バッドステータス
放課後
ダンジョン前に集合という話だったが、慶と一緒に来た時にはダンジョン前には美月達3人とも既にいなかった。
「美月達はもう来ているな。春はまだか」
ダンジョンの入り口近くには鞄が3つ置いてある事から、既にダンジョンに入って探索に乗り出しているんだろうな。
まさかとは思うが、勝手に隠し部屋に行ったなんて事は無いよな。
今日の放課後、一緒に行くと言っておいた筈だ。
まあ、少し心配のし過ぎだな。待っている間、暇だったから間引きをしてくれているんだろう。
「慶はどうする? 俺は外で春を待つが、慶も中で適当にウルフの間引きしてきたらどうだ?」
間引きは幾らやってもやり過ぎという事はないからな。
「う~ん、そうだな。俺も隠し部屋に行く前に肩慣らしして来るか」
慶はそう答えると鞄を置き、制服からダンジョン探索用の服に着替える。
「あ、そうだ。念の為、隠し部屋の近くも見てきてくれないか?」
「隠し部屋の近くを?」
「ああ、まさかとは思うが、もしも美月達が勝手に隠し部屋に行こうとしていたら止めてほしい。慶にも言ったが罠があるかもしれないから、俺の透視無しで行くのは危険だ」
「宝箱に罠があるって話だったな。分かった。ちょっと見てくる。
まあ、咲良は兎も角、美月は抜けている処はあってもその辺はちゃんとしているから大丈夫だとは思うけどね」
慶はスマホに地図の写真を表示させると、ダンジョンに入って行った。
俺が一番心配しているのは、勝手な行動をしそうな凛なんだけどな。
「頼んだ」
罠が無ければ勝手に探してきても良かったんだけどな。
俺が持っている罠のポイズンスライムの毒針は低lvだと確実に死ぬからな。
【名前:ポイズンスライムの毒針
状態:普
効果:1時間600ダメージ】
俺はその毒針をマジックポーチから取り出して、ペン回しの様に回す。
そうだ。この毒針はウルフ相手に使えるのかな?
今日、試しに使ってみるか。
確かウルフのHPは低lvだと200前後だったから、倒すには十分だろう。
鑑定結果を見る限りだと、1時間に600ダメージ。
雑魚ウルフでも毒で倒すのに20分も掛かる計算になるな。
それは少し面倒と言うか、時間の無駄な気もする。
実験として一回だけ半殺しのウルフに使ってみるか。
俺のユニークスキルならウルフに怪我をさせずにHPを削れる。
これなら純粋な毒によるダメージの検証が出来るな。
ーーー
俺は春を待っている間、ダンジョン前で木の幹に毒針を投擲しながら時間を潰していた。
本当は槍の稽古をやりたかったが、いつ春が来るか分からないので、汗だくになって待っている訳にもいかなかった。
この後、皆で隠し部屋に行く予定もあるしな。
それにしてもこの毒針。
こんなに正確なHPを削るという事は、毒と言うよりは魔法とかの毒属性に分類されそうだな。
毒魔法と言った方が分かりやすいか。
例えばスクロールで毒耐性のスキルを習得したとしよう。
その場合、モンスターや探索者が使ってくる毒魔法や毒属性の攻撃に対しては耐性が働き、効き難い筈だ。
しかし、トリカブトなどの実際の猛毒が付いたナイフで刺されれば、幾らlvが高くとも解毒しなくては最終的に死んでしまうと思う。
ダンジョンの毒は科学的な人体に害のある毒ではなく、毒と言うシステムな可能性がある。
そうすると、この毒針さえ使えば、後から毒物が検出されない完全犯罪も可能になるかもしれない。
俺は特に誰かを殺してやりたいと思った事は無いからな。この毒針を人に使う機会も無さそうだ。
いや、あえて言うなら山田弟か?
殺してやりたいとまでは全然思っていないが、この前の態度を見る限り、面倒ごとを持ち込んできそうなトラブルメーカーの雰囲気がある。
今の所何かをやらかして、俺達に被害を被せてきた訳ではないので、どうこうしようとは考えていないがな。
どうせならダンジョンで、穏便に俺達の前からフェードアウトしてくれないかな? と密かに思っている。
でも、山田姉の方は消えなくても全然良い。
それ以前に、山田弟が居なかったら俺から話しかけて色々と教えてあげても良いとすら思うくらいには出会った時の印象が良かった。
【名前:山田海里
性別:女
年齢:17
職業:学生
lv:2
スキル:
HP:144/144
EP:17/17 】
lvが2。前にも理由は話したが、彼女のlvが山田弟に対して低いのは陸上を真面目にやっているからだろう。
lvアップの恩恵によるズルが許せず、自分の上がってしまったlvの影で苦悩している。
lv1ではなくlv2な処から、生き物を殺す事に恐れや躊躇は多分そんなに無い。
気が使えて真面目、精神力があり、秘密は守る、ダンジョン探索についても戸惑いなく付いて来れそうだ。
そんな山田姉ならダンジョンの会に入れても良いと思える。
それに影で苦悩しているなら、ダンジョンの会に入らずとも解決方法だけでも教えてあげられる。
まあ、俺が彼女なら俺の話を聞けば絶対にダンジョンの会に入っていただろうな。
いや、山田弟が居る限り、そんな未来はあり得ないけどな。




