない。
「さて、早速始めるか」
「わかった」
俺が勝負を促すと慶は手足を解してながら、屋上の真ん中で俺と向かい合う。
屋上にいる周りの生徒達も雰囲気から、何かをする事は分かり場所広げる様に中央から離れて観戦する位置取りを決め始めた。
ルールは、2つ。
一つはlvアップの恩恵を使わない。
もう一つはスキルをオフにしての機能停止。
この二つなら慶に言わなくても分かるだろ。
「光希、ルールを守れよ」
「念を押さなくても、当たり前だ」
後はいつも通りやれば、怪我は無いだろう。
「じゃあ行くぞ、慶」
「来い、光希」
先ずは俺から慶に肉薄して、顎あたりに拳を放つ。
唯の不良なら、これで気絶まで持っていけるが、慶相手にそれは不可能だ。
慶は最小限の動きで首を逸らして避ける。
俺は避けられてもそのまま攻撃を続けるが全て避けられてしまう。偶に反撃の拳も飛んでくるが、俺も何とか避けて攻撃を続けた。
俺や慶が足を攻撃に使わないのは、蹴りには一撃必殺の威力があるがその分隙が大きいからだ。
俺が慶相手に蹴りを使おうものなら、その瞬間手痛い反撃を受けて負けるだろう。
だから足は基本的にステップや踏み込みなどの攻撃や回避のサポート中心に使っている。
段々と慶の反撃が増えていき、組手の様な攻守の攻防が互角に繰り広げられる。
普段のじゃれ合いでは、先に集中力の切れた方が負けると言いたいが、俺は慶より技術で劣っているので、集中力が切れる前に押し切られる事が多く、これまで正面から戦って勝ったためしが無い。
それに今日は慶の動きが鋭い気がする。
lvアップの恩恵は使ってない筈だから、ダンジョンでの実戦経験が影響しているのかもしれない。
lvの高いモンスターなら、人間には不可能なスピードで動く相手も居るだろうから、それが慶の良い経験になったのかもな。
まあ、それと同時に俺も、神眼を使った神槍の再現、適応の稽古をしたお陰で、体の動かし方が以前より正確になり、攻撃は兎も角回避だけなら集中力が続く限り当たる気がしなかった。
もちろん、俺もエクストラスキルの神眼は能力をオフにしている。
使っていたら流石に負ける事は無いと思う。
ーーー
こうして戦ってみて分かったが、普段慶と戦っている時は手加減されていたんだなと今更気が付いた。
俺はそこまでの差は無いと思っていたが、神眼で慶を見てみると、慶の動きには明らかに余裕があった。
俺は既に身体のスペックを全力で使っているが、慶の身体はまだ余力があり、あと2つはギアが上げられそうだ。
これが無駄の無い動きというものか。
慶の戦っている姿を初めて神眼で見たが、凄く勉強になる。
しかし、ルールはルール。神眼でいつまでも見てはいけないので、神眼を使うのをやめる。
そのまま攻防を続けるが、lvアップの恩恵を使わないと言っても、それは身体能力を抑えるだけで体力までは変えられない。
2人共、疲れもなく集中力が切れそうにも無かった。
慶はギアを上げる気は無さそうで、段々とこれは終わらないヤツだと気づいた。
俺が視線を合わせると、慶もその事に気付いていると分かる。
慶からのアイコンタクトで、観客も居るからクロスカウンターで引き分けに持ち込むと提案があったので、俺もそれに乗る事にした。
そして、俺と慶がタイミングを合わせてクロスカウンターで決めようとした瞬間。
「喧嘩をやめろ!」
そう言って人影が俺と慶の間に入り拳を受け止めようした。
俺は咄嗟に掴まれまいと飛び退き、慶も俺と同じ様に飛び退いていた。
間に入ってきた人影を見ると、それは山田 大地だった。
春休みにコンビニでバイトをしていた奴で、ダンジョンにも入っている事も分かっている観察対象。
そんな奴がいきなりどうしたんだ?
しかも、さっきのスピードは明らかに人間の限界を超えた速さだった。
こんなに周りにギャラリーが居る状態でそんな真似をしたら、ダンジョンに入っている事を宣伝している様なものだろう。
本当に何考えてんだ?




