R15指定スキル所持
おっと、少し話し過ぎたな。
別に俺がいつからダンジョンに気付いていて探索していたのか、今更バレても特に問題は無い。
しかし、これ以上色々と聞かれると何かしら口を滑らせてしまうかもしれないな。
「それよりも隠し部屋の入り口を春が壊したんだから、もうちょっと警戒しろ」
「あ、うん」
返事はしているみたいだが分かっていないな?
「はあ、隠し部屋がモンスターハウスの可能性だってあるんだぞ?」
「うん。でもモンスターハウスのモンスターって部屋の外に出られないでしょ?」
「いや、アニメや漫画の話をしている訳じゃないんだが。俺が言いたいのは心構えの話であって、隠し部屋は未知の場所なんだから、もっと警戒や緊張を持って行動しろと言っているんだ」
「うん」
「それにモンスターハウスと言っても、春の言っているのは漫画内でのモンスターハウスの事だろ? それを現実と混同するのは今後一切やめとけ。現に雑魚モンスター代表のスライムは圧倒的なlv差か魔法や火でしか対処出来ない本物のモンスターだ」
「はーい」
間延びした返事だな。
折角忠告していると言うのに、真面目に聞いていないのか。
たった一日で緊張感を失ってしまううちの妹には呆れてしまう。
一瞬、今のダンジョン内で妹に説教している緊張感の欠片も無い様な男の姿が頭を過ぎったが気にしない事にしよう。
ここは少し怖い話でもして、春には緊張感を取り戻してもらおうか。
勿論本当の事を話す。嘘の話は後に嘘だとバレてしまうと、その後の忠告についても信用を無くしてしまうからな。
その点、俺は少し手遅れ感があるが、春相手ならまだ大丈夫だと長年の付き合いで把握している。
「他にもトラップには種類がある。俺が実際に見つけた毒針は雑魚モンスターなら20分と掛からずに殺す毒だった。そんな毒を春が食らったなら一時間と掛からずに死ぬ事になるだろう」
「一時間も時間があるの?」
「吞気な事を言っているが、実際1時間という時間は結構短い。毒を食らった自分の身体は思う様に動かなくなるのが普通だ。それにこの毒は未知の毒だから解毒薬なんて物は無い。食らったが最後、死ぬ事実は変わらない」
「ポーションは?」
「そうだな。回復ポーションがあれば、幾らか延命出来るかもな。しかし、実際にはその毒に効果時間があるのかなんて誰も知らない」
俺は知っているけどな。
嘘をつかないとは言っていない。かもしれないの話だ。
実際に中には効果時間が無い致死毒もダンジョンには存在しているかもしれない。
「解毒ポーションは?」
「俺はこれまで100以上のドロップアイテムを見てきたが解毒効果のあるポーションは見た事が無い。
もしかしたらまだドロップした事が無いのかもしれない。それに回復ポーションでも治せるかもしれないが、ドロップ率の高い回復ポーションに解毒効果があるとも思えないんだよな。そんなに簡単に対処出来る様な毒ならトラップの意味が無いからな」
まあ、ダンジョン側がダンジョンに人を招きたいのなら、1階層に致死毒のトラップは設置しないと予想する事も出来るか。
春は半分ゲーム感覚でダンジョンに来ているから、そんな事には感づかない。
俺が言えた事ではないがな。
解毒ポーションがドロップしていないという事実から、毒にも効果時間がある筈だなんて希望的観測には頼れないだろう。
春はこの話を聞けば、緊張感を持たない訳にはいかなかった。
それでも人は何処かに安心感を求めるものだ。
「でも、lvが上がれば」
そうきたか。
しかし、たった一日で緊張感が無くなってしまう様な春にはそんな安心は無い方がいい。
「勿論、lvが上がったからと言って免疫能力が上がるとは限らない」
「うっ」
春は俺の否定の言葉に表情を硬くする。さっきまで抜けていた緊張感を取り戻した。
命を賭けてダンジョンを探索している事を思い出した様だ。
まあ、この出来事がきっかけでダンジョン探索を恐怖してやめるなんて事は俺の妹である春の性格上、有り得ないとは思うが、一応話しておくか。
これは既に慶にも話している事だ。
「まあ、そこまで心配しないでも、俺と居る時は最低限の警戒心を持って行動してもらえれば、俺がどうにかしてやるから任せろ」
「任せろって?」
自信有り気に言い切った兄の言葉に春は根拠は無いが頼もしさを感じた。
そして春は緊張感を維持しつつも適度にリラックスしたダンジョン探索には理想的な精神状態になった。
「俺の初ドロップがスキルスクロールなのは知っているよな」
「うん。聞いたよ」
「そのスクロールのスキルなんだが透視能力のスキルだった」
「透視能力ってエロスキルの? キャッ!」
春は余裕が出来たからか笑いながらふざけた様子で自分の体を隠すように抱きしめてみせる。
「違う。いや、違わないんだが、俺はそんな目的でこのスキルを使った事は一度もない」
「本当に?」
いや、使わなくても空間把握で常に見たくもないのに、視覚で見るよりも正確に範囲内の物は把握出来てしまっているけどな。
最初は両親を空間把握の範囲に入れるのは正直気分は良くなかった。
今はもう気にしてないけど。
「本当だ。それに春に言われるまで、全くそんな使い方を思いつきもしなかったからな」
透視で思い付く活用法と言えば、金庫のダイヤルとか住宅の住人の有無とか別方向の犯罪ばかりだ。
「お姉ちゃんは性欲薄いな~。男なら一番最初に思いつくべき透視スキルの使い道と言ったら、衣服の透視でしょっ」
「アホか」
それにそれだと、真っ先に透視をエロスキルだと連想したお前は性欲が強い男なのかよ。
今はこんな巫山戯た様子の春だが、それでも周囲への警戒心は緩んでいなかった。油断はしていない。
透視能力の話を聞いて、こんな風に巫山戯ているという事は、俺が何を言いたいのかは既に気付いているんだろう。
本当、鈍いんだか鋭いんだか分かり難い。
「もう、気付いているみたいだが俺のこの透視スキルがあれば事前に罠を見つける事が出来る」
まあ、常時発動出来る訳ではないから、宝箱や隠し部屋の様な特別な時で使っていく事になるだろうけどな。と補足もしておこう。
スキルが無尽蔵に使える物と思って欲しくはないからな。警戒心の為にもEPについて把握してもらう為にもな。




