感覚麻痺
朝食の事は考えていなかったと言うので、マジックポーチから余っているカップ麺を出して振舞う事になった。
「「「いただきます」」」
3人は出来上がったカップ麺を食べ始める。
「美味しいですね。丁度お腹が空いている所でした」
「さよか」
「ん、カレー味が絶妙」
「はいはい」
味の感想なんてどうでも良いから、出来れば礼の一言でも言ってほしかったけどな。
「先輩は食べないんですか?」
「ああ、俺はダンジョンに入る前にもう食べた」
その証拠とでも言うように空の弁当容器を見せる。
「コンビニ弁当ですか。いいですね」
「ん」
凛と咲良は俺がコンビニ弁当を食べた事が知ると、羨ましいとでも言う様にこちらを見つめきてきた。
「二人とも」
その二人を美月が失礼な事をするなとでも言うように諌める。
「コンビニ弁当はもう無いぞ」
俺がそう言うと、凛と咲良はガッカリと落胆し、食事を再開する。
「当たり前だろ。お前達が居るなんて知らなかったからな。カップ麺を持っていた事の方がおかしいくらいだ」
「そうですよ。元々私達が朝食の事はすっかり忘れていたのが、そもそもの原因なんですからね」
「ん」「はい」
美月に叱られて、二人は反省する。
でもカップ麺を食べながら反省されても、全然反省が伝わらないと普通思うよ。
慶の妹とその友達だから俺にも反省している事が辛うじて分かったが、付き合いが短い人だったら絶対に誤解されていただろうな。
ーーー
「「「ご馳走さま」」」
3人は思ったよりも早くカップ麺を平らげた。
「食べ終わったな。そしたらシャワーを浴びに行くか」
3人ともダンジョンを出て直ぐにカップ麺を食べる事になったので、今も返り血を浴びたまま状態だ。
まあ、俺の時とは違って返り血の量も少なく、肉片や毛が付いている訳ではない。
そこまで気になる程の事でも無かった様だ。空腹を優先出来るぐらいにはな。
「先輩も使うんですか?」
「ああ、一応洗い流したとは言え、シャワーを使えるなら浴びたいからな」
洗い流したと言ってもペットボトルから直接水をかぶっているだけだからな。
何時ぞやの時の様に、顔に血が付いたままなんて事が起こらないとは言えない。
まあ、あの日以来、顔だけは落とし残しが無いよう念入りに、ダンジョンで返り血を浴びた後は洗い流している。
凛は少し困った表情をする。
「先輩、言っていませんでしたが、私が返し忘れた鍵は女子シャワー室の鍵だけです」
「えっ、そうなのか?」
まさかと思い、美月と咲良を見ると2人はシンクロして頷く。
「男子シャワー室の鍵は、きちんと兄さんが返してきたそうですよ」
そうなんですか。なら、俺はシャワー室が使えないという事か。
別に良いか。もう体は洗ったんだからな。
少し体が生臭い様な気がしてきたな。
俺は言葉には出していないが折角さっぱり出来ると思っていたのにと、近くの石を蹴って不貞腐れる。
「ん? 光も女子シャワー室を使えばいい」
咲良は何故そんな会話がされているのか分からず、唐突にそんな事を言った。
俺の蹴った石が木の幹にめり込んでしまっているが、今はそんな事はどうでもいい。
「咲良流石にそれは無理が」
「その手がありましたね」
「そうです。別に私達以外が使う訳ではないので大丈夫ですよ、先輩」
俺が咲良の発言を否定する前に、美月と凛は咲良の意見が名案だと賛成した。
「そうなのか?」
そこまで言われると咲良が言っている事も大丈夫な様に思えてくる。
別に他の女子生徒が居る時間帯に使用する訳ではない。
美月達が良いと言うのなら良いのか?
段々とシャワー室を使うだけだからと、感覚が麻痺していく。
この頃、ダンジョンで自分も含めて生き死にを経験してきたから、男女違いのそう言う関係も大した問題とは思わなくなってきた。
女子の了解が取れたからと言って、普通の男子ならシャワー室を使わないだろう。多分。
訂正、もしかしたら目的外使用をする男子は中には居るかもしれない。
まあ、そんな訳で流されてしまった俺もシャワー室を使わせてもらう事になった。
ーーー
学校に着いたが外はまだ薄暗く教師も来ていない。
まあ、こんな時間に出勤して来る教師は居ないか。
シャワー室の前まで来たので、咲良が持っていた鍵でシャワー室の扉を開けた。
「じゃあ、ここで待っているからさっさと済ませてくれ」
「先輩も中に入って大丈夫です。シャワー室はちゃんと個室になっていますから」
そうなのか? 俺は一度も使用した事がないのでよく知らないが凛がそう言うならそうなんだろう。
「分かった」
4人一緒にシャワー室に入る。
シャワー室に入ると、中には脱衣所がありその奥にトイレの様な個室が並んでいた。
成る程、確かにこれなら大丈夫かもしれない。
それぞれ着替えの制服を持って個室に入る。
俺は既に制服を着ているから、もう一度脱いでシャワーを浴びる。
出てくるのは冷水だが、ダンジョンで生き物を殺して興奮している頭を冷やすには丁度良かった。
美月達には、その冷水が合わなかったらしく、可愛い悲鳴が響いてきた。




