ダンジョンで記憶力は強化されない
「春は先に帰ってろ。俺は慶と一緒に美月達を負ぶって送っていくから」
「助かる、光希」
「う~分かった」
返事をすると春は長剣を腰のマジックポーチに仕舞うと、家の方向に歩いて帰る。
マジックポーチを装備したまま帰った事に少し引っ掛かったが、まあ同じ家に帰る訳で逃げれる訳でもない。特に問題はないだろう。
さて、俺達も帰りますか。とその前に一緒について来るつもりみたいだな。
「凛、お前ももう帰っていいぞ」
「いえ、一緒に送ります」
「美月達を運ぶのは2人で十分だ」
「それなら私が咲良を背負いますから、先輩は春さんと一緒に帰って下さい」
凛は俺に言われても頑なに帰ろうとはしない。
反省しているのか、美月達を案じているのか、そう言って凛は咲良を背負おうとする。
俺はそんな凛を止めて奪う様に咲良を背負った。
はあ、本当は服に血が滲みている咲良は慶に背負ってもらおうと思っていたが、状況的に俺が背負う羽目になってしまった。
まだ血が乾いてない様で、背中からどんどん血が滲みてくるっ。
「お前の反省は分かったから、今日の所は家に帰れ」
「でも」
「俺はこの後、慶と2人で話があるから、一緒には帰らない」
「分かりました」
そう返事をすると凛は森の中に消えていった。
神眼の気配感知で凛が真っ直ぐ帰っていくかを確認する。
隠れてついて来られても困るからな。
まあ、俺は兎も角、慶相手に尾行なんて無謀な真似はしないか。
いや、案外凛ならするかもしれない。
この前も自分は慶に勝てるとか図に乗っていた。
反省しているならここで言う事を聞かずについてくる様な真似はしないと思うがな。
神眼の気配感知範囲100mを超えて凛の反応が消える。
まあ、凛もそこまで馬鹿じゃないよな。
俺達の信頼を失えば、所詮妹の友達程度の関係でしかない凛が困る事になる。
未発見のダンジョンは、ここにしかない訳でもない。
さて、春と凛もちゃんと真っ直ぐ帰ったと思う。俺達もさっさと帰ろう。
ズリ落ちそうな咲良を背負い直し、慶に視線を向ける。
「帰るか」
「ああ」
慶も美月を背負う。
俺は2人を寝かせていたブルーシートを近くの茂みに隠した。
もう辺りも暗くなっている。両手が塞がっているので、ライトを持ちながら移動するのは難しかった。
神眼のある俺には不要だが、この薄暗い森の中を普通に歩いて帰ったら慶に怪しまれるだろう。
ヘッドライトが有ればいいが、ヘッドライトはマジックポーチの中だ。春に持って行かれたので今はない。
まあ、幸い鞄や邪魔な服はそのマジックポーチに入れておいたので、荷物は気絶したこの2人だけなので楽でがあった。
あ、忘れてた。
そう言えば、マジックポーチなら生き物でも入れる事が出来るんだったな。
自由意志があるので強制的にマジックポーチに閉じ込める事は不可能だが、気絶している状態の今ならマジックポーチから出たいなんて意思はないので、簡単にコンパクトに2人を運ぶ事が出来そうだった。
折角トカゲで検証したのに、何で忘れていたんだ?
いや、見当は付く。
普通は人1人を背負って森を歩くなんて結構難しい事だと思う。足場は悪く、木々の影で月明かりが遮られ視界が悪い。
しかし、モンスターを倒す事によってlvを上げ身体能力が格段に上がった今の俺にとっては、咲良を背負う事は苦でも何でもなくなっていた。
暗い筈の視界も昼間の様にはっきりと見えている。
高い身体能力や便利なスキルを手に入れたのは良いが、その所為で考え無しになるのは避けたいんだがな。
高いlvも特殊なスキルも両方とも隠している事なんだからな。
完全に思考停止していたな。
今は立ち止まってライトの事を考えマジックポーチの事を思い出せたが、流石にアホ過ぎる。頼むぜ、俺。
「光希、帰らないのか」
流石に考え込み過ぎてきたのか慶に声を掛けられた。
「いやちょっと、自分のアホさ加減に目眩がしていた。ショックで」
「病院行くか?」
「そこまでではない。と言うか、病院行って治る問題でもないから。はあ、帰るから後ろから着いてこいよ。俺は暗くても地図の地形が頭に入っているから大丈夫だけど、慶はどうせ覚えてないだろ?」
「すまんね。でも、景色とかで何となく覚えているし、真っ直ぐ進めば帰れるだろ」
「まあ、それはそうだけどな」
確かに一番遠い道を通っても、ちゃんと真っ直ぐ進む事が出来れば、途中で森を横断している道で出る事が出来るけど。
「行くぞ」
「OK。道間違えるなよ」
俺が森を出る為に先に進むと、慶は後ろから着いてくる。




