慶の祖父さん
慶が黄昏れていると、丁度体育館に着いた。
結構、話し込んでいたな。
体育館に入りクラスごとに並んだ。
しかし、慶も災難だな。あの超が3つは付きそうな祖父さん相手に一本を取らないといけないなんてな。
「慶」
「…ん?」
「不思議に思ったんだが、慶の親父さんはどうやって祖父さんから一本を取って現当主になったんだ?」
「ああ、それね。一応うちの家の恥になるんだけど」
「聞いても良いのか?」
「別に良いよ。父さんが祖父さんの体調不良の時を狙い、何とか一本取って現当主になっただけの話だしね」
「確かに恥になるかもな」
「まあ、皆んな知っている事だからさ」
「でも、それは相手があの祖父さんだからだろ?」
「そりゃそうだよ。僅差とは言え俺よりも父さんの方が強いからな」
「だろうな。俺も親父さんに会った事があるけど、十分強そうに見えた」
「体調不良とはいえ、父さんもよく一本を取る事が出来たって、うちでは偉業のように称えられているからね」
あの祖父さんはどんだけ化け物扱いされているんだよ。
「次は慶がその祖父さんから一本を取らないといけないと」
「…ああ、だから憂鬱なんだ。俺も祖父さんが体調不良の時に勝負挑もうと思ってる」
慶はテンション低めに恥ずかしげも無く卑怯な方法を選ぶ。
「祖父さんはそれで納得するのか? 2回目だぞ」
1回目もよく許しを出したと思ったけどな。
「そうなんだよ。1回目は祖父さんも油断していたから「武術家たるもの如何なる時も」って精神で納得しているんだけど、流石に2回目だからな。何なら体調不良の時の方が強いなんて事もあるかもしれない」
「無いとは言い切れないのが慶の祖父さんらしいな。これはもうあれだな」
「どれだよ」
「もう祖父さんが歳で体が言う事を聞かなくなるまで待つしかないな」
「何十年先の話だよ?」
「何十年て、慶の爺さんはもう60歳を超えているだろ? あと五年もすれば今よりもかなり肉体が衰える」
「いやいや、確かに衰えるかもしれないけど。俺と実力が吊り合うぐらいまで戦闘力が落ちるには、あと20年は必要なんだって」
「おい、80の爺さんが今の慶と同等の戦闘力って有り得ないだろ。怖すぎるわ」
「だから本当に悩んでる。そんなに待っていたら当主になる頃には30代後半だからね」
「なら、反則っぽいがダンジョンでスキルを集めてから戦いを挑んだらどうだ? 勿論lvアップの恩恵を使ったら、流石にあの祖父さんでも殺してしまうかもしれないから使えないけどな」
「やっぱり、それしか無いよな。今のところ」
「もう考えていたのか。殆ど反則だぞ。それで認めてもらえるのか?」
「ん~まあ、1回目なら大丈夫かな」
「そんな希望的観測で大丈夫か?」
「いいのいいの、未来の事は未来の俺に任せるから、今は単純にダンジョンのあるこの状況を楽しんどくよ」
それを人は現実逃避と呼ぶ。
「さいですか。まあ、俺も同じ様なものだけどな」
俺だってもしダンジョンが無かったら、将来の事も考えずダラダラと高校生活を送っていただろうな。
俺の生活はダンジョンが出現してから、毎日が色鮮やかになった気がする。
もしかしたら、俺が森や川の様な自然溢れる場所ばかり行くのは、少しでも非日常を味わいたかったからかもしれない。
俺の日常なんて、朝起きて学校に行く。家に帰ったらテレビや漫画、ゲームで寝るまで時間を潰してから寝る。休日は森や川などの人が居ない場所に行って過ごすといった事が普段の日常だ。
でも最近、ダンジョンが出現してからはゲームや漫画には一切手をつけないでダンジョンの事に掛り切りだった。
それほどまでに俺にとってダンジョンは楽しい場所なんだろうな。そうでなければ、さっさとダンジョンの管理を国に投げていただろう。
その内ダンジョンが民間に開放される事は分かっていたからな。
慶とコソコソ会話をしている内に、体育館に全校生徒が揃った。
「それでは全校集会を始めます」
教頭が話し始めたので、一旦慶との会話をやめる。
「急遽開いた全校集会なので、今回は形式的なものは省き、各クラスへの注意喚起を終えたら授業に戻ってもらいます。それでは生徒指導の武田先生よろしくお願いします」
生徒指導の武田先生。下の名前は思い出せないが、今の俺にとっては天敵だ。
まさか俺が面倒だからと人に暴力を振るうような生徒だと思われていたとはな。
実際はそこまでとは思われていないと思うけど。
生徒指導の教師となんて関わると思っていなかったから、武田先生の事なんて名字と顔しか覚えてない。
「分かりました。それでは早速本題に入る。既に知っている者もいるとは思うが静かに聞け、今朝のニュースでダンジョンのモンスターが外に出ている事が確認されたと報道された」
武田から伝えられた情報で生徒達が騒つく。
まだ、その情報を知らなかった生徒も居たようで混乱している者もいた。
「静かにっ! 混乱しているかも知れないが、話を続けるぞ」
武田がそう言うと、生徒達が静かになり話が再開される。
それから武田からダンジョンからモンスターが出てきた理由についてニュースで専門家よる仮説が説明される。
それは俺が予想していた様にダンジョン内の間引きを行なえていないからだと言う可能性が1番高いそうだ。




