急いで登校
神槍の再現及び適応の稽古を7時まで続けた。
気が付いたら汗びっしょりになっている。
床はもうほとんど、汗で水溜り状態になっていた。
おかしい?
本当にかなりゆっくりとした動きで、汗を掻く様な激しい動きはしてないんだけどな。
それに汗で足元に水溜りが出来ているのに稽古を終えるまで気付きもしなかった。
集中して稽古をやっていたから気付かなかったのか?
もしそうなら、それ程までに集中して稽古をしないと、神眼の再現適応は出来ないという事か。
流石はエクストラスキルの神槍。
そう簡単には再現適応は出来ないと思っていたが、俺が想像していた以上に神槍の再現適応の難易度は高いようだ。
まあ、それも時間さえあれば、解決可能な問題なので特に支障は無いけどな。
たった4、50分でこの汗の量だ。
今度から稽古をする時には、きちんと時間を決めて終わらせる。
下手したら脱水で倒れるような事になるかもしれないから、気を付けよう。
今後の稽古の事も考えないといけないけど、今はそれよりもこの汗塗れの体をどうにかしたかった。
このままじゃあ、学校に行けないな。
汗で制服がビチャビチャだった。
クローゼットからバスタオルを取り出して、全体的に体の汗を拭いてから、そのバスタオルで足元の汗で出来た水溜りも拭いた。
ワイシャツと制服のズボンの替えと下着を持って脱衣所に向かう。
部屋から出て階段を降りると、玄関に春が居た。
春は靴を履き、もう家を出るところだった。
「お姉ちゃん、汗だくでどうしたの?」
俺は兄だぞ、妹よ。
「暇だったから、ルームランナーで走っていて気が付いたらこうなっていた」
「今からシャワー浴びるの? 今日って入学式があるんでしょ。美月さんや咲良ちゃんが出るヤツ、遅刻しちゃうよ?」
「ああ、これでも結構焦ってる」
「じゃあ、私は遅刻しないようにもう出るから」
春はそう言って玄関から出て行った。
「行ってらっしゃい」
俺は春を見送ると、直ぐに脱衣所に向かう。
汗塗れの服を脱ぎ、さっきのバスタオルと一緒に洗濯カゴに放り込んでおく。
シャワーを浴びて汗を流す。
直ぐに体を拭き、下着と新しく用意したワイシャツと制服のズボンを着る。
部屋に戻り、上の制服とネクタイを着けた。
学校の鞄を掴んで、俺も急いで家を出る。
マジックポーチも稽古に使った槍を仕舞って、鞄の中に入れてあるので大丈夫だ。
自転車には乗らず学校に行く。自転車ではもう間に合わないので、道をショートカットする為に走って登校する。
いつもなら入り組んでいる住宅街から出た所にある一本道を通って学校に行っている。
一本道と言っても少し遠回りした場所の道になっているが、これでも俺の家から学校までの最短ルートだと思う。
しかし、今日はそうも言ってはいられない。
今考えられる最短ルートで進まないと、学校には遅刻して入学式にも間に合わない。
始業式は別にそれで良かったが、美月と咲良が出る入学式だけは遅刻を避けないと。
最短ルートで行く為に、住宅街を学校に向かって真っ直ぐに突っ切る。
真っ直ぐと言っても、ある程度は道も逸れる。
塀や壁を飛び越えたり、坂がスロープ状になっているクネクネした道を飛び降りてショートカットなどを行いパルクールさながらに移動する。
見つかれば不法侵入になる住宅街を、神眼の気配感知で見つからないルートを選ぶ。
完全な死角で誰にも見られない時は、lvアップの恩恵を使い、その身体能力でさらにショートカットして行く。
lvアップの恩恵が使えると言っても、制服を着ているので、あまり派手な動きは出来ない。制服は値段が高いからな。
買い替えになるような無茶は出来ないので、神眼の空間把握能力で感知して制服が何かに引っかかったりなどをしないように注意を払いながら走り抜けている。
そして、住宅街を抜けた所にある森に入った。
この森は小さいが学校の裏山になっていて、滅多に人が入る事が無い場所だ。
時間的に学校へのショートカットを成功させるには、ここを通り抜けないといけない。
この裏山にはこの山の管理人と偶に生徒が入って来るくらいで、普段は人が入ってくる様な場所じゃない。
まあ、小さいと言ってもそれは俺基準の大きさであり、普通の人が闇雲に進めば迷子になる可能性もある。
誰もこの森をショートカットに使おうとは思わない。
普通、余計に時間が掛かってしまうからな。
だけど、今の俺なら神眼の空間把握能力があるので迷うなんて事はない。唯真っ直ぐ裏山を抜ければいいだけだ。
それに人目も無いここならlvアップの恩恵を思う存分使っても人には見つからない。
住宅街では気を遣っていたlv62の身体能力を使い、一気に加速して裏山を駆け抜ける。
神眼の空間把握で木々を避け、一応気配感知を使い人が居ないかを確認しながら走って行く。
もう裏山を抜けるなと思ったら、直前に走るスピードを恩恵無しの状態に戻して、裏山から学校の校庭に出た。
そこから、そのまま走って校門に行き、校内に入った。
昇降口には俺と同じように学校に入る生徒がまだ居たので、遅刻はしていない様だった。
俺は下駄箱で靴を履き替えると、教室に向かった。




