人柱
洗剤の袋をダンジョンの入り口に並べて、スライムが出て来られないように塞いだ。
まあ、はっきり言って俺にはもう洗剤を使いこなせないからな。
大量に余った洗剤の使い道が見つけられて良かった。
でもたったの数袋の洗剤だと少し心許ないな。
どうせならスライム狩りをしていた時みたいに、洗剤を箱買いしてダンボールごとダンジョンの入口前に置いておきたい。
またスーパーマーケットで箱買いをするか。
個数は5、6箱は欲しいとこだが、流石に洗剤だけをそれだけ買っていたら不審がられそうだ。
ここはインターネットの通販で頼むべきか。
あの時は直ぐに洗剤が欲しかったから、近くのスーパーマーケットで買ったが、今はそこまで急いでいないので家に帰ったらネットで頼んでおこう。
やり残した事を終えたので、今度こそ帰ろうか。
森を抜けて自転車の所に着いた。
もう暗くなって人目もないので俺は自転車を担いで走る。
自転車よりも走った方が速くなった。
俺は真っ暗な中でも神眼の暗視で昼間の様に見えている。出来るだけ光の当たる街灯などを避けて暗がりを通って帰った。
ーーー
家が近くなると、担いだ自転車を降ろして乗る。少しして家に着いた。
家に入って直ぐにリビングに行き、父さんと母さんに帰った事を伝える。
「ただいま、今帰ったよ」
「おかえり、光希」
「おかえり~光ちゃん、少し遅かったわね~
そう言われたので時間を確認してみると、既に夜の20時半になっていて、帰ると言った時間を30分も過ぎていた。
「これでも急いで帰って来たんだけどね」
走って帰って来たので、そこまで時間はかかっていない筈なんだけどな。多分考え事に思ったより時間が掛かっていたんだろう。
「晩御飯は温めてあるから、食べてしまいなさい~」
「ん、その言い方だと帰ってくる時間が遅れるのが分かっていたように聞こえるけど」
「光ちゃんって、大体行く場所を言わない時は予定より少し遅く帰ってくるのよね~」
「そうなの? 初耳なんだけど、父さんは知ってた?」
「ああ、光希は自分の事となると注意力が下がるからな」
「そんな事。あるかもしれない」
少し夢中になり過ぎているだけだ。
「まあ、それより温かいうちにご飯を食べたらどうだ?」
「そうだね。お腹減っているよ。母さん今日の晩御飯はなに?」
「中華丼よ~ご飯も炊飯器の中にあるから~」
「分かった。ありがとう」
中華丼を用意して、テレビを見ながら食べた。
ーーー
21時になり見ていたバラエティー番組が終わった。中華丼に使った食器を片付ける。
「そう言えば、春が居ないけど部屋で勉強でもしているの?」
神眼で部屋にいる事は分かっているけど、机で何を書いているのかは分からない。
「ええ~、今年受験生なのに勉強している様子がなかったからやらせているわ~」
「光希と同じ高校に行くなら、もう少し成績を上げておかないと、安全圏とは言えないな」
「まあ、春の学力だとギリギリだからね。春が居ないなら丁度良いや」
「何か話があるのか?」
「いや、2人に聞きたい事かな。ダンジョン関係の話なんだけど」
ダンジョン関係の話を春の前ですると絶対に食いついてくるからな。
今回話す事は聞かせるよりも聞かせない方が良いと判断した。
まあ、その内伝わる事だと思うけどな。
「ダンジョン関係って言われても父さん達は詳しくはないぞ」
「そうね~、ニュースで見た事なら知っているけど、あまり詳しくはないわ~」
「ニュースで何かやってたの?」
「ええ~、私達にはあまり関係無い事よ~。ダンジョンでモンスター?を倒すとドロップアイテムって物が出る事は知っている~?」
「流石にそれは知っているよってそれだけ?」
「いえ、違うわ~。そのドロップアイテムについての話なの~」
「それで」
「そのドロップアイテムの中にはスクロールって言うスキル?って言うのが込められているらしいけど、それを使った人が死んじゃったってニュースで言っていたわ~」
「スクロールで人が死んだ。原因は分かっているの?」
「ニュースでは、そのスクロールを使った人がモンスターを倒した事が無いのに使ったから、肉体が耐えられなかったんじゃないかって変な専門家の人が言っていたわ~」
その変な専門家って何処かのオタクなのか?
自衛隊の話の時もそんな感じの専門家が居たな。
母さんの話は多分lv0の人がスクロールを使ったら死んだって話だろう。
でも、俺は死んでない。
鑑定のスクロールを使った時はまだlv0だったけどな。
なのに何故俺は死んでないのか?
思い付く可能性は、3つ。
一つ目は、ショック死。
俺が鑑定のスクロールを使用した時は、目に激痛が走り痛みのあまり気絶した。
起きた時は本当に失明したんじゃないかと思ったくらいだ。
俺は鑑定のスキルだったから目に激痛が走ったんだと思うが、これが違うスキルなら激痛が走る場所もスキルによって違う可能性が高い。
実際に体験した俺だから分かるが、痛みの位置によってはあの激痛でショック死してしまうのも納得だった。
二つ目は、スキルのランク。
今回の被害者が使ったスクロールのスキルのランク(レア度)が高く、そのランクによって習得難易度が変わるといった場合だ。
lv0の時はEP量も0だ。スキルはその性能によって使用するEP量が増えていく。
スキルによっては億を超えるEPが必要なスキルも確認している。そんな量のEPを0の状態からスキルが使える様に強引に引き出されたら、肉体の方が保たないんじゃないかな?
三つ目は、運。
俺の運が良かったのか、被害者の運が悪かったのか。
この三つの中に正解があるかも分からないが、どの道今は情報が少ない。
この話は新たな犠牲者が増えるまで、答えは出ないな。
「そう言えば、会社の部下が話していた。そのモンスターというのを倒すと、身体能力が上がるとかなんとか。確かlvが上がるとか言っていたな」
父さん。その辺の情報はもうとっくの昔に知っているんだ。




