宝箱の中身
さて、ダンジョンを出ますか。
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺がダンジョンを出ようと歩き始めると、慶に呼び止められた。
なんだ? 俺は早くダンジョンを出たい。
だって背負っている咲良から段々と慶経由の血が染みてきていて、正直俺から咲良を背負うとは言ったが、今すぐにでも咲良を降ろして着替えたい。
いつも一人でダンジョンに入る時は、今の慶なんかよりも数倍は血とか諸々で全身グショグショなのに言える事ではないかも知れないけど、気になるものは気になる。
「そんな状態になるのはお姉ちゃんくらいだよ」
「声に出してたか?」
「うん」
「そうか。そんな訳で、なんだ? 慶」
「いや、中にまだ宝箱があるから光希に開けてほしいんだけど、ついでにそのポーチで持ち運びも頼む」
そう言えば、試練の扉をクリアしたら、宝箱が出てくるんだったな。
俺の時は致命傷を負っていて、それ所ではかったけどな。
「お宝!」
「春、お前のではないぞ」
「え~私もお宝欲しいっ、特にマジックバック!」
春の気持ちも分かる。
凛達は春からしてみれば、今日皆で行こうと言っていた隠し部屋に勝手に入った。
確かに危険を冒して戦ったかもしれないが、それでもそれで隠し部屋のお宝を総取りするというのも、狡いと春が思うのはしょうがない感情だ。
まあ、だからと言って、命懸けで手に入れたお宝の中身を分けろと言うのも難しい。
本当に面倒な事をしてくれたな、凛達は。
まあ、俺が神眼で見た様子では、あの角狼相手に戦ったのは慶が中心の様だ。
傷は折った角による刺し傷ばかりで、凛が攻撃したと思われる様な打撃系の痕は見当たらなかった。
第四開放を使ったの凛なら、あの程度の相手なら問題無く立ち回れる程のスペックはあった。
まあ、慶が戦わせなかったという事かな? 理由は分からないけどな。
それもダンジョンを出てから聞いてみよう。
それはそれと宝箱の件だ。
これは俺には解決出来そうにない。今回は後で慶に決めてもらえば良い。
「と言う事で、春。その話は後でだ。それとまだ開けてすらいない宝箱にマジックバックが入っているとは限らないからな」
「何がと言う事でなのか意味分からないけど。そのくらいちゃんと分かっているよ。あったらいいな~って程度の話」
だから、もしあったとしてもお前のではないと言っているだろうに。
はあ、試練の扉はあの黒い石ころさえあれば、再挑戦も可能で周回も出来ると言えたら丸く収まる事も分かっているんだが、やはり俺が物を鑑定出来る事は言えなかった。
バレる方が後々デメリットが大きいからな。
「はあ、宝箱開けてダンジョンを出るか」
早くしないと咲良を支えている手を離して落としかねない。
そんな訳で俺達は試練の扉の中に戻ってきた。正確には俺と春は違うが。
「さて、見てみるか」
俺が宝箱の前にしゃがみ、透視で宝箱の罠の有無を確認していると、慶が後ろから声を掛けてきた。
「咲良背負ったままで大丈夫か?」
そう言えば、咲良背負ったままだったな。
慶は咲良が心配なのかな?
まあ、即死トラップとかあったら咲良まで巻き添えを食らうかもしれないからな。心配するのは当たり前か。
でも、実ははっきり言って神眼で自分の周りの全ての物を知覚する事が出来る俺と一緒にいる方が、咲良にとっては安全だったりする。
これもまた慶達には言えない事なので、適当に誤魔化そう。
「大丈夫だ。俺はトラップの有無を透視で調べるだけで開けるつもりはないから、やはり宝箱は自分で開けないとな。と言う事で、どうぞ」
そう言って俺は宝箱の前を慶に譲る。
「えっと、罠は無かったって事で良いんだよな?」
宝箱の前に立たされた慶は中身を確認するワクワクよりも罠を警戒してビクビクしていた。
まあ、それはそうなのか?
幾ら武術の達人でも殺気の無い、無人攻撃には対応し難かったりするのかな?
俺にとっては殺気の方が意味不明過ぎて、罠の方が能力的に対処しやすいけどな。
「無かったから開けて良いと言ってるに決まっているだろ。死なれても困るしな」
「そうか。なら開けるぞ」
慶がそう返事をして宝箱を開けると、中には沢山の金銀財宝が、入っていなかった。
まあ、透視で見ていたから分かり易いお宝が入っていない事は既に知っていたけどな。
実際に中に入っていたのは数十本のカラフルなポーションに貴金属が少量、後は剣などの武器数点と部位がバラバラな防具や衣服、そして最後に今回一番のお宝のスクロールが一つ入っていた。
「結構入っているもんだね」
「凄い! 宝箱ってこんなに入っているんだ~! 良いな~私も入りたかったな~」
「今の春のlvだと返り討ち遭うのが関の山だ」
【名前:佐々木 春
性別:女
年齢:14
職業:学生
lv:4
スキル:
HP:207/207
EP:29/29 】
lvだけでも気絶している美月達とは4倍以上も差がある。普通に死にに行くようなものだ。
「そんな事ないよっ!」
「そんな事あるんだよ。もしこのボス部屋が再挑戦可能な物なら、今度連れてきてやる。勝てるもんなら勝ってみろ」
「やってやるもんっ!」
売り言葉に買い言葉で死ぬ気か? まあ、俺が提案した訳だが。
「おい、勝手に約束しても良いのかよ?」
慶が宝箱の中身に視線を向けながらも、呆れた声でに言ってくる。
宝箱に入っている物は気になるのか。
俺もそんなワクワクした気持ちになりたかったな。
「まあ、大丈夫だろう。慶も無傷みたいだからな」
慶は返り血で凄い事になっているが、実の所、傷一つ無く試練の扉をクリアした。
難易度が美月達以上慶未満というレベルなら、俺でも問題無く、春のお守りをしながら十分に対処できる。
「いや、そうじゃなくて、再挑戦可能かって事の方なんだけど」
「ああ、そっちか。そっちはまず、如何やってこの扉のギミックを動かしたのか分からないと何とも言えないが、多分再挑戦出来るんじゃないか」
「その心は?」
「扉のレリーフも大きな杯も消えていないからだな。
宝箱は中身取り出すと消えるんだけど、ここのギミックは試練クリアしても消えてない。
それならもう一度ギミックを動かせたら再挑戦も出来るんじゃないかと思ってな。
あとは勘だ」
まあ、勘ではなく鑑定結果で出来ると既に分かっているだけだけどな。
俺のスライムダンジョンでは怖くて再挑戦なんて真似は、今はまだとても出来ないが、再挑戦が本当に可能なのかを、この低難度の試練の扉で試しておくのも良いだろう。




