家族会議-1
理由が何にせよ死んだ被害者は自分で取ってきたスクロールを使わなかったのが悪い。
人任せにして楽をするからこんな事になるんだ。
自分で取ってきた筈の俺は激痛で苦しんだけどな(涙)
「母さん。死んだ人はどんな人だったんだ?」
「ん? スクロールをお金で買った外国のお金持ちよ~」
「なら良かった」
「良かったって人が死んでいるのよ~?」
「そいつは唯楽をしてスキルを手に入れたかっただけだろ? 死んで当然、とまではいかないが最初の犠牲者がその人で良かったと俺は思うよ」
「どうして?」
「なんでだ?」
俺のあんまりな答えに2人は少し悲しげな表情を浮かべる。
「そうだな。例え話をしよう。まず自分の子供が病気だ、病気はなんでもいい、兎に角現代では治せない病気で、その子供は外出が出来る様な状態じゃない。
そんな時、その病気を治せるかもしれないスキルスクロールが売りに出されたとしたら買ってしまうだろう。
そして、そのスクロールを子供に使ったら死にました。なんて事故が起きたら少し気分が悪い。
これは確かに例え話だけど、無くはない話だと思うよ」
「光希が言いたいのはそんな人物が出る前に前例が出たから良かったという事か」
「うん」
「確かに無くはない話ね~ 私も同じ立場ならスクロールに縋ってしまうかもしれないわ~」
「如何にかして、lvを1でも上げる事が出来れば解決する問題なんだと思うけど、重病の患者がそんな事出来るとは思えない」
「難しいだろうな」
「そうね~」
前例が出てくれて本当に良かった。
実は俺はダンジョンが民間に開放されたら、春にスクロールを上げようかな?と密かに考えていた。
俺の時みたいにlv0でスクロールを使い、EPが無制限な間にスキルレベル上げをさせてやればと思っていたからな。
勿論スクロールを使わせる前に、俺が使った時に失明するかと思うぐらいの激痛があった事を伝えて、使うかどうかは春に任せようと思っていた。
でも俺の妹だからな。迷わず使ってしまっていただろう。
こういう物は使ってしまったら後戻りは出来ない。
俺達兄妹なら思い切って使い、激痛が走っている間は全力で後悔して、喉元過ぎれば得したと涙目で言う様なタイプだ。
だからスクロールを渡してしまう前に前例が出てくれて本当に良かった。自分が上手くいったからと言って春も上手くいくとは限らないからな。
「まあ、前例が出たんだから、これで迂闊な犠牲者は減るだろうね。話を戻そうか」
「ダンジョン関連の話が聞きたいんだったな」
「うん。母さんはもう無い?」
「無いわね~」
「父さんの方は?」
「他にも何か聞いていたかな? あ、一つだけあるぞ。これも会社の部下が言っていた事なんだが、飛び道具ではモンスターにとどめを刺してもlvは上がらないらしい」
父さんの部下はオタクなのかもな。ダンジョンについて興味津々な様だ。
「父さん、それももう知っている。ネットで調べた時に自衛隊で刀を使い戦っている人がいて、最初はその人だけの身体能力が上がった話があったよ」
「もう知っていたのか。ならもう無いぞ」
2人ともまだ知らないみたいだな。
「そうなんだ。まだ広まっていないみたいだね」
「何がだ?」
「元々、俺が話そうとしていた事だよ」
「光ちゃんだけが知っている事なの~?」
「違うよ。これは慶から聞いた話なんだ。実はモンスターはダンジョン外に出られるみたいなんだよ」
こう言う事は伝えといた方がいい。
「ん? それはおかしいぞ、光希。モンスターがダンジョンから出られないのは確認されている」
「そうよ~、ニュースでもそう言っていたわ~」
「ああ、それは知ってる。だから俺も安心していたんだけど、慶の所の門下生が山で実際に見つけて倒したらしい。警察には連絡したそうだから、その内ニュースでも報道されると思うよ」
本当は慶が倒したんだけどな。
「佐久間の門下生がって事は近所なのか?」
「この辺で1番大きな山だよ。だから俺は近い内に民間に開放されるダンジョンに父さんや母さんにも入って欲しいんだ」
「…そうか。こんな嘘をつく必要は無いから本当なんだろう。父さんはあまりダンジョンに興味は無かったが、ダンジョンからモンスターが出てくるなら戦う力が必要になるという事だな」
「うん。最低限のlvがないとモンスターから逃げる事すら出来ない」
「そんな事、私には無理よ~」
「母さん、駄目だ」
母さんには悪いが家族全員のlv上げは必須だ。これからの世の中ではな。
「俺や父さんも一緒に付いて行ってサポートするから頑張って。外でモンスターに遭遇しても逃げられる程度にはlvアップしてもらわないと困るよ」
「そうだぞ、和香。いつでも側に居られる訳じゃない。私も協力するから一緒に頑張ろう」
「………わかったわ~貴方。私も頑張ってみるわ~!」
よし。これでダンジョンが民間に開放されれば、家族全員がlv上げに参加してくれるだろう。
「ねぇ~、春ちゃんには伝えなくてもいいの~?」
「春は駄目だよ。モンスターがダンジョン外に出ているなんて伝えたら、絶対に探しに行くに決まってる。
だから母さんと父さんも春にはこの事は黙っておいて。
どうせ春ならダンジョンが民間に開放されれば、行くなって言っても勝手にダンジョンに行くんだから、確認なんてしなくても大丈夫だよ」
「春ちゃんには黙っておくわ~」
「それが賢明だな。春に黙っているのはいいが、光希お前はどうなんだ。モンスターを探していたりしていないだろうな?」
「そんな事はする必要がないよ。今回の事でダンジョンの民間への開放は決まったも同然なんだから」
「そうか。それならなら良い」
そう、モンスターは探してない。見つけただけだ。
ダンジョンも管理しているが、その事については聞かれていないからな。




