小鬼サンドバッグ
少しして、推定3、4歳ぐらいの子供の気配が俺の半径15m以内に入った。
気配が神眼の空間把握の効果範囲に入って、やっと慶が何故俺を止めたかったのかに気付いた。
空間把握で見たら、子供だと思っていた気配は全然人間じゃなかった。
この気配の主は腰蓑だけでほぼ全裸。顔に幼さは無く、身体は痩せていて、頭部から小さい角みたいな物が生えていた。
簡単に言い表すなら、小鬼かな?
よくファンタジー系の物語で出て来るモンスターの一種だ。昔話でも妖怪として存在していたな。
まあ、迷子の子供でないのなら、それはそれで良かった。
今更、立ち止まるのも慶から見たらおかしいので、そのまま小鬼の元まで近づいていく。
「グギャー!」
小鬼の元まで行くと、こちらに気付いたのかいきなり襲い掛かってきた。
俺は反射的に子鬼の顎を裏拳で打ち上げる。
「グフッ」
「あ、反射的にやっちゃった」
体ごと打ち上がってから落下した小鬼は、何事も無かったように起き上がる。
「光希。相手はモンスターだぞ。油断するな」
「えっと、モンスターって、ダンジョン外に出られないんじゃなかったか?」
「いや、俺も知らないけど。現に今モンスターが目の前に居るだろ」
起き上がった小鬼は俺に向かって襲い掛かってきたので、さっきと同じ要領で顎を打ち上げた。
小鬼はまたもノーダメージで起き上がる。
「凄いな、慶。全く攻撃が効いていない」
「こっちの攻撃が通用しないって事はlv差がかなりあるって事だ。一撃でも受けたら死ぬと思っといて」
ああ、そっか。普通攻撃が効かないって事は=lv差があり過ぎる事になるんだったな。
俺の場合は、ユニークスキルの所為で一回の攻撃で1ダメージしか与えられないだけなんだけどね。
「怖い怖い。まあ、こんな攻撃当たる方がどうかしているけどな」
確かにlvの所為か小鬼の攻撃は素速いが、動きが単調で分かりやすく、その上相手が小柄なので避けやすい。
まるで子供を相手にしている気分だ。
これが熊とかだったら、殆ど面攻撃になり避けるのが難しいが、この小鬼ぐらい小柄なら線か点の攻撃になる。
人間を相手にしているのと変わらない。避けるのも簡単だった。
例えlvアップによる恩恵が無くとも、この小鬼の攻撃を避けるだけなら簡単に出来る。
実際に俺は慶にlvアップの事がバレない様に、身体能力は制限していた。
初めて見るモンスターだし、鑑定してステータスも確認しておくか。
【種族:逸れ小鬼
性別:メス
lv: 21
スキル:噛み付きⅠ 殴るⅡ 蹴るⅡ
HP:4598/4600
MP:82/82 】
見た目通り種族は小鬼だった。
ダンジョンの外にいるから、逸れって事か?
それよりもコイツ、メスだったのか。全然分からなかった。
空間把握でも分からない事ってあるんだね。
いや、目を逸らしていただけか。
lvは21と今までで2番目に高いlvだが、スキルは微妙だった。
何と言うか、lvだけって感じだ。
低レベルのモンスターが何らかの要因で、急激にlvだけが上がったみたいなステータスに見える。
その証拠にMPがlvに対して極端に低かった。このMP量だと大体lv8、9ってところだと思う。
適当に考えるならダンジョン外に出た影響でlvが急激に上がったってところか。
しかし、どうするか?
予想通り俺の攻撃はユニークスキルの所為でほぼ効いていない。普通に倒すのは無理だった。
倒す事自体は簡単だ。
マジックポーチに手を突っ込んで砂状の洗剤を掴み投げてぶつけるだけで、軽く数百万ダメージを叩き出せるんだからな。
でも、それは明らかに異常だし、幾ら攻撃しても倒せない敵を唯洗剤を敵にぶつけただけで倒してしまう事になってしまう。
慶の前でそれをやるなら、確実にダンジョンに入っている事がバレる。
その上凄いスキルを持っていると勘違いされてしまう。
別に慶になら最悪バレてもいいかな?と最初は思っていた。
しかし、このユニークスキルを手に入れてしまってからは、誰であっても俺がダンジョンに入っている事がバレるのは避けたい。
特にユニークスキル固定ダメージ1を取得している事だけはな。
今の低lvな世界の現在なら、世間から見ればチートスキルを持っているだけだ。
しかし、これからどんどんlvが上がっていくにしたがい唯の足枷にしかならないスキルだと発覚してしまう事になる。
別に良いんだよ? このユニークスキルを持っている事自体は。
いや、良くない。
このユニークスキルを持っている事によって、期待や嫉妬される。
その後に、次第にスキルの欠点が判明し、失望、侮蔑に変わるのが物凄く腹が立つ。
勝手に期待して勝手に失望する。
そして、その事を責めるみたいなのが一番ムカつくから、どうしてもこのユニークスキルを持っている事だけはバレたくない!
「逃げるか」
「え⁉︎ 逃げるのか?光希」
「え、だって俺だと倒せないみたいだからさ」
慶の前ではな。
「まあ、そうなるのか? でもこの小鬼、俺達だから対処出来てるけど一般人が遭遇したら死んでるぞ」
「え~じゃあ、慶が倒せば良いじゃん。慶なら俺より強いからさ。こんな奴、熊みたいなもんだろ」
慶のlvなら普通に倒せるだろ。
「俺が熊を相手に勝てる前提で話さないでほしい」
「え?出来ないの?」
「いや、武器が有れば出来るけど」
出来るのかよ!
俺が逃げる事しか出来なかった熊相手に勝てるのかよ。とことん化け物だな。
俺は慶と会話をしている間も何十発と攻撃していたが、やはり小鬼に効いている様子は無かった。
まあ、あの終末の使徒レプリカが俺にしたように、衝撃で地面とサンドイッチしてやれば、ユニークスキルを誤魔化して倒す事も可能かもしれないけどな。
「しょうがない、俺が殺るか。光希は退がっていてくれ」
「おお、慶がやる気になった。じゃあ頑張って。まあ、ヤバそうなら一緒に逃げような」
さて、慶はどうするかな?
これまでは俺にlvアップしている事を隠していたけど、戦うならlvアップの恩恵を使うかもしれない。
lvアップの恩恵を使えば直ぐにでも倒す事が出来る筈だ。
慶は背中に掛けてある袋から木刀を取り出すと、正眼に構えた。




